異世界アイドルプロジェクト

@sealy

第1話「ごくありふれた出社風景」

時刻は22:00をちょうど過ぎた頃合い。本日は給料も振り込まれる花の金曜日。

人の欲望を呑み込まんとするパチンコ屋ですらちらほらと店終いし始めるこの時間が、俺の出社時間だった。

いつもと変わらない出社風景。乗り継ぐ電車の中には、終電間際まで呑もうと騒ぐサラリーマンや、ブランド物の洋服を両手に抱えた綺麗なお姉さん、いずれもこれから帰路に着くであろう人々が溢れかえっていた。


「(この雰囲気の電車に乗って出社するのが一番だるいんだよなぁ…)」


電車を降りれば駅のロータリーに会社の運営するバスが待っている。

日本全国に販売している大手のお菓子会社――

その工場へと連行

・・

する悪魔のようなバス。

同期一同から先輩社員まで俺達はあのバスのことを“護送車”と呼んでいる。


就活をしていた頃は本当に良かった…。

大手の食品会社に受かったと、両手を上げて喜んだものだ。…こんなに過酷だとは知らずに。

などと文句を垂れても仕方ないので、いそいそとバスに乗り込み始める。


「おはよー、佐々倉」

「ああ、おはよー」


乗り込んだバスには既に同僚が乗り込んでいた。気心の知れた中で、ぶっちゃけ今日の寝て起きる前の午前中はこいつと秋葉原に行って来たところだったりする。


「どうよ、新作のエロゲ?佐々倉の買ってたやつってアイドルものだろ?」

「アイドルものつっても、ちょっと趣旨違うぞ。エルフとか、獣っ子とかがメインのやつだし」

「うわー、獣っ子アイドルとかお前…凄いストライクゾーンだな…。この変態」

「お前に言われたくねーわ!この前等身大フィギュア買うから財形貯蓄下ろそうとしてたの誰だよ」


いつもみたいにバカみたいな会話をする俺達。普通の一般人が見たらドン引きする光景だが、このバスから先はもう知り合いしかいないのだからこれが当たり前だったりする。


「…けどさぁ、さすがにあれは勘弁して欲しいよな…」

「あれって?」

「いや、ほら。食堂の液晶テレビで堂々と深夜アニメ見てる先輩」

「えっ?普通じゃね?」

「てめ、何が好きで飯食ってる最中に声優さんの迫真の喘ぎ声聞かなきゃならねーんだよ!おかげで、食ってたカップそば吹きそうになって咳込んだわちきしょう!」

「まじかよ。なに面白いことしてんだ。そのシーン写真撮らせろよ」

「このやろう、今日の夜勤、絶対辛い現場お前に回してやる…」

「ま、待て、落ち着いて話し合おう。お前のジャンケンの弱さでそれは死亡フラグだ。死ぬぞ?」


そんな馬鹿みたいな話をしていたら、いつの間にか出発していたバスはどうやら工場に着いてしまったらしい。

バスが路肩を乗り上げ、見慣れた巨大なシルエットに迎えられると、今日も俺達は盛大に溜め息を吐きながら仕事に向かうのだった。

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