Chapter 12 終章
高坂が叫ぶ。「千堂っーー!!!」
千堂に折り重なって倒れる”M”は千堂になにかささやいたようだった。
”M”が倒れると同時に”M”の口から真っ赤な線虫のようなものが飛び出した。
長さ30cm……まるで巨大なミミズだ!
千堂の口に入り込むかのようなそぶりを見せる『管』の頭をかけつけた高坂が
踏み潰す。
”M”の亡がらが徐々に人間の姿に戻っていく……。
千堂は横たわったまま高坂に話かける。
「……カルロスは大丈夫か?」
「大丈夫だ。1リットルくらい血をとられてもカルロスなら心配いらん。もう口を聞くな」
高坂の指し示す方にサラにささえられたカルロスがいた。よろよろしていたが……大丈夫のようだ。
ヘリの音がして、崎山と美亜が駆けつけてくる。
崎山は千堂の姿を見るなり、
「こいつはいかん! ヘリの医療セットを……。あと医者の手配を! 輸血しながら搬送だ!」
崎山があわててへリにもどり自衛隊員に指示をだしている。
御手洗が涙を流しながらハンディカメラを構えている。
……こいつずっと撮っていたのか。たいしたヤツだ。俺もカメラマンだったんでつい、こいつに甘くなっちまった。
千堂が高坂に話しかける。
「おい、タバコをくれ……」
「こんなときに、おまえ……」
「くわえるだけでいい」
高坂は千堂にタバコをくわえさせたが、すぐに落としてしまった。
「おいっ千堂、いかん、意識が……」
そのとき、千堂の耳元で叫び声が……。霧森優子だった。
「いやああああああぁーーーーーーーーーーーーーー」
涙をぼろぼろ流しながら千堂にすがりついて抱きしめる。
「……千堂さん。いやだ、いや……死なないで!!!」
振り続ける雨の中、その場の全員が呆然とこの光景を見ていた。
ただ一人、高坂だけがすべてを知っていたかのように痛ましそうに目をふせる。
……美亜は衝撃に倒れそうだった。
ROUでも千堂のアンチESP能力と優子自身の”ジャミング”のせいで、……もちろん仲間の意識を盗み見しようとしたことなどなかったが……優子の心を読んだことなどなかった。
ところが、千堂の意識がとだえ、優子の”ジャミング”が崩れた今、優子のむき出しの心が美亜のなかに流れ込んできた。
「この人は千堂さんを愛している!」
「そのために、千堂さんを危険な目に合わせないために、Jチームの介入を禁じて……そのためだけに特殊部隊を自ら率いて”M”を自分ひとりで倒そうと……千堂さんを愛しているから……千堂さんのためだけに……誰よりも愛しているから。母よりも、私よりも……」
みじろぎ一つしない人々。
雨だけが音を立てて降りつづく。
いつまでも……いつまでも、果てしなく。
いつまでも……。
「黒き獣 チュカパブラ編」(了)
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