Chapter 6.2

檻の中には腐乱した犬の死骸があるだけ……チュパカブラは影も形もない。

小屋には、しかし、最近まで生活していた形跡があり、そして小さな棚の下には茶い薬ビンの破片とおぼしきカケラが散乱している。


千堂は死骸を調べながら

「犬の死骸……チュパカブラのエサでもないようだ。チュパカブラの餌食となった動物はカラカラの干物のようになってしまうため、かえって腐りにくい……。この死骸はそうではない」


……そもそも、なぜ、ただのエサの死骸を鍵のかかった檻に入れる必要があるのだ??だが、それにしても妙な死骸ではある。体毛が一本もないのだ。千堂がここまで思い至った時、御手洗が口を開いた。


「おい、小里!お前、まさか犬を運んできたんじゃないだろうな!?」


「違います!!あんなに不気味な生き物は見たことがありません。大きさもこの犬よりは一回り大きかったような……」


薬ビンのカケラを調べていた高坂は、床に奇妙なプレートが落ちているのを見つけた。


大きさは2cm×5cm、厚みは3mmくらいでどうやらチタン製?のようだ。一方の端に穴が開いていて鎖が通してあり、首からぶら下げられるようになっている。

パッと見た感じは、なにか軍隊などで使用される認識票のようにも見えるが、表面には何も書かれていない。

……いや、3mmの幅の側面に小さくなにか彫ってある。


「……Skylla?」


小里はそのプレートを見ると叫んだ。

「それは、犬塚さんが、肌身離さずつけていた物です!! とても大切にしていました」


「そんな大切なものを……こんなところに放り出して、しかもチュパカブラと一緒に……犬塚はどこへ行ったんだ!?」


事件は振り出しに戻ったようにも思えたその時、高坂の携帯に崎山から連絡が入った。


「……その山から二つばかり隣の山にテロリストが立てこもったそうだ! 今、TVではでにやっている。警察が近隣の道路を封鎖中……機動隊も出動して、山に入ろうとする者をシャットアウトしている。しかも今月になって4人、行方不明者が近隣で出ているそうだ。それもテロリストのしわざにされている」

「ところが……これは高坂君の用意してくれたハッキングツールと警察無線の暗号解読装置から得た情報だが、指令を出しているのは内閣情報調査のUMA対分室のようだ」


千堂が立ち上がった。

「チュパカブラだ!! 尾根伝いに移動したのか!?」


そのとき、千堂の携帯も鳴り出した。美亜からだった。あわてて出る。


「千堂さん、こちらに来て! 場所は……」

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