Chapter 11.2
……雨が降り出していた。
もう少し遅かったら網に仕込んだ秘薬が流れ出してしまったことだろう。
網に触れた”M”は麻痺してしまい、網ごと地面にひきずり下ろされた。
本当に勝ったのか?千堂の頭に疑念がよぎる……。
もっとも”M”が無防備であったのは当然かもしれない。”M”を無敵たらしめていたESP能力は千堂のESPキャンセルによって完全に封じられていた。
アンチESP……世界にもまれな特殊能力こそ千堂の能力なのである。
千堂自身は見た目は常人とかわらない。千堂自身が他人の心を読んだり、石ひとつ念動で動かせるわけではない。
しかし、相手が超感覚……ESPの持ち主であった場合、相手のすべての能力をキャンセルしてしまうのだ。千堂が意識を集中すればA級ESPの持ち主である亜美でさえ普通の少女となってしまう。
”M”が地面に落ちた瞬間、御手洗がハンディカメラを構えて飛び出した。
「やったぞ!……ついにチュパカブラを捕まえた!」
千堂が御手洗を止める。
「よせ!”M”はまだ無力化していない!!」
『この網にしかけられているのは……無力化の秘薬だ。
そうか、こいつらは”本家”のさしがねか!!』
理性は完全に野獣化しているのに人間としての知識は残っている。
ここが”M”の本当の恐怖なのである。
雨が網にしみこむ……秘薬が流れていく。千堂の懸念が叫びとなった時、網が強引に引き裂かれた。そして、次の瞬間、”M”は御手洗に襲い掛かった。
『無駄だ! このために秘薬に対する耐性を鍛えたのだからな!! 』
「!!!」
千堂は戦慄を覚えた。
あの秘薬の乱用は意図的なものだったのか!?
御手洗に”M”が噛み付こうとした瞬間、カルロスが突進し御手洗を跳ね飛ばす!カルロスに”M”が噛み付く!! 長い1秒、……サラが”M”の顔面にタックルし引き離す。サスカッチも素手でねじ伏せるという噂のカルロス夫妻の身体能力と”M”の対決だが……。
高坂が叫ぶ!
「全員、目をふさげ!!」
”M”の目の前に高坂が手をかざす。今まで素手に見えていたのだが、いつの間にか閃光弾を持っている!! 高坂は敵の隙をつくためにあらゆる技能を修得しているのだ。もちろんマジックも。ギリギリの戦いでそれが生きた。
すさまじい閃光があたりを包む!
”M”は叫び声をあげ、目をふさいで後ずさる。
夜間、”M”の目は赤外線暗視鏡のように高感度になっているのだ。
そこに閃光弾をまともにくらったのだからたまらない……。ESPも使えず目も見えない。
”M”の感覚は剥ぎ取られた!
やはり、秘薬の影響が残っているのか得意の跳躍ができないようだ……勝負は今しかない!
千堂は”M”に向かい大型の銃を構える。発射!タバコ箱大のカートリッジが”M”に突き刺さる……と同時に閃光!!
千堂スペシャルと呼んでいたこの銃は改造型テイザーガンである。カートリッジの2本の端子が相手に突き刺さると、100万Vの電圧がたっぷり5秒、敵に加わるのだ。
通常のテイザーガンと違うところは、連射できることである。小型のスタンガンを弾がわりに打ち込むイメージだ。
しかも、何物も通さない”M”の皮膚を考慮して、今回は導電性の粘着剤を併用している。モリ状の端子が”M”に刺さらなくとも、”M”をのがすことはない。
「毒は効かなくても……電撃はそうはゆくまい!?」
動物の神経の刺激の伝達は電気によって行われる。”M”の細胞が 管 によってどれほど変容しようとも、人間の細胞をベースにしている以上、神経伝達の仕組みは同じはずである。
千堂が”M”の体の正中線にそって5発のカートリッジを打ち込む!!
5発目で”M”の動きが鈍くなった。すかさずカートリッジを変え、連射を続ける。
”M”は自らの顔面を押さえていた手を振りほどき、千堂に向かってダッシュする。
7発目が胸に!8発目が顔面に!9発目が目にヒット!
「とどめだ!」
叫び声をあげる”M”の口の中に10発目……150万Vのカートリッジをぶち込む!!
”M”の動きが完全に止まる!!
千堂が飛びついて、犬神の本体である『管』を分離する秘薬を”M”の口に流し込むのと、”M”の爪が千堂の胸を引き裂くのが同時だった。
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