Chapter 9.4

サンダー部隊員は跳躍した”M”の落下を予測し、即座に迎撃体制をとる。

だが、着地した”M”は次の瞬間、再び跳躍した。

優子 はあせった。

「連続跳躍!? 跳躍の連続で移動を行われたらやっかいだ」


”M”は思った。

『これならば俺の正確な位置をとらえる事はできまい?』

『こいつらは思考を隠す事ができるようだ。だが、例え心を読むことはできなくとも、やつらが思考をしている限り、俺はやつらの位置を捉える事ができる……』


悲鳴があちこちで上がり始めた。

”M”は銃弾を避けるため、両腕で顔面を完全に覆っており、何も見えないはずなのだが、隊員の正確な位置がわかるようなのだ。

優子は覚った。

「しまった。”M”は私達の思考を感じることができる! 指向性アンテナで電波の発信方向を把握するように思考の発信源を探知できる……のか!」


隊員たちが、次々と”M”の牙と足を使った攻撃に倒れていく。すでに何人かはパニックに襲われ、『ジャミング』を保つことができなくなっているのが見て取れる。

これでは、いくら充分に訓練させたとはいえ、実戦経験の不足している彼らに期待するのは不可能だ。


優子が叫んだ。

「サンダー部隊、フォーメーションDで全員後退!!」


フォーメーションDは対毒ガス専用の防御体制を示す。

こうなれば、頼れるのは自分のみ……優子はグレネードランチャーに万一のため持ってきた特殊弾=マスタードガスをベースにさらに毒性を強化したものが仕込んである=をセットした。

実はこれを使用する許可はおりていなかった。

いかなる理由があろうとも毒ガス兵器を国が公式に許可することはありえないし、これは毒性が強すぎて、優子の人脈をもってしても事前の黙認を得ることも難しかった。


一応、防毒マスクをつける。

戦闘服も対毒ガス戦用ではあるが、あまり防御効果は期待できない。

そもそも、これほどの危険を冒しても、果たして”M”に特殊弾が通用するのか……?

しかも、周りの半死半生で生死の境をさまよっている隊員や警官をすべて巻き込むことになるだろう。


しかし、優子の覚悟は決まっていた。

「なんとしても”M”を倒さねば!! 例え刺し違えても、『彼ら』が来る前に。そして……」


目の前で地響きがした。

……”M”がいた。

この時、優子は不覚にも自身の『ジャミング』が崩れかけていたのに気がついた。

”M”は隊員ではなく、優子を優先に抹殺することにしたのだろう。

完全に不意をつかれた!!

今、まさに”M”が優子に噛み付こうとした瞬間、澄んだ声があたりに響き渡った。


「おやめなさい!!」


”M”が思わず動きをとめ、声の方向を見つめる。

優子も思わず振り返った。

「あなたは!?」


一人の少女が県道からこちらの方向に歩いてくる。

白川美亜である。

先ほどの『声』は発声と同時にESPによる念話を併用したのだろう。

”M”の注意は美亜にうばわれていた。

瞬間、うなり声を上げたかと思うと跳躍を繰り返し、美亜に襲い掛かった。


そして美亜をはがいじめにすると、

血液を吸い始めた……。


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