Chapter 3.1

千は雨の降る庭を見ていた。


そろそろ肌寒い季節なのだが、障子ををあけて庭を眺める。

広い屋敷の敷地にはいくつも庭があるのだが、千の部屋から見えるのは

小さな中庭……日本庭園だ。


もうこの家の当主の座を子供にゆずって50年にはなる。

子供たちは皆死んで(といっても90近くまで生きて大往生だったが……)

ひ孫どころか玄孫(やしゃご)も多い。


毎日のんびりと暮らせる平和な時代、今は幸せだと思っている。


……今年で私も116になるのかねえ?

いや、今風に満年齢ならまだ115だね……。


どうも、昔のことが思い出される……。

まだ当主だったころ……現役だった頃の記憶がよみがえる。


……自分の代で 先祖伝来の技を封印したのだが、よかった。


危険と隣り合わせの時代はとうに終わったのだ。

しかし、ここ数週間の漠然とした不安はなんだろう??


平和な時代のはずなのに、この感覚は? なにか危険がせまって

いるのだろうか? まさか、一族になにか……?


ここまで思いが及んだ時、ふっと顔をあげると庭に少女が立っていた。

そして、話しかけてきた。


「私を呼んだのは……あなたですか?」

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