第5話つきまとう過去

愛莉を心配した俺は、様子を見に愛莉のクラスの前に来ていた。

愛莉は大丈夫だろうかと、そんな不安が押し上げてくる。

すると、そんな俺の心情を察したかのように、愛莉の声が聞こえてるくる。

「やめて!」

くそ…愛莉に何してやがる…俺が助けてやらねえと…

咄嗟に、俺はドアを開けようと手を伸ばすが、何者かがその手を止める。

……………姫宮!?

「手を離してくれ!」

俺は周りの事を考えず、つい大きな声で叫んでしまった。

確実に中の奴らにも聞こえただろう…

『ガラ…』

ドアが動き始める。

くそ…まあ立ち向かうしかないだろう……よし、かかってこい!

と意気込んだ刹那、体が押し潰されるような感覚になる。

……なんだこれ…


◇◆◇◆◇


少しの間、意識が飛んでいたようだ。

気がつくと、俺は薄暗い体育倉庫の中で寝転がっていた。そして、隣では姫宮がコーンの整理をしている。

以外と真面目なヤツなんだな…

今の現象はおそらく、姫宮が前と同じ転送魔法でも使ったのだろう。

何故なら、まだ床には薄っすらと魔法陣の跡があるからだ。

姫宮は俺の意識が戻ったのを確認すると、口を開く。

「早まってはダメよ。初川君は今周りから少し下に見られている立場なのだから、1人で突っ込んで行っても自爆するだけだわ」

言葉を濁しても無駄だ。誰のせいで底辺に落ちたと思ってるんだよ…

まあいい、今は愛莉の事が最優先だ。

「じゃあどうすんだよ。急がねえと俺みたいに底辺の概念が周りに定着して取り返しがつかなくなるぞ」

すると、姫宮は俺の方を向く。

「一つ気になっていることがあるの」

なんだ、そのかっこいい台詞は…

「なんだ?気になってる事って」

俺の問いを聞いた姫宮は、消石灰を指に付け、床に文字を書き始める。

その様子は何かに操られているようだった。

「何やってんだ?」

「これは意思伝筆といって、他の天使が伝えたい事を感じ取って何かに書き写すのよ。治癒と同じ天使のスキルの一つだわ」

「やっぱり天使凄いな…」

なんて会話をしている内に、姫宮は文字を書き終えた。

そして、とても険しい顔をしながら文字を指差す。

「ちょっとこれを見て頂戴」

見ると、そこにはとても物騒な事が書かれていた。

『桜子、お前にやって欲しい事がある。実はお前達人間の世界に堕天使が入り込んでいるそうだ。その堕天使が堕天する前の階級は天使。つまりお前より弱い。だが問題は、これが分かった事こそ最近だが、天使の名簿を見る限りこいつが堕天したのは大体今から3年前、つまりこいつはもうかなり土地に馴染んでいるという事だ。まあ、これだけじゃ分からないだろうからな。まだ情報を与えよう……こいつは人間を殺して堕天した…とだけ メタトロン』

まあ…確かに怖いけど…これがどう関係しているのか分からないな…

しかし、俺が問う前に姫宮が自ら喋り出す。

「実はこの堕天使には心当たりがあるのよ…とても胸糞の悪いね…」

姫宮は何かとても嫌な事を思い出そうとしているようだ…表情に出ている。

こちらも覚悟して聞こう。

「これに書いている3年前ってあるじゃない。実はこの3年前っていうのは私が天使になった年でもあるのよ」

「ッ!それってメタトロンが言ってた…」

「そう、私の家族が殺されたって話。あの時私はある1人の同級生と付き合っていてね。とても幸せだった…でも、ある日その同級生が家に泊まりに来て……」

姫宮は言葉に詰まる。いつもは強いお姉さまも、こんな時は普通の女の子だ。

「夜目が覚めた時、家族の叫び声が隣の部屋から聞こえて…私、怖くて…」

姫宮の口調はもうお姉さまなんかじゃなくなっていた。

そんな捨られた仔犬のような姫宮を見て、いてもたってもいられなくなった。

「初川…君?」

俺は無言で姫宮を抱き締める。触らないでと振り払われる覚悟だったが、姫宮も俺を強く抱き締めてくれた。

普段なら興奮してしまう所だが、今は姫宮を守ってやろうという気持ちが勝っている。

「このまま話していい?」

姫宮は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁く。

もちろん俺は頷く。なんかこういう時って声を出すの恥ずかしいな…

「怖かったけど…みんなを助けないとって思って……隣の部屋に向かったの…そしたら、廊下で誰かに刺された…」

姫宮は俺から離れて無い胸を押さえる。

どうやら姫宮は愛莉の件から、シリコンパッドを外すようになったらしい。

胸から手を離した姫宮は続ける。

「よく覚えているわ。私の胸から血に染まった羽が出てきていたの…」

痛そうだ…俺も貫通まではしていなくても足に羽が刺さった事があるからよく分かる。

「そして気がついたら、綺麗な森にいて、前には天使、あのメタトロンがいたわ。まだパニックになっていた私はメタトロンに懇願したのよ。何でもするから私達を助けてくれって」

姫宮は徐々にお姉さま言葉に戻っていく。

ああ…可愛かったんだがな…

「そしたらメタトロンに天使になる契約を結ばされた…そして、私だけが生き返った」

成る程…悲しい過去だな……俺が姫宮を守ってあげなくては。

しかし…今の話がどう愛莉と繋がっているんだ…

「初川君、今、この話全く関係ないって思ったわね?」

「いや、そんなことは……ある…のか」

「女の子はそういうのに敏感だわ、話は最後まで聞きなさい。実はそこからが問題で、人間界ではその同級生も殺された事になっていたの」

「………それがどうした?」

「その同級生、私の親衛隊をつくった人にそっくりなの」

「そんな事ある訳ないだろ…たまたまじゃないのか?」

「私も今までそう思ってた。でも、さっき私が書き写した文章を思い出して頂戴」

さっきの文章………

ッッ!

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