Chapter 3.2

ああ、この人は……。


千は、ふと目をそらす一瞬前には少女がいなかったこと、また、雨の中だと

いうのに少女の体が全く濡れていないことを、不思議には思わなかった。


「……あなたは、巫女様ですね?」

少女は不思議そうに首をかしげる。

「巫女様……?」


 美しい少女の外見は、背中まで髪を伸ばした髪は、あるいは神に仕える処女を連想させるものであったかもしれない。

 ……が、白い服ではあるがワンピース姿である。


 千は遠い昔を思い出していた。……まだ自分が少女の頃だ。ちょうどこの少女にそっくりの横顔、そしてその力は……


「はいはい、巫女様。それにしても念話が実体化するとは……大変なお力ですねえ……」


「まあ……おばあさんにはわたしの姿が見えるのですか……? おばあさんもお力をお持ちなのですね」

  

「巫女様には遠く及びませんが……長い間生きてきて、あなたほどのお力の方にお会いするのは、この婆もめったにありません」 


 千は少女の頃にあった、巫女の顔を思い出していた。この方にそっくりだねえ……そう、あれは……


「……白川の巫女様以来ですねえ」


「! おばあさんは、わたしのご先祖様をご存知なのですね!!……ということは、やはり、わたしがあなたに呼ばれたのは、偶然ではないのですね」


「巫女様……」


 偶然ではない……ということは、やはりなにかが起こるという事。

 千のこころは波立ったが、


「おばあさん、わたしの実体はこの山のふもとのバス停の近くにいます!それで……そちらに行くには……?」


 眉間に少ししわを寄せて考えていた現代の巫女様は、少女らしい結論を出した。


「とりあえず、おばあさんちの電話番号教えてください! わたしの名前は 白川美亜 です。はじめまして!! わたしの携帯番号を……」


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