第48話 四十四杯目✿狂気の祈り

 〜伯爵の視点〜 


「幾千もの魂を集め、悪魔達の軍勢は産声をあげた。


 百人の赤き狼達の咆哮が響いき。

 千人の悪魔達はさらなる魂を集め、殺戮のなかを行進する


 戦乙女は祈りを捧げ。

 神の戦士達がかけてゆく。


 千人の吸血鬼が現れ、2人の真相は復活した。

 千人の悪魔達と赤き人狼達は生贄にされる。

 全ての命をかり尽くして、やがて破壊へ向かう」


 地獄の図書館で、地獄の王達はその光景を眺める。


「滅びが始まると?」


 地獄の王の一人がつぶやく。


「さあてどうなることやら。

 ただ僕の友達。

 あの狂った王様がいるなんて、

 誰が予想できる?


 僕だってわからないよ」


「はあ。

 あの吸血鬼は確かにアルファでしょうが、

 二人のアルファとあの軍勢を相手に、一人で何ができるのでしょうか?」


「彼はあの伯爵なのだよ?


 帝国と一人で戦い。

 ロンドンに一人で乗り込んだ。

 日本で神や神官達と一人で戦った。


 あの伯爵だ。


 僕は彼が大好きだ。


 その身も心も美しい。

 なんとも素晴らしい。


 神を呪いながらも愛している。

 己を愛していながら呪っている。


 滅びを求めてさまよう伯爵。

 何度滅びても飽き足らず。

 血に飢えた狂気の死神。


 怪物でありながら人を愛する。

 泣き虫な子供。


 大好きなんだよ。


 人に必要とされた今。

 さあ伯爵。

 君はどうする?


 ヴァルハラの戦士達は帰った。

 神官達ももういない。


 この絶望的なまでの状況で

 たった一人で月を背に」


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ーーバチカン広場ーー






 ああ

 いい夜だ。


 硝煙と血と肉の匂い。

 人も怪物もみな死んでいく。


 愛する妻よ。

 いってしまった愛しい人よ!


 あなたと私の子ど達が戦っている!!

 永遠の子供達が!


 マナは神を降ろし戦っている!

 なんとも美しい。


 あれこそが人間の魂だ!

 諦めず、争う強さ。


 私には守らねばならないものがある!

 子供達が泣いている!


 さあ戦おう

 私には戦う理由がある!

 貴様らには戦う理由がある!


 最高だ!最高だ!最高だ!

 楽しいパーティーを始めようじゃないか!


「何か……くる」


 広場に向かって一人の男が歩いている。

 闇をまとい両手を広げ、なんとも楽しそうに歩いてくる。


「誰だ?あれは」


「あれ……は!!まさか!??

 エマ!!全員逃げろ!!!!

 ……建物の上に逃げろお!!」


 つまらん。

 何が戦士だ。

 臆病な犬ではないか。


「う!なんだあの男は!?

 撃て!」


 ズダダ!ダダダ!ダダダダン!

 グシャ!ボト。


 歩いてきた狂気に満ちた雰囲気をその場にいた全てのものが感じた。

 吸血鬼達による一斉射撃の後には肉片のみが残っていた。


 しかし


 ザシュ!

「ギャアアア!」

 ザシュ!ザシュ!ザシュ!

「うああ!!」

 大通りにいた吸血鬼達を、長い槍のようなものが地面から突き刺した。


 体の全てを粉砕されたそれは、溶けて集まり、赤黒い鎧を着た男へと変貌した。


 ガシン、ガシン。

 鎧には龍の模様があり、鱗まで細やかな細工はまるで龍を纏うもののようだ。

 死んだはずの男が歩いてくる。


 ザシュ!ザシュ!

「ヒ!ヒイ!!」


 男が歩いている通りには、吸血鬼達の屍が掲げられている。


 男は広場の前に来ると片手を天高く掲げた。


「さあ!

 パーティーをしようしゃないか。

…… "ドラクルキャッスル!!"」


 その手を地面に叩きつけた。

 ドン!!


 ドドドドドド!

「な!なんだ!?なんの音だ!」


 死者で埋め尽くされた大通りの後ろから地響きがする。


 空から夜よりも暗い闇が降りてくる。

 闇は城となり、門から血の川が流れる。

 死の川から、死者達は蘇る。


「騎士団よ!踏み潰せ!」


 ドドドドドド

「ギャアアア!!」


 赤い目の黒い馬に乗った兵士達は、吸血鬼達を踏み潰し、串刺しにし掲げる。



「なんなの?なんなのあいつ!?」

 人狼達は得体の知れないものに恐怖した。


 アルファ達やロード達は丘の上でその様を見ていた。

「なんて時に呼んでくれたのかしら。

 ……最悪だわ」


「いったい何が起きているのだ!?


 あの旗はドラゴン騎士団!

 それに、十字軍だと!?」


「全員で……一気に叩くわよ」


 千人の吸血鬼が踏み潰され、串刺しにされ。

 町中に掲げられていく。


 二体のアルファとロード達が、死の騎士達をすり抜け、眼前に立つ。


「ヴラドオオ!!」


「なんだ貴様か。

 バートリのお嬢ちゃんじゃないか?


 それにお前はガルニエじゃないか!

 最高だ!

 煉獄の王達!


 真相の怪物達!

 二人がいるなんて!

 なんて楽しいパーティーだ!

 私はちょうどお腹が空いていたんだよ。

 なんとも贅沢な晩餐じゃないか!」

 パチパチと伯爵は嬉しそうに手を叩く。


「貴様あ!この悪魔め!!やっと見つけたぞ!」


「私の目であやつの意識を支配します。

 その間にやつを!」


「ま!まて!」


 ダッ!

「貴様!私が相手をしてやろう!」


 バートリ卿の魔眼は伯爵の魂の意識に入り込む。

 その瞬間バートリ卿の目から血が溢れた。


「うああ!!な!なんなんだ!!

 貴様はなんな!!」


 ビシャ!


 伯爵の牙がバートリ卿の喉を噛み切った。

 首をつかみ、乱暴に騎士達へと投げ込んだ。


 魔眼など小賢しい。

「次は何をするんだ?」ニヤッ


「だから待てと!


 あの化け物の意識なぞ地獄だ!

 いったい、どれだけの死者を抱え込んでおると思っている。」


「バートリ卿!!貴様あ!!」



 十三人のロード達はそれぞれの武器で襲いかかった。


 はじめに、六人の長老は地面に結界を張り、動きを封じた


「はは!

 面白いじゃないか」


 ザン!グシャ!!ドガン!ビシャ!

 ドン!ドン!バァン!


 イナズマをまとったチャクラムはこめかみから目を切り裂き、脳を焼き尽くした。


 大木さえ切る斧は体を横一線に切り裂く。


 怪物さえ殺す術式の剣は体を縦に二つに割った。


 全てを切り裂く糸は首をはねた。


 粒子を分解するハンマーは頭を粉砕した。


 炎の銃弾は内臓を貫通し、体を燃やす。


 呪いで肉を腐らせる拳は手足を腐らせる。


 肉片すら残らず血の海が広がった。


「何がパーティーだ!この狂人め!はあはあ。

 バートリ卿の仇だ!」


 長老達は歓喜した。


「いいじゃないか。

 ……なかなか……いいじゃないか」


 ヒュバ!

 血の刃が結界を張っていた長老の首を刎ねた。

「な!結界が!」


 ゾン!一瞬で再構築した腕がもう一人の頭を貫通した。


「さあ楽しもう!

 早く体を治せ。

 もっとやろう!

 死のダンスをおどろう!


 ......なんだ。

 死んだのか?

 つまらん。


 つまらんよ。

 貴様らあ!

 それでも夜の眷属か!?」


「ヒ!ヒイ!!」


 一人が逃げ出そうとした。

 ガブ!黒い大きな犬が噛みついた。


「ほほ!

 ハウンド!ハウス!

 お腹が空いたのか?

 そうかそうか!

 いいぞ!

 こいつらはお前にやろう。」


「ハアアアアアア!!」


 バキバキ!メキメキ!足から噛みつかれ、体の半分はもう餌とかしていた。


「ギャアアア!!助けてくれ!!」


「五月蝿い」

 ドガ!頭を踏み潰されもう声は聞こえない。


「お前ら……つまらんよ。


 そうだな?


 先輩に、少し教育してもらえ。


 ジルウウウウドレエエイ!!」


 ザ!ザ!ザ!


 血の川を一人の男が歩いてきた。

 銀の鎧に美しい百合の紋章が見えた。

 金髪の神を後ろにまとめ、一振りの剣を腰にさしている。

 その雰囲気は歴戦の武将そのものだった。


「ジルだと!?貴様!!真相まで食らったというのか!」


「伯爵様。

 ……参陣致しました」

 片足をついたその様はまさに主従関係を物語っている。


「後輩と遊んであげなさい。


 ……諸君!

 つまらない吸血鬼達!

 出来損ないのおもちゃの諸君!


 先輩が教育をしてくれる!

 負けたものから、ハウンドの餌になってもらう!

 後は煉獄に送ってくれるから、勉強してから出直すように!


 私は君たちの魂など……興味はない。

 以上だ。


 それでは……さようなら」


 胸に手を当て、礼儀正しいお辞儀をした。


「ふざけるなああ!!」


 長老達はまさに死に物狂いで向かっていく。


 ヒュヒュンン


 ザーッボトボト

 ジルとの場所がいつの間にか入れ替わり、血の雨が降った。



 空中で切り刻まれ道に落ちていく。

 黒い大きな犬がそれを食い荒らしていく。


「うえ!!ハアハア、地獄、なんなんなの!地獄よ!」


 屋根の上から惨状を見ていた赤きオオカミ達は、狂気に耐えられなくなっていた。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ーー地獄の図書館ーー



「あはははは!!!!


 さっいこうだ!!

 我が友よ!!


 君はなんて楽しい奴なんだ!!

 あはははは!!!

 見なよ!あの嬉しそうな狂気の笑顔!

 あのデタラメな力を!」


「あれが、本当にただの吸血鬼の真相ですと!?あんなものは吸血鬼ではない!!」


 ドン!地獄の王の一人が机を叩く。


「あれはただの吸血鬼さ!


 始まりの吸血鬼であり、真相の一人さ。


 神を呪って化け物になった狂信者。

 化け物になってさえも、戦いに明け暮れて、殺し続けた。

 いつか自分を滅ぼしてくれと祈りながら!

 彼にとって戦いとは祈り。

 滅びとは願い。

 滅んで煉獄にいても、なお戦いに明け暮れた。

 狂った死の王様なんだよ。


 煉獄の化け物どもを恐怖に震え上がらせた彼は、真相達の魂を手に入れて!


 自分の中に一つの地獄を作り出した。

 まさに、歩く地獄そのものだ!


 そして、なんと自分一人で現世に蘇ったんだ!

 煉獄でさえ満足できなかったのだよ!

 救いようがないよ!

 素晴らしいほど慈悲のかけらもない!


 それでもなお!


 彼は、人を愛している。

 それは母親に向ける愛情そのものだ。


 僕は彼が大好きだ。


 我が友よ!

 歩く地獄よ!

 煉獄の狂った死の王よ!



 さあ!

 もっと見せてくれ!

 君の美しい姿を!

 狂気の祈りを!」

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