Chapter 10.2

夕暮れ時……自衛隊のヘリの音が遠くに聞こえる。

千堂たちのいる仮設宿泊施設には、通信機が備えられ自衛隊のヘリといつでも

交信できるようになっている。


御手洗がぼやく。

「今日で封鎖3日目だぞ……。明日から雨だそうだ。今日中に仕掛けないとダメなんじゃないのか?」


崎山が応じる。

「……そろそろ飢えてくるころだな。あの体じゃエネルギー消費も激しいだろう。”M”は出現からほぼ連日、犠牲者を餌食にしている。3日も獲物を襲わなかったことはない」

崎山は『UMA対分室』の資料に目を通しながら言う。 

「”M”も今のところはおとなしくしているが……別に自衛隊が怖いわけじゃない。この前、ESPが使えなくなったんで警戒しているんだろう。”M”を倒せそうな威力の武器は本来、対人用じゃないから、本気になった”M”にあてるのは難しそうだ」


千堂は御手洗の方に向き直り、おもむろに口をひらく。

「御手洗、あんたには感謝している……。だが、ここまでだ。これからは命がけだ。あんたは山をおりろ」


「ちょと、まってくれ。ここまできてそりゃないだろう!!」

御手洗が必死の表情で食い下がる。


「一般人の立ち入れることじゃないんだ。あんたを守りきれる自信はない」


「あんたまで、あの女指揮官みたいなことをいうのか!?」

泣かんばかりに土下座する、御手洗。


御手洗はこの3日間、霧森優子の執拗な退去勧告を受けていた。それを千堂の許可を得ているの一点張りでしのいでいたのである。

そこへ、パトロールに出ていた高坂とカルロスが帰ってきた。

高坂が戸口で声をあげる。

「おい、今帰ったぞ」


カルロスがスペイン語でうなる。

「おい、こりゃどうしたんだい?」


御手洗のただならぬ様子にカルロスは興味深々だ。

千堂が高坂振り返る。 

「美亜は?」

 

「サラと一緒にまだがんばっている。”M”が動く気配はまだない」


崎山は腕組みしながら、 

「チュパカブラは本来、夜行性だ。”M”が警戒しているとなればやはり、闇にまぎれて動くだろう……。それにそろそろ、美亜も限界だな」


美亜はESP能力で、”M”の位値を探知し、千堂たちに知らせてくる。

”M”より、ESPの能力範囲が広いので、”M”の探知圏外から、”M”を補足できるのだ。

万一、”M”が移動を始めたときに対処するため、自衛隊のヘリの中で探査を行っている。

時折、30分ほど仮眠をとるだけでこの3日間、不眠不休で”M”の動向を探っているのだ。


”M”が自衛隊に接触するようならば、ただちに千堂たちがヘリで駆けつけることになっている。


千堂は決意した。 

「よし、今夜作戦決行だ!」


崎山から御手洗の事情を聞いたカルロスが、スペイン語で千堂にまくしたてる。

崎山が通訳する。

「友のたのみをなぜ聞いてやらないんだ? だそうだ。俺が面倒見るから連れて行け! といっとるぞ」


千堂はしばらく逡巡していたが、

「負けたよ……。わかった」


カルロスと御手洗が喜びのダンスを始める。

高坂があきれて見ていた。

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