Chapter 10.1



美亜を吸血し、無防備となった”M”の顔面を優子のライフル弾が命中した。

”M”は引き裂かれるように美亜の体から離れると、再び腕を顔にまきつけ、

跳躍した。


『ばかめ、おとなしくしていれば、あとわずかばかりは長生きできたものを……

今、すぐ引き裂いてやる!! ……むっ!?』


”M”は跳躍したまま優子を探知しようとしたが、異変に気がついた……。

今までひっきりなしに聞こえていた、人間の思考が、急速に消えていく。

”M”が着地したときには全く、人間の思考が聞こえなくなっていた。

これでは優子を襲うことができない。

腕を解いてあたりを確認する。すかさず、優子とサンダー部隊の生き残りが顔面を狙撃してきたので、再び腕で頭を覆ったが人間が消えてしまったわけではなかった。


どういうわけか、”M”のESP能力が消えかけているのだ……。


『残念だが、形勢は不利だ。

少女を餌食にしたことで、よしとしよう。

……撤退だ』



”M”はバリケードに向かって連続跳躍。ライフルの一斉射撃が”M”を襲った

が、バリケードの向こうに着地した”M”は一気に全速力で山頂に向かって

去っていく。


それを見送る白川美亜がかたわらの警官の死体に語りかける。

「身代わりにして……ごめんなさい」


白川美亜は”M”が襲い掛かったとき”M”に自身が襲われたイメージを念話で

たたき込んだ。そしてとっさに体を入れ替え、死んだばかりの警官の死体が”M”の餌食になるように仕向けたのだ。”M”は相手が少女であるため油断していた。そして、まんまと美亜に誘導されてしまったのである。


優子が美亜を振り返る。

美亜の隣に千堂が立っていた。向こうから駆けてくるのは高坂、さらにその向こうには崎山、そして、その向こうには、

「元SAチームのカルロス! ……いつの間に来日したのだろう?」


だが、次の瞬間には優子は千堂に向かって、例の切りつけるような口調で詰問する。

「あなたたちの介入は禁じたはずです! また、この区域は立ち入り禁止のはず。すぐにこの区域から出て行きなさい!!」


千堂が答える。 

「今の戦いでわかったはずだ。君のやり方ではヤツに……チュパカブラと化した犬塚伊佐夫には勝てない!!」


「……あなた、それをどこで……?」

優子は千堂がすでにチュパカブラ ”M”の正体を知っていたことに少なからず

動揺した。先に目をそらしたのは優子だった。

 

「彼を倒すあてがあるの?……あなたの能力=ESPキャンセル=は有効かもしれないけど、それだけでは勝てない」

 

「俺に考えがある。それには君の協力が必要だ」

 

「……協力!?」

 

「この山を封鎖したい。今までの封鎖はマスコミや一般人をシャットアウトするためのものだったが、今度は違う。やつを追い詰めるため、やつをこの山に封鎖するんだ。君の立場なら、首相にも進言できるはず……」

 

「あなた、まさか……」


「そう、自衛隊の出動が必要だ」


それが何を意味するかは千堂にもわかっている。日本という国は警察官僚と自衛隊の仲が悪い。縄張り意識のためだろうか? 

警察官僚である優子が自衛隊の協力を仰げば、庁内での立場が悪くなることは自明のことだ。


優子は意を決したように顔をあげた。

「わかったわ。やってみましょう」


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