第49話 四十五杯目✿束の間の平和

 〜ハルの視点〜


 俺達はクリスタルスカルを守るために地下の部屋にいた。


「ここはバチカンで一番警備が厳重で、結界もしっかり張っている場所です。

 悪魔などはまず入り込めないので安心してください」


 この人はデュリオという人でとにかくパスタ食ってるか、うわ言のようにマンマと言っている。


 しんちゃんを助けてくれた恩がある人だ。


「デュリオさん。

 昔黒いやつを持ってたと言っていましたよね?

 それはなんで今はないんですか?」


「俺にもよくはわからないんだが、話では実験中にアルファが蘇ったらしい。

 赤い目をした吸血鬼だったそうだ」


 赤い目?

 まあよくいる人だよ。

 うちにもいるし。


「実は古い映像だがビデオがあるんだ。

 見てみるかい?

 あんまりいいものではないが」


「本当に?

 何かあれのことがわかるかもしれないです。

 是非見せてもらえますか?」


 デュリオさんはノートパソコンを持ってきてビデオを見せた。

 白黒で確かに映像はよくないが

「ははは!!

 パーティーをしようじゃないか!


 キャアア!」


 プツンと俺はビデオを消した。

「ハルちゃん!何をすんだよ!」


「いや……なんか気分悪くなるから……今度見よう」


 ええ。

 完全にうちにいるあの叔父さんだと思います。

 よくみんな気づかないよね?

 視力悪いのかな?


「面白かったのに。

 ……残念ね」


 !?

 俺たちが振り返ると金髪の女がクリスタルスカルをくるくる回しながら台座の上に座っていた。


「お前!いつの間に!!」


 その女は影の中にスウッと消えていった。


「まずい!!まさか外に!」


 俺達は急いで外にいった。

 もういろいろ知ってる顔がいすぎてパニックだったが丘の上に女を見つけた。


 デュリオさんがライフルで攻撃をしても、弾はまるで自ら避けていくように弾かれた。


 もうね、パニックですよね!

 雲の上でサッちゃんが景気良くドンドン太鼓鳴らして、死んだ親父とかじいさんとかキエエ!!とか言って突撃してるし。


 なんやかんや俺がパニクってるあいだに、アルファは蘇り、俺達は地下へと怪我人を運んでいた。


「怪我の酷いものからワシのとこに連れてこい!」


 サッちゃんが酷い怪我人に手を当てると少しづつ傷がふさがっていった。


「あなたはいったい。

 それに天からきたあなた方は。

 まさか!?天使なのですか!」


「残念じゃが違うのお。

 お主らが異教や悪魔というておるものじゃ。

 わしらの国では、そんな奴でも人が望めば神だがな」


「......そんな」

 オッさんはショックを受けたように椅子に座り込んだ。

 サッちゃんが中心に怪我人を治療する中、外の様子がモニターで見えた。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 伯爵が現れ。

 地獄のような光景が広がっていった。


 赤い人狼達が屋根の上から見ている中。

 あれだけいた吸血鬼達が今は二人だけとなっている。


「さあ。


 貴様らは、殺すためにここに来たのだろう?

 もっとやろう。

 殺したり殺されたりしようじゃないか。



 この私を!!

 倒してみせろ!!」


「ガアアア!!!」


 グシャ!!

 伯爵の上半身が消し飛ぶ。


「ヴラド!!」

 貴婦人は血の刃で伯爵を切り刻み続けた。


 ゴバァン!!

 ガルニエの拳が振り下ろされたと同時に伯爵の拳が相殺した。

 互いの腕は砕け、すぐに再構築される。


「ッック!グハハ!!

 いいぞ!

 さすがだ!!

 そうでなくては!」


 それはもはや怪物同士の戦いすらも凌駕していた。


「これが……アルファの戦い」


 血の貴婦人から血のコウモリたちが飛び立った。

伯爵を囲まれ、にげばない。


 コウモリはそれぞれが繋がっていき一つの形を作る。

 それは悲しみの叫びをあげる少女の棺へと姿を変えた。

「"アイアンメイデン"!」

 ザザシュン!

 それは無数の針となり、伯爵の体を食い破り、内部すら破壊していく。


「やった!心臓を潰した!」


「残念。

 ハズレだ。」


「な……んで」


 ズド!バシャン!!


 伯爵は背後から貴婦人の心臓を取り出し、握りつぶした。

「君は魔眼の使い手だろうに、私の幻術も見破れないとは」


「しねええええ!!」


「ハアアアアアア!!」


 ガブ!大きく開けられたガルニエの口が、伯爵の肩に食い込んだ。

 このまま噛み砕けば心臓を破壊できる。


「犬があ!!」


 プシュー!!

 ガルニエの首筋に、伯爵の牙が突き刺ささる。


 先に力尽きた方が滅ぶ。


 伯爵は剣を抜いた。


「それは!カインの!?やめ!」


ガルニエは逃げようとするが、伯爵はその牙をさらに食い込ませる。

剣が振り下ろされた。

 心臓を破壊して、ガルニエは斜めに割れた。

「ダメダメだよ。

お前らそれでも真相か?

ジルもカインも他の真相達はもっともっと強かった。

やはり私には……もう」


 後に残ったのはクリスタルスカルが二つ。


「あの人は優しい人なんです。

 狂気に取り憑かれたように見えても、その瞳の奥には悲しさがあるのです。

 姉はそれがわかっていた。

 そして愛したのです。


 今はあなた達のために鬼になっているのです。

 だから」

 ダッ!


 俺は走った。

 外に向かって。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「なんだよ!なんなんだよ!!」


「どうする?

 犬ども。


 後は貴様らだけだ。

 私に挑むか?

 きっと楽しいぞ?」


「これまでか。

 俺たちの戦いは、いったいなんだったんだ!

 ……エマ。

 俺がおとりになる。

 族長、みんなをよろしく。


 ガアアア!!」


 レオは伯爵に飛びかかろうと決意した。

 もう未来はない。


「レオ!!だめえ!!」

 止めようとするエマをギスランが抑える。

「あいつを無駄死にさせるな!」


「もう十分だ!!!」


 血の中で俺は、叫んだ。


「もう!十分だろ!

 お前らは、裏切られてもまだ戦うのかよ!!」


「小僧、

 邪魔をするつもりか?」



「伯爵!!

 こいつら殺してどうすんだよ!!

 もう戦う理由なんかないだろ!!」


「戦う理由だと?

 戦場で武器を持ち向かってくるものに理由などすでにいらん。

 殺しに来たものを殺すだけだ。

 殺されに来たものを殺すだけだ」


「そんなに楽しいか!?

 殺しあって楽しいのかよ!?


 お前らの戦う理由はそんなつまらないものなのか!?」


「貴様ら人間に、何がわかる!!

 僕たちを殺して楽しんできたお前らに!


 僕達はただ居場所が欲しかっただけなんだ!

 人なんか殺したいわけないだろ!


 ただ、静かに暮らしたかっただけだ。


 でも。

 そんな場所はどこにもない。

 僕達は化け物だ。

 誰もが僕達を敵にする。


 戦うしかないじゃないか!!」


 レオは涙を流し、魂の叫びをあげた。


 俺にはこいつの気持ちがわかる。

 守るために戦うこと。

 戦うことしか選択肢がないことだってあるんだ。

 だけど俺は知っている。

 あの花見の夜を、思い出す。

 人じゃないからなんだってんだ!


「もういい。

 お前はただ守りたかったんだよな。

 大切なものを守るために。

 だけどもういいんだ。


 お前らの居場所を作ってやる!!

 みんなを笑って暮らせるよにする!!


 全力で!

 俺の命をかけて約束する!!


 お前らを守る!!

 俺がお前らの友達になる!!」


「俺たちの居場所。

 友達。

 守る?

 そんなことできるわけ」


「できる!!

 本気でやればできる!!

 誰にもお前らのことを傷つけさせない!」


「……」


「あなたってひとは、後先も考えずに。

 当主?

 あなたの兄があんなこと言ってますよ?」


「まあいいんじゃないですか?

 うちにはもっと危ない人もいるみたいですし」


「マナ、婆さん。」


「ふふ。

 フハハハハ!

 まったくそっくりだよ。

 この家の人間はいつも楽しませてくれる」


 そう言って伯爵は懐かしそうに笑う。


「しょうがねえな。

 よし!

 この縁はおいらが見届けるぜ!

 どうする犬の大将!!

 お前らを守ると言ってる人間と戦うのか?

 それとも逃げ出してまたこそこそいきるか?


 もしこいつらと、誰かのために生きるってのならおいらも一肌脱ごう!」


「我らを守るというのか。

 人間であるお前達が、攻めてきた我らを!

 どうやって信じろというのだ!」


 ブィン!!

 マエストロは光る弓を構えた。


「おいバカ弟子!!

 おめえは命をかけると言ったな?」


「し!師匠!?

 なんだそれは!?」


「さあ!!どうなんだい!」


 答えは決まっている。


「ああ!!

 男に二言はねえ!!」


 師匠はニヤッと笑う。

「だそうだ!

 この縁に対しての契約をする。

 バカ弟子はこいつらを裏切らない!

 裏切ったらこいつは死ぬ!

 お前らもこいつやこいつの一族を裏切らずにお互いで支えあって生きていけ!

 お前らが裏切れば大将が死ぬ!

 どちらが上とかなしに、一つの家族として!

 異論はあるか!!」


「命をかけた約束をするというのか。


 ……聞けえ!!

 赤き狼の一族よ!!

 我らの戦いは終わった!!

 ……これからは新たな故郷へと移る!!

 異論あるものはいるか!!

 いるのなら俺と命をかけて戦え!!」


 誰一人として声をあげるものはいない。



 バシュン!!

 光の矢が天高く昇り、二つに分かれ、俺とギスランに突き刺さった。


「この縁!

 オリンポスの神!

軍神アレスと女神アプロディーテの子。

 女神に使えるこのおいらが確かに結んだ!!!」


 えええ!!??

 師匠!??

 ……あれ!?

 というより、めっちゃあの赤い人かっこよくない!?


 む!胸が熱い!!

 いかああん!!


 俺は角田とは違う!!


「大丈夫さ。

 すぐに治るからよ!」キラン!


 この人いったい何しやがったんだ!!


「てことで、もう戦いは終わりだ!!

 文句があるなら聞くが、うちには頭のおかしい怖い叔父さんがいるから、その人にいえ!」


「あんなものに喧嘩を売る奴はそれこそ頭がおかしいよ」


「がんちゃん!

 角田ちゃんも無事だったのか!」


 がんちゃん達も無事だった。

 そう、戦いは終わったんだ。

 たくさんの血が流れたのは確かだ。

 だけど、もうこれ以上誰も死なせない。


「終わったのか。


 私はなんと無力なのだ。

 人ではないからと殺してきたことが恥ずかしい。

 神は常に誰にでも救いの手を差し伸べるというに」


 ガイウス達神官達が大勢集まってきた。

「大司教。

 今は死者達への祈りを」


 ガイウス達神官は祈りを捧げていった。

 死んでいった人間、悪魔、怪物達も含めて、全てに祈りを捧げながら。


 先頭にアラン神父とガイウス大司教が歩き、その後ろを大勢の神官達がついていった。

 そして、丘の十字架へと向かっていく。


「!!??

 エリカさん!!

 予言って最後は確か最後は丘でみんな」


 しんちゃんが何かに気づいたように、エリカが叫んだ。


「デュリオさん!!みんなをとめて!!」


「まさか!!

 あの女はどこだ!?

 クソ!!」


 デュリさんが走り出した。


 ズダダダ!!ズダダダ!!

 ヒュン!ヒュン!


「な!なんで

 ……お前が」


 一瞬の出来事だった。

 丘にいた神官達が突如現れた悪魔の兵に撃たれ、弓がささり死んでいった。

 一人を残して。


「全ての魂は集まった」


「な!なぜですか!!

 アラン神父!!」


「始めるよ」


 消えていたメリザンドとアラン神父が丘の上にいた。


 そして二人はクリスタルスカルを掲げる。


 バサア


 二人の背中から光る羽が現れた。


「魂が!注がれていく!

 まずい!!」


「そうか!

 貴様らはそうなのか!

 だが!!

 させはせん!!」

 ドン!伯爵は地面に手を当て城を消した。


「人狼達が生きてるのは予想外だったけど、もう遅いわ。

あなたのところから、もうもらえたから」


 二つのクリスタルスカルが重なっていく。

 光が辺りを照らした。


 光がきえると、悪魔の兵隊も消えて、丘には三人の人影があった。


「ご苦労」


 真ん中に現れた男は静かに後ろを振くと三人は闇の中に消えていった。


「アラン神父!!アラン神父!!」


 エリカの叫びだけが響いていった。


「天使が悪魔につかえるとはな。


 ……帰るぞ!!」

 伯爵は悔しそうにしているが、俺は何も言えなかった。

 戦いは終わって平和になるはずなのに、

 また戦いが始まる予感を感じてしまった。


 それでも今は泣いてる暇はない。


 生きてるものは笑わなくては、


 それがたとえ、

 束の間の平和だとしても。

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