Chapter 11.1

闇。


……最初は闇があるだけだった。


しかし、彼の目は人間と違いどんな闇をも見透かすことができるのだ。


彼は激しい空腹感に襲われていた。

目覚めてからというもの、常に満たされぬ空腹感に……。


彼は本能の赴くまま行動する。

その動作はまるですべてが計算されていたように優雅でムダがなかった。

まるで踊りを踊るかのように音もなく獲物の背後に忍びより……そして、生き血をすするのだ。


ねぐらから出て、森を進む。枝から枝へ難なく移動するさまはまるで体重がないかのようだ。


人間の匂いがする。


……三日前には少女を餌食にした。


彼にとって人間を襲うのも他の動物を襲うのも全くかわらぬ行為なのだ。

とりあえず飢えを満たすための行為にすぎない。


人間の姿を補足した。

……しかし様子が変だ。本能は危険を感じている。


一瞬、躊躇したのだが、飢えを満たすことが先決だった。

自分は食物連鎖の頂点にあるのだ……何を恐れることがあろう?


しかし木の上から跳びかかろうとした瞬間、たたずんでいた人間がこちらを見るなり、走りはじめた。


逃げられる!狙った獲物は逃がさない!!


彼はすぐさま地上に跳びおりて、まさに後を追おうとした瞬間、動けなくなっていた。


自分のいる巨木ごと、なにか網のようなもので覆われてしまい、ギリギリとしめつけてくる。


取り囲まれる彼の耳に人間どもの歓声が聞こえる。

人間ども……どこに隠れていたのか?


「やったぞ!」


彼の眼前に男が立つ。


「……ついに チュパカブラ を捕まえた!」

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