第5話 新たな生活

 姉さんが王都へ行った…寂しくない…寂しくない…


 …寂しい。


 けど、僕も強くならなくちゃ。


 あいつらに復讐するため…もしもの時、姉さんやみんなを守るため。


 …復讐?…久しぶりに復讐のことを考えたなぁ、この二年間、姉さんとの思い出を作ったりしてたから忘れてた。


 復讐か…何か忘れてるような気がするけど…まあいっか。


 僕は強くならないと。


「父さん、母さん、僕ちょっと魔法の練習してくるよ」


「おう、行ってこい、じゃないと大好きな姉さんに守られるだけだからな」


 嫌なことを言ってくる父親だ。


「アル、気をつけなさいよ、最近ここら辺でも魔物を見かけるらしいから」


 初耳だ。


「大丈夫だって、というか、昨日まで何も言わなかったのに急にどうしたの?」


「そりゃあ、アル、ルフナがいるといないとじゃあ天と地の差だろ」


 …僕はずっと姉さんに守られていたのか…ちょと悔しいな。


「わかったよ、じゃあ、行ってくるね」


 僕の隣に姉さんがいない生活が始まった。


 --------


「…うーん、なんか復讐の事で忘れてるような気がするんだけどな…思い出せないや」


 僕は今、姉さんと見つけた秘密の場所へ来ています。


 ここは、平らな場所なので邪魔になるものがなく練習場所に最適です。


「ふぅ…僕も早く姉さんに追いつかないと…」


「じゃあ、取り敢えずやるか」


 集中集中…


「魔法展開…イフリートレイン」


 そう唱えると、僕の周りに火の玉が現れた。


「いけっ!」


 そう言うと火の玉が僕の思うところに飛んでいく。


 ドォン‼︎‼︎


 当たった場所は、熱と威力でクレーターが出来ている。


「ふぅ…まぁこんなものか」


 僕はこの二年間で、強くなったと思う…多分…


 多分とつけた理由は、姉さんは白魔法だったから比べれないし、父さんは黒魔法だけど、見せるのはなんか恥ずかしいし…自分の魔法がどのくらいの力なのか分からない。


 ひょっとして、とんでもなかったりして…いやいや、自己満足はダメだ、もっと強くならないと!


「よし‼︎今日も一日頑張るか!」


 --------


「…ちょっとやばいかもな」


 姉さんとの秘密の場所はクレーターがいくつも出来ていた。


「今までは、クレーターが出来ても姉さんが直してくれたけど…姉さんがいないから直せない…」


 …まぁ、いっか、というか母さんが言ってた魔物ってなんだろ?


 というか、こっちに近づけないんだけどね。


 なにせ、姉さんが…結界を…………あ


 やばい、やばい、やばい、忘れてた。


 いつも姉さんが結界を張ってくれて魔物が近づいてこないけど、今日からはいないんだった。


 帰ろう…そう決めた時、僕のお腹に獣の手が生えた。


「え"⁉︎」


 その手には…真っ赤な液体が付いていた。


 ガハッ


 吹き飛ばされた………


「…く……ま…」


 僕の視界の先には、クマの魔物がいた。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い…焼かれたような痛みだ


「…ち…き……しょ…う」


「魔法…展開…」


 ……


「なん…で…?」


 …痛みで、集中出来ていないからだろうか。


 魔法陣が出ない。


 あぁ…ダメだ、終わる…復讐出来ずに…


 復讐……あぁ…思い出した、あの時か…


 姉さんの…力が…目覚めた日…


 なんだっけ…あの魔法…


 右腕が…吹き飛んだ…


 …あ、思い出した……


 …たしか……


「サクリ…ファイス」


 …やばい…意識……が…


 …そして、僕の意識は途絶え…なかった?


 あれ?なんで?


 なんか、時が止まってるような…クマの魔物も止まってるし。


 体の痛みもない、というか治ってる…あれ?なんで?


「おーい、アル君?」


 後ろから僕を呼ぶ声がする、僕は振り返った…


「…………」


 言葉が出なかった。


「どうしたの?アル君?」


 ありえないほど綺麗だった。


「あなたは…誰ですか?」


「えっ、覚えてないの?ショックだな〜」


 僕は、こんな綺麗な人は知らない。


「人違いでは?」


「…あ、じゃあ、悪い神様は?」


「あ…」


「おぉ、思い出したか、良かったぁ」


「なんでここに…というかあれは夢では?」


「いやいや、夢じゃないよ、それと私がここにいる理由は、契約するため」


「え、契約って…あのとき言ってた?」


「うん、そうだよ」


「でも、契約って何をすれば?」


「うーん、じゃあ…命ちょうだい?」


「無理ですよ‼︎他にないんですか?」


「わがままだなぁ…じゃあ、ハーフにならない?」


「ハーフ…どういう事ですか?」


「混血にならないか?ってこと」


「誰と?」


「私と」


「えっ⁉︎」


「じゃないと、君本当に人生終わっちゃうよ?それでもいいの?復讐出来ないよ?お姉さんや妹たち、両親、守らなくていいの?」


 …復讐……


 …守る……


 そうだ、僕はしなければならないことがある…こんな事で意地を張っても仕方ない。


「…わかりました、混血になれば契約完了ですか?」


「うん、そうだよ契約完了」


「…お願いします」


 そう言うと、彼女は自分の唇を噛み切り、そして顔を僕に近ずけて、僕の唇を噛みちぎった。


 え"⁉︎


「契約完了っと」


「な…な…何するんですか⁉︎」


「え、契約だけど」


「さっきのが契約なんですか⁉︎」


「うん」


「どこがですか⁉︎混血にするって言いましたよね?全く体に異常ないんですけど⁉︎」


 そう言うと、彼女は再び僕に顔を近づけてきた。


「な…なに…を………え⁉︎」


 彼女の左の瞳に映った僕の目は…赤色だった。


「どう…し…て」


「これが契約だから、さ、あのクマを倒すよ、時間止めるの疲れるから、早く‼︎」


「え?…でも、あいつ、倒せないかも…」


「大丈夫だって、私の力を使えるようにしたから」


「え⁉︎」


「さぁ、アル‼︎反撃をしようではないか‼︎」


 僕は…今日、ハーフになりました。

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