Chapter 9.3

大久保に警官の撤退を命令した後、霧森優子は『ジャミング』を行いながら、”M”に近づいていった。


『ジャミング』とはESP能力者=読心能力者=に思考を読まれないためのテクニックである。

表層意識にダミーの思考を流し、それより深いレベルの意識で真の行動を行う。UMAの中にはESP能力を持つものも珍しくない。

彼らは、その能力ゆえに人間をさけ、UMA(未確認生物)たることができるのだ。ROUのアタッカーには必修のテクニックである。

サンダー部隊=UMA対分室特殊部隊=メンバーは『ジャミング』の充分な訓練を積んでいた。

したがって”M”は隊員の思考を読むことができず、誰がどのタイミングでねらってくるかがわからない。

今、SATの銃弾を難なくかわした”M”が追い詰められている。やはり、”M”には予想通りESP能力があったのだ。


優子の表層意識は幼いころに見た海の思い出である。”M”が優子の思考を覗いたとしても、美しい、夕日の海の風景しか見えないだろう。

その裏で至近距離からグレネードランチャーで”M”を狙うつもりだとは予想はできないはずだ。

頭部へのライフル弾による一斉攻撃の中、さすがに”M”は立ち往生といったところだ。

もっとも、使用しているのはただのライフル弾ではない。

ボツリヌス、テトロドキシン……他、数種類の猛毒を仕込んである。かすっただけでも即死のはずだが、全く毒物に関しては効果がないようだ。糜爛性の毒ガスの使用も考えたが、味方に対してのリスクの割には効果がのぞめない。


優子が”M”の後ろから近づいていく。

”M”は目への銃弾の直撃をさけるため、頭を抱えた状態だ……優子の接近に気がつかない。

グレネードランチャーを”M”の頭部に狙いをつけ、引き金を引く……40mmグレネード弾が”M”の頭部を直撃!!

”M”がグラリとよろめいた……やったか!?だが、次の瞬間、”M”はクルリと振り返り、両腕で頭をかかえたまま……優子の方に振り返った。”M”の口がまるで笑うかのようにゆがむ。


次の瞬間、”M”は跳躍した。

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