Chapter 4.2
ROUの日本支部はアメリカ空軍秘密基地エリア51、すなわちROU本部壊滅後、崎山超心理学研究所としてその施設の一部は存続していた。
超常現象研究に熱中するあまり、学会を追われた孤高の科学者、崎山英太郎は元ROUの研究員であり、日本支部長もつとめていた。
また、崎山博士は白川亜紀亡き後、天涯孤独となった美亜の遠縁でもあり、後見人となっている。
元ROUのSAチームの生き残りメンバー、カルロスよりの緊急連絡を受けた千堂と高坂、そして崎山の3名は研究所のTV会議室に集合していた。
会議室の前面にあるスクリーンには、美しく有能そうだが……どこか険のあるのある女性がきりつけるような口調で話している。
「とにかく、この件に関しては内閣情報調査室『UMA対分室』で仕切ります! あなたがた民間人は、余計な手出しをしないでください……!!」
モニターが一方的に切られる。灰色の雑音映像が映る画面を見ながら千堂がつぶやく。
「優子のやつ、俺たちを『民間人』だと。まるっきり素人扱いだ!……カルロスめ! 余計な事をしやがって!!」
千堂の大学の後輩で元Jチームメンバー、霧森優子は、警察庁キャリアとしてROUに出向していたという異色の経歴を持つ。
帰国してからは、内閣情報調査室 未確認生物対策特別分室エージェントという、首相にも直接進言のできる、官僚としてはある意味最高のポストについていた。
崎山が千堂になだめるように話しかける。
「犠牲者が出るかもしれない、緊急事態だ。カルロスが内調のUMA対分室の責任者、霧森君にも連絡したのは当然の処置だ。しかたがない。ところで美亜がまたいなくなったそうだな……こんな会話をしているようでは後見人失格だが」
高坂が真剣な面持ちで口を開く。
「やはり、今回の件を予知してのことでしょうか?」
崎山は軽く肩をすくめると、
「美亜の場合、彼女の能力は『予知』ではなく『予言』だ」
崎山の口調が講義調になる。
「予測して変更できうる未来を知る能力を『予知』とすると、それに対して……変更不可能な未来を知る能力が『予言』だ」
「あの子は『避け得れない何か』が起こることを感知した。今回の場合、それが『チュカパブラ』の件であったわけだが……あの子自身もどこまではっきりとわかったかはわからん。ただ、あの子は避け得れない未来の中で最善をつくすように行動しようとする」
高坂が千堂を振り返った。
「その能力が、千堂と一緒にいると阻害されるというのも皮肉な話だな」
千堂は一人、黙ったままだった。
千堂はふとROU時代の仲間達との雑談を思い出していた。
『訓練されたUMAハンターでも生命の危険ありってどんな状況だ?』
『さてな……?シベリア虎50匹に囲まれでもすれば……。』
判明しているチュカパブラのスペックは以下のようなものだが、すべて
推定であった。なにしろ死体さえ見つからなかったのである。
体長 1.5m、垂直跳躍力 5m、100mの移動時間 6~7秒
夜行性 そして吸血……。
非公式だが年間相当の人間が、チュカパブラの犠牲になっている。
UMAハンターもわかっているだけで、5名やられている。
千堂は灰色になったモニター画面をながめながらつぶやいた。
「しかし、わからん。……それほどのUMAをいったい誰が捕らえたのだ?」
崎山が応じた。
「それは予想がつく……」
高坂が口をはさむ。
「『ジュリオラ』ですね」
『ジュリオラ』とはROUに参加しなかったUMAハンターで、主にアメリカ
大陸を中心に活動している。
常に代理人を通して獲物を売買するため、個人かチームかさえはっきり
しない。
ROUトップクラスのハンターかそれをしのぐ技量の持ち主とされているが、
極端に秘密主義なため、チュカパブラ捕獲の状況など手に入れるよしもない。
高坂が資料をパラパラめくりながら話す。
「情報によるとやつ……やつらか?……は今回の仕事は一ヶ月以上かけている」
崎山が続ける。
「『ジュリオラ』は捕獲のめどがたってから動く。どんな捕獲も二週間以内ですますという凄腕だ。それが一ヶ月もかかるとなると……やっかいな戦いになりそうだな」
その時、会議室の電話がなった。国際電話のようだ。
高坂が電話を受け、
「……SAのサラからだ。そろそろ千堂が怒っているだろうから、うちにだけ特別サービスだそうだ。カルロスが追加情報をつかんだ! 積荷に日本側の受け取り人がいたらしい」
さしもの千堂も苦笑する。
「カルロスもいい女房をもらったな……」
TV視聴モードになった会議モニタ画面では、ランダムに選択されたUHFの
ローカルニュースが流れていたが……メンバーはだれも気にとめなかった。
「……行方不明の○○ちゃんの特徴は……」
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