Chapter 7.3


広い大広間に犬塚千の声がひびく。


「私の代まで当家は犬神使いを生業としておりました」

「……おそらく、あなたがたのお話の怪物は『野生の犬神』でしょう」

「あなたがたのお話を聞いて思い出しました」

「3年ほど前になりますか……分家筋にあたる伊佐夫が犬神の取材と言って、犬神の話を聞かせてほしい……と言って来たことがあります。もちろん、断ったのですが、TVクルーとやらをつれて来て、強引に屋敷内に入ろうとしたことがあったのです」

「今、思えば犬神の秘密を手に入れたかったのでしょう。ですが、私の代に犬神の元である『管』はすべて処分致しました。当家をいくら調べても犬神は手に入らない……のです」


あまりの話に言葉のでない一同だったが、千堂が口を開いた。

「犬神? それは一体、どういう……」

「『管』と呼んどりますが使い魔、一種の蟲……を犬に付かせると犬神となるのです」

「伊佐夫も分家とはいえ、その、チュパカブラ? とやらをみて、野生の犬神と見破ったにちがいありません」


高坂は質問した。

「チュパカブラが野生の犬神と同じものとして……彼は一体何をしようと……?」

「おそらく『管』を取り出そうとしたのでしょう」

「……その、犬神の 元 になるものですか?」

千はためいきをつきながら行った。

「当家には犬神を操るための、秘薬か伝わっております。犬神を眠らせる薬、そして犬神から『管』を取り出す薬……伊佐夫もいくつかは秘薬の作り方を知っていたのでしょう」


千堂はうなづいた。

「なるほど……その秘薬とやらを使ってチュパカブラを眠らせ、日本に運びこんだのか……」

「管を取り出す秘薬を調合するのは高等な技術を必要としますし、伊佐夫には初めての試みであったはず……じっくり日本で行いたかったのでしょう。」

御手洗が口をはさんだ。

「しかし、やつの目的はなんなんだ? 犬の死体があったからにはその『管』とやらの取り出しに成功したはずだろう?!」

千はしばらく押し黙っていたが、口を開いた。

「『管』は人にも使えるのです……。それを試したに違いありません」






優子は”M”のDNA解析結果を見ていた……。

崎山は解剖学、工学、超心理学の権威だが、分子生物学は専門ではない。

したがって、この事実に千堂達が気が付くのは相当後のことだろう。


”M”のDNAは人間のものであった。

……おそらくは犬塚 伊佐夫のものだろう。


「人間がチュパカブラ化するなんて一体……? しかも細胞自体は人間そのものだわ。ウイルスなどによる変異ではない……」


”M”は日本に持ち込まれたチュパカブラとは別物?……ならばこのパワーアップも説明がつく。


通信回線が開く。画面にアレキサンダーが映った。

「サンダー部隊は準備完了だ。私が同行できないのが残念だが……」

アレキサンダーはROU本部崩壊の時のケガの後遺症から歩行は支障ないレベルだが、走ることができなくなっていた。

優子は微笑んだ。

「気にしないで……。吉報を待っていてちょうだい」


窓から続々と隊員がヘリに搭乗して来るのが見える。

「全員搭乗次第、直ちに出発よ!」


優子は指示を終えると少し考えた後、大久保に連絡を取り始めた。

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