Chapter 8.1

犬塚千の言葉によって、犬神=チュパカブラ の秘密が明らかになっていく……。


千堂は納得顔だ。

「なるほど……チュパカブラが死体さえ見つからないわけだ……」

変身の元である『管』が死んだとしても、チュパカブラの死体は本来の宿主である、犬やコヨーテに戻ってしまう。

「チュパカブラが吸血するのは、何よりもこの蟲が液体しか消化できないからか。寄生している 管 の食性が関係していたとは……」

犬塚千は説明する。

「はるか昔は 管 を人間につかせ 犬神憑き となり、戦や荒事に使ったものだと聞いております。秘薬を使えば、人間から生かしたまま 管 を取り出すことができるのですから、ひらたく言えば、必要なときに犬神になれる……といったところでしょうか……」

御手洗があきれてつぶやいた。

「本当にそんなものがあったとしたら莫大な価値がある。軍事産業にでも売れば……いくらになるか想像もつかん」

「ですが、人に 管 を付かせて 犬神憑き にするなど……私の代では危険すぎて行ったことはありません」

「『管』とは何百年も飼いならして家畜化した蟲……宿主に対する悪影響は全くないとは申しませんがかなり低くなっております。それでも危険な業であるのに、ましてや野生の蟲をいきなり使ったとなれば……」




霧森優子と内調の対UMA特別部隊=サンダー部隊=をのせたヘリは一路、西に向かっていた。

”M”はあとわずかで、大久保の最終防衛ラインに達しようとしていた。

防衛ラインをさけるそぶりも見せず、真っ向からラインに向かっているのは、警官達を単なる餌と認識しているためであった。 

「私達が到着するまで”M”を足止めできるかしら……」

優子の心はあせり始めていた。




一台のオープンカーが猛スピードで突っ走っていく……。

崎山とカルロス&サラのSAチームだ。

「……オープンカーを用意して正解だったわい」

屋根付きの車だったら、後ろの二人組みは頭がつかえてしまうところである。

さらに後部座席の二人組みの不満はつのったところだ。

カルロスがどなる。

「サキヤマ、また飛行機に乗るのかい!?」

サラはうんざりした様子だ。   

「シャワーをあびたいんだけれど……」

崎山もどなりかえす。

「はやくしないと、T空港行きの飛行機がでてしまうんだ」

と、今度は携帯にどなりつける。オープンカーのため、風を切る音で携帯の声が聞き取りにくいのだ。

「……で、どこまで聞いたんじゃっけ?」

電話からするのは千堂の声だ。

「野生の犬神は危険……までです」

「そうだった。……なるほど、それでわかった」

崎山はひとりうなづく。

「ある種の寄生虫は、宿主の行動にも影響を与える事ができる。犬神と化した人間は多かれ少なかれ蟲からの影響を受けるということなのだろう……」


「おそらく、犬塚伊佐夫の精神は完全に『野生の犬神=チュパカブラ』に乗っ取られ、理性などカケラも残っていないだろう」

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