第55話 五十杯目✿風森の御前

「私は、お前の祖父だ!!」


 なんだ?

 このよくある映画の展開のような話は?


 ハル「はあ、そうですか。

 うわあー、びっくりだあー」


 どうしよう、何がしたいんだろうこの爺さん。

 これはボケなのか?

 ツッコミ待ちなわけ?

 と心から信じてない俺の気持ちを察したように、宗源のじいさんは俺を睨む。


 宗源「ん!!

 いいかハルマサ、私はお前の母親の父、死んだマナの父親の父親だ。


 つまり、お前の実の祖父だ!」


 俺は周りの人間を見渡す、金城のオッさんもこうちゃんも、うん、と言っていた。


 ハル「ええ!?

 本当なの!?」


 焦ったわ〜。

 まじでじいさんだったらしい。


 思えば、今日は急展開過ぎた。


 △▼△▼△▼


 昨日は役所でツッコミ疲れ、デュリオさんがまた遊びにきていた。


 なんでも、エリカとしんちゃんが、もう直ぐこちらに来るという話で、そのまま盛り上がり飲み明かして、クシノと眠った。


 朝になり、伯爵と約束があった俺は、ギスランに起こされ準備をする。


 マナの提案で、移民怪物の説明会にいき、戦えそうな奴をスカウトしようという魂胆があったわけだ。

 何もマナが代表をやらなくても、いいと思ったんだけど、マナが自分もやりたいと言い出したものだから、今は反対していない。


 神々との繋がりが強いマナは適任なんだろう。

 それにあの伯爵がサポートとして、怪物達をまとめてくれるし、元々貴族だから統治は得意、敵への威圧も自信があるのだとかで、新しいパーティーが始まると、楽しそうにしている。


 移民怪物は、説明会に必ず出なければいけない。

 これに出ないと、就職先や住居の手配も許可は下りないのだ。


 簡単な説明の後、その日きている会社の人が順番にアピールしている。


「わが社の店舗は全国に多数あります。

 その中の幾つかの店舗を、可愛い怪物店員の働く怪物レストランにしようと考えています。

 条件は半獣人体型を、長時間維持できる方で女性限定。

 採用は面接にて行います。

 店長候補やマネージャーには特別手当もでます。

 さらに昇級や、売り上げに応じたボーナスもありますし、パート希望からも採用は致します」


 なるほど、猫耳やタヌ子のファミレスは、マニアにはたまらないはず、連日混み合うこと間違いないな。


 その他たくさんの企業が来ていた。

 怪物達の多くは都会ではなく、東北に集まっている。


 理由として、受け入れを希望した土地には国から援助金が出る。

 正直都会には土地がないし、国も人口の少ない土地に人手を増やしたがっていた。

 富や人が都会に集中しすぎるのは良くない、そして、エクソシスト達や神々の巫女であるマナがいるここ、本州最北端の地は怪物達への境遇を特に良くしてある。


 そうすると自然に怪物達はここへ来る。

 そこから戦士をどんどん増やしていこうという作戦なのだ。


 この地の上は海峡を挟んで北海道、その上はロシアだ。


 北海道にもエクソシスト達が入り込んでいるが、あくまで情報収集のためだ。


 あの地への本拠地設置も考えたようだが、立地やら色々と都合が悪く、結局風森の里を守る形で設置する事にしたらしい。


 あくまで俺は役割がない、たまに雑用を頼まれるが、別に俺でなくてもいい話だ。


 マナは巫女でこの戦いには欠かせないが、俺は気ままな演奏屋だからそんなもんだ。


 マナの出番だ

 マナ「初めまして皆様。

 私は治安維持などを主に行う組織の代表をしています。

 風森マナと申します。


 こちらは私の補佐をしていただいている。伯爵です。


 皆様がこの国へ来たということは、自らの権利を主張したということです。


 その権利も、心ないもの達の手により剥奪される危険もあります。


 私たちはこの地、この国を守る仕事をしています。


 この中に守るべきもののために戦う覚悟がある方がいたら、是非ご参加願います」


 マナは凛としていて、いつの間にこんなにたくましくなったのだろうと、俺は少し泣きそうだった。


 伯爵「血に飢えたものがいるなら、私とこい!

 貴様らを本物の怪物へと鍛えてやろう!

 私の眷族になるものは、延々と楽しい殺しあいができる」


 いやあんたの城の中ならきっと延々と地獄なんだろうけど、それって食わせろってこと?

 怪物達が訳わかんなくてドン引きだよ!


 マナ「伯爵、あなたの命にして、どうするんですか。

 あくまでも生きたままでいいです。

 みなさん心配しないでくださいね」

 ナイスだよマナさん!

 まさに飴と鞭のコンビネーション。


 そんなんでも何人かは希望を出してくれた。


 その後、小学校へ行くことになる。


 △▼


「みなさん。

 今日は特別に、吸血鬼の先生が来てくれました、凄く貴重なお話を聞ける機会なので、質問もどんどんしてくださいね」


 いや、どんな授業だよ!

 マナが地域奉仕のために提案したらしく、伯爵も乗り気な今回の企画。

 それにしても、教育委員会がよく許したな。


「うわあ、貴族だ!

 すげ〜本物だ!」

 と子供達がはしゃいでいる。


 伯爵「伯爵だ。

 まず何か質問があれば聞こう。

 しっかり手を上げて、返事は元気良くするように」


 普通にいい先生だよ!


「はい!

 先生質問があります!」


 ショートカットの女の子が手を上げた。


「牙って普段どうなってるんでしょうか?」


 伯爵「私は普段は普通の歯をしている。

 吸血するときは伸びる」

 そう言って、伯爵は牙が伸びるところを見せた。

 すげえな〜、本当にのびとるよ。

 子供達のテンションも上がる上がる。


 皆それぞれいろんな質問をしていき、伯爵は答えていった。

 こう見ると、普通に優しい人なんだがな、殺し合い大好きだから始末に負えない。


 その日はオスマン帝国とカトリックの歴史の授業を少しして、生き証人から歴史を学んだ子供達は目をキラキラさせていた。

 いつかしんちゃんみたいなのが、ここから出てくるかもしれない。


 学校から出ると、遠くから聞き慣れたバイクの音がし、振り向くと、また懐かしいライダースをきたこうちゃんの姿が見えた。


 俺も昔はバイクを乗っていた。

 地元を離れてからは乗らなくなったし、演奏屋は何しろ楽器があるから、車か電車に慣れてしまった。


 それに、俺らの血なまぐさい青春は、今はなるべく思い出さないようにしている。

 だからライダースも最近は着ないし、バイクものらない。


 散々暴れまわって、この街も馬鹿をする奴は減った。今は演奏屋として、静かにくらしていたいから。

 こうちゃんは変わらない、いつもあれを着て、バイクを乗り回す。

 まるで昔を忘れないようにしていると、俺は感じることがある。


 TOCの文字と、泣き虫ピエロの絵を見れば、地元の連中でそれに関わろうなんて人間はいない。

 それは、ある意味抑止力みたいなものにまでなっている。


 こうちゃん「ハルちゃん。

 御前から話がある。

 金城さんもきている」


 ハル「え?

 なぜにこうちゃんと爺さんが?

 知り合いだったの?

 それに、金城のおっさんが!?」


 いきなりやってきた親友から、いきなりな内容の話が出てきた。

 俺はとりあえずこうちゃんと本家にいき、御前が来るのを待つ。


 珍しく無口なこうちゃんを見ていると、お見合いしてる気分だった。


 二人でコーヒーを飲んでいると、黒塗りの高級車が止まる。

 運転手がドアを開けると、爺さんと金城のおっさんが降りてきた。


「いないと思っていたが、やはりここに来ていたか、ヒョウマ」


 爺さんがこうちゃんの名前を呼んだ時、きっと俺には言えない、または特に言う必要もないことで、御前とこうちゃんは繋がっているんだろうと思った。


 俺は何も語らず、わざわざ俺に話があるという三人が話すまで黙っていようと決めた。


 そして、家の中に通し、皆が座って開口1発目、私はお前の祖父であーる発言だったわけだ。


「そうだったんだ。

 それでみんなが来た理由と、なにか関係があるのか?」


 御前が実の爺さん。

 俺からしたらそれでどうしたって感じだ。

 それよりも面識がないと思っていた三人が一緒にいる方が気になる。

 寿司屋の親友、新宿のヤクザ、秘密結社の総帥、まず繋がらん。


「ヒョウマの父が私の友であったのだ。

 ヒョウマには仕事を手伝ってもらっていたこともある。

 金城はスカウトした。


 ハルマサ、お前の仲間としてだ」

 目を瞑り、爺さんは話した。


「仲間?」


「お前、私の後を継げ。

 それでだ、頑張れ」


 何を言っているだろうか。


「ヒョウマは理性がたりない。

 金城は知性があるが、勇気がない。


 私が思うにだ。

 組織というのは知識のある馬鹿は、暴力と混沌を生むだけだ。

 理性と勇気あるものが、真の無法者となれるのだ。

 これからの時代には、今までの法律や常識にとらわれない、信念を持つものが必要だ。


 お前が風森であること、何か守りたいものがある男だというなら、私の後を継げ。

 もしも、お前がやらないなら他のものがやるだろう。


 しかし、それは自分の信念を殺すということだ。

 お前がこの一族、国に関わる限り、お前ではない誰か、お前にとって大切なものをいとも簡単に消し去る力を持つ誰かの思惑に振り回される。

 風森の男とは神と国、一族のために働くものであり、その力は大きくなった。

 平和な時であれば私はお前には会いに来なかったが、この国の平和な時は終わったのだ。

 私の命も長くない。

 これからは新しいものが舵をとる。


 自ら舵をとれば、結末を決められるのは自分の信念と行動だ。

 舵を取らないなら、もし大切なものが悲惨な結末を迎えたとしても、何も語る権利などない。

 お前が選べ、風森春正」


 平和は終わったのだ。

 知ってたさ。

 最近は殺し合いばかり見てきたんだ。


 みんなそれぞれ戦って、傷つく中で、俺は自分の弱さを感じていた。

 いつの間にか平和に浸かって、まるで傍観者、見ているだけで何も出来ない。


 手を汚す事を、死ぬ事を恐れて、ただ見ているだけ。


 俺はこうちゃんを見た。

 相変わらずニコニコしている。


 金城のおっさんは悪い顔してんな。


 組織のリーダーね。

 バイククラブとはわけが違うんだろうな。


「爺さん。

 俺が後を継いで何をしようと、文句言ってもきかないからな」


 俺は決めた。

 誰かに振り回されるのは大嫌いだし、守れるものもあるかもしれない。


「でも、後を継ぐって何すりゃあいいんだ?」


 そもそも力ってなんだよ、組織の事も何もわからん。


「表の世界を守るのは政府の仕事だ。

 お前の仕事は裏の世界を守り、表の連中と物事を考えることだ。


 警察や政府が表立って出来ないことも仕事の一つ。

 荒事で最も優秀なのが、ここにいるヒョウマ。

 お前も聞いたことがあるんじゃないか?


 道化の死神、道化死の男を」


 道化の死神ね。


「ええええええ!!??」


 思わずでかい声が出てしまった。

 東京にいる時に、情報屋の角田から聞いたことが何度かあった。

 道化の男、都市伝説。


 俺はこうちゃんを見ると、ニコニコしながらうなづいた。


 この、スマイルジャンキーが!

 とんでもねえこと隠してやがった!


「金城は優秀な経営者だ。

 さらに暴力以外での仕事は素晴らしい。

 駆け引きに関しては彼に頼れ」


 荒事はこうちゃん、それ以外はおっさん。


「俺の仕事ってなんだよ」

 爺さんはあらたまっていう。


「大事なことは一つ。

 死ぬな!


 後は周りがなんとかしてくれる」


「ふざけんなよ!

 それって俺じゃなくてもいいだろうが!」


 思わず立ち上がり抗議した。


「冗談ではないぞ。

 方針や決定をするのは確かに総帥の仕事だが、何より大事なことは死なないことだ。

 お前が死ねば、権力争いで組織は完全に割れる」


 言われてみれば納得だが。

「待てよ、あんた引退したらそれこそ」


 うんと言って爺さんは続ける。


「そうだ。

 私が引退したら確実に権力争いが始まる。

 お前の最初の仕事は、総帥として誰もが認める男として己を示さなければならない。

 失敗すれば死ぬぞ。

 お前も、お前の大切なものも。


 幸い、今の組織で私の決定に逆らいそうなものは少ない。

 二つの組織の者達だ。

 風森の組織の中で一族の者がいない、新参の組織。

 あやつらはまず、私の懐刀のヒョウマ、次の総帥となるハルマサ、新たに組織に加入した金城、お前ら三人を取りに来るぞ。


 来週の御前会議で、私は引退を表明する。

 その日、同時にお前には総帥となってもらう。

 この情報はここにいるものしか知らん。

 殺すも生かすも好きにしろ。

 私は一切助けない。

 私の助けが必要では、この先やっていけん。

 つまり信用できるのは、ここにいる三人だけだということだ」


 丸投げしやがった。


「はは、まじかよ」

 さすがの金城のおっさんも苦笑いだ。


 この日、俺は演奏屋は休業する事を関係者各所に連絡し、新たな総帥となる事を決めた。


【演奏屋のハルちゃん】は休業し、これからは、【風森の御前】となるのだ。


 力では全てを解決はできない。

 また暴力で解決できる事も確かにあることを俺は知っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハナミガミ 〜いくつものおとぎ話〜やがて一つの物語〜 ケラスス @kerasus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ