どうあがいてもジリ貧

 参ったな。さっぱり成果が上がらないぞ。

 あれから俺は、3つの商店と2つの工房、それにギルドを1つ回ってみたのだが、何処からもいい返事は引き出せなかった。

 2つははっきり断られ、他の4つは『検討する』とは言ってもらえたものの、表情や声のトーンから考えると、恐らく連絡が来ることは無いと思われる。

 しかし、色々な職場を見て回っているうちに気が付いたのだが、冒険者ギルドの仕事と言うのは本当に多岐に渡る。

 商店の中には、店員が足りない時間帯の臨時の店員の募集や、荷運びの仕事なんかも冒険者ギルドに頼む所もあるらしい。

 工房での主な仕事は材料の採取。危険なエリアに生えている薬草とか、モンスターの牙とかを取って来てほしいと言うあれだ。中には自分で採取に行くから護衛に来てほしいという依頼もあるみたいだ。

 しかし、依頼は数有れど、やはり問題となるのは『イージスの盾』の所属人数の少なさだ。

 考えて見れば当たり前ではある。5人の人員が欲しくて募集を掛ける時、普通なら5人派遣できる一つのギルドに頼むだろう。うちのギルドから2人だけ借りて、他のギルドから3人探すなんて効率が悪い。

 いっそのこと『イージスの盾』なんてギルドを潰して、素直に他のギルドに入れればいいんだが、アテナ曰く『借金のある女を雇いたいと思うギルドなんてそうそうない』とのこと。

 そして、俺はその借金のある女から離れらない契約を結んでしまった。

 ……ジリ貧だ。あまりにもジリ貧が過ぎる。

 うーん、このまま闇雲に営業を続けても成果が出そうな気がしないよ。

 もっと抜本的に何かを変えないといけない気がするんだが。

 あと1件だけ回って見て、駄目ならギルドに戻ろう。

 ……なんて考えていたら、その『最後の1件』が見えて来た。

 ええと、ここは何屋なんだ。地図の文字がよく読めない。この地図の文字、アテナが慣れない日本語で書いてるせいでかなり読みにくいんだよな。

 ……まあ、いいか。入って見ればわかる。そして、さも『知ってました』って顔すりゃ何とかなるだろ。

俺はあくまでポジティブな思考で件の店舗の扉をノックした。


「はーい」


 扉から出て来たのは、20代ぐらいの女性だった。

 

「あら、どちら様かしら」


 ちょっと喋り方が遅い、おっとりした雰囲気を受ける人だな。


「突然訪問して済みません、私は『イージスの盾』と言う冒険者ギルドの人間でして、現在何かお手伝いできることは無いかと思いまして……」

「あら、ギルドの方なの。う~ん、でもごめんなさい。うちは依頼するギルドが割と固定化されちゃってて、他のギルドには依頼しない方針なのよ」


 むう。こういう所も結構多いんだよな。依頼するギルドが決まっているパターン。

 だが、それだけで引き下がるわけには行かないな。


「それでも、何か困ったことなどはございませんか? うちは弱小ギルドと言う自覚があるので、どんな些細な仕事でも受ける所存ですよ」


 言ってて空しくなってくるが、実際俺達のギルドの売りなんてフットワークの軽さぐらいしかないし、仕方ないな。


「ううん、強いて言えば、うちのお客さんが『人手が足りない』って零すことはあるけど……うち自体は無いかな」

「お客さんと言うと?」

「色々いるわよ。ギルドの人だったり、商店の人だったり……。

 ほら、うちって印刷屋じゃない? だから安売りとか人材募集とか、広告を出したい人なら誰だって来るわ」


 ああ、ここって印刷屋だったんだ。でも、それなら仮にこの店の客を紹介してもらったところで、チラシ配りとか、広告を貼るとか、そう言う仕事しかないだろうな。

 それじゃあ、荷積みの方が時給が高そうだ。

 ちょっと無駄足だったかな……。

 …………ん? でも待てよ。広告を作れるなら、俺のギルドの広告だって作れるよな?

 アテナの奴は新人なんて来ないって決めつけてやがるけど、俺はそうは思わないからな。

 色々な場所に広告をばら撒きまくったら、酔狂な人間が一人二人ぐらいは来るかもしれない。もしそうなったら、受けられる仕事の幅も広がる……。

 やって見る価値は、ある!


「あの、済みません。話は変わるんですけど」

「あ、はい? なにかしら?」

「ここではギルドの新人募集の広告なんかも印刷できますよね?」

「ええ、勿論よ。もしかして、御利用下さる?」

「そうですね。まあ、まずはお値段を伺ってから……」

「そうね。紙の大きさや質によって変動はあるけど、一番一般的なこの型で言うと……」


 女性が近くに置いていたらしい見本を手に取った。

 サイズで言うとA4相当かな? 印刷の質は流石に日本で流通してるコピー機に比べるとかなり劣るが、読めないことも無い。この世界では一般的な水準のようだし、気にはならないだろう。


「そのサイズのお値段が?」

「1枚の印刷で銅貨1枚かな」


 1枚で銅貨1枚!? ……マジ?

 広告って普通は100枚とか印刷するものだよな? 100枚ってことは、銅貨100枚。銀貨にして10枚。俺の2日間の稼ぎに近い。

 今の俺の手持ちが丁度銀貨10枚だから、全財産を使えばそれぐらいはできるが……。

 この中には食費なども含まれている。流石に全て使うのは好ましくない。


「あ、ちょ、ちょっと考えて見ます。私だけでは判断できないんで、上と相談して、出直します」

「あら、そう? 良い返事を期待してるわね」


 俺は逃げるようにその場を後にした。

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