Chapter 7.2

着物に足袋姿の女性を案内に、千堂、高坂、御手洗の三名は長い廊下を歩いていく。

御手洗はぼやいた。

「ずいぶんと歩くんだな」

屋敷内は撮影禁止……とのことで、ハンディビデオを取り上げられた御手洗は不満そうだ。

さらに何か不満をのべようとしたのだが、案内の女性ににらまれて黙り込む。

高坂があたりを見回しながら

「しかし、また広い屋敷だな」


「この部屋にお巫女様とお頭様がいらっしゃいます」


開かれたふすまの向こうは大広間だった。入り口と反対側に床の間があり、簡単な祭壇があり、


その前に少女と老婆がこちらを向いて座っている。


千堂は少女を見た。

「美亜!」

少女が口を開いた。

「千堂さん!……あなたは?」

御手洗は軽く会釈しながら

「御手洗です。よろしく」神妙な面持ちで御手洗が口を開く。

高坂と同じく、美少女に弱いようだ。

一人、無視された高坂が軽く落ち込んでいる。


一通り、会話がおさまったのを見計らって老婆が口を開く。

「みなさま、ようこそおいでなされました……。私は 犬塚千 と申します」





東京国際空港。


「なんで、チバとかいう場所にあるのにトウキョウっていうの?これじゃサキヤマの研究所までずいぶんかかるじゃない!!」

身長2m近く、金髪、筋肉隆々でたくましい腕に馬鹿でかいトランクを3つほど軽々とぶらさげた……女性がスペイン語でどなる。

隣でさらに頭ひとつ大きい、黒髪できれいに髭を刈り込んだ男性が、地図を見ながら答える。

「うーん?なんでかな……とりあえず日本についたことをエステバンに知らせよう……」

エステバンとは元ROUのSAチームのアタッカーであったのだが、エリア51崩壊時の怪我がもとで車椅子生活を余儀なくされ、今は情報収集などカルロスとサラのサポート役に回っている。

15名を誇ったROUのSAチームも、生き残りはこの3名だけであった。


そのとき、がっしりとした体格の初老の男がスペイン語で二人に声をかけた。

「おい、カルロス! サラ! 探したぞ。エステバンから連絡があって迎えにきたんだ!」

カルロスがニヤリと笑う。

「おお!サキヤマか。久しぶりだな。てっきりチュパカブラに齧られてるころかと思ってたぜ!」

「まあ、カルロス!失礼なことを……。サキヤマはまずくてチュパカブラも手をださないわ」

にっこり微笑みながら、サラが崎山にウインクする。

苦笑いする崎山の背中を、カルロスが勢いよくたたく。

「さあ、いこうぜ。チュパカブラ狩りにな!」





東京都、千代田区霞ヶ関。


霧森優子は内調の未確認生物対策特別分室”M”作戦特別部隊、通称『サンダー部隊』の教官、アレクサンダーへの回線をつなげた。

「首尾はどう?」

アレクサンダーがモニターに写る。壮年の白人男性だ。

「どうにか装備の調達は間に合いそうだ。これで、かってのROUのアタックチームと同等の戦闘力は確保した」

「できるだけの手はつくしたつもりだけど、どうなるかしら。”M”は尋常のモンスターではない……」

チュパカブラはコードネーム”M”と呼ばれていた。

「MONSTER」のMである。

優子はROUのつてを使って、ダメもとで「ジュリオラ」の代理人にも接触していた。

全く返事は期待していなかったのだが、なんと、「ジュリオラ」からチュパカブラの詳細なデータが届いたのである。

自分が苦戦した相手を他のハンターがどう処理するのか興味があるらしい。


アレクサンダーがすばやくデータに目を通す。

「体長 1.5m、垂直跳躍力 5m、100mの移動時間 6~7秒、夜行性

……これじゃROUの把握していたデータと同じだな」


アレクサンダーも元ROUのNA(北アメリカ)チームのアタッカーであった。

やはりROU崩壊時の足の怪我がもとで現役を引退していたが、優子の誘いにより、UMA対分室の特殊部隊教官を引き受けたのだった。


優子は手元のデータを確認する。 

「ところが ”M”は体長2m強、垂直跳躍力 10m、昼間でも行動するし、握力にいたっては1t 近くあるわ。機動隊のジュラルミンの盾なんて、紙みたいなもんでしょうね」

”M”との交戦現場には、銃身がグニャグニャになったライフル銃が残されていた。

優子はつぶやいた。

「わずか一ヶ月で、倍にパワーアップするなんて……やはり分析結果は本当のようね」


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