第46話 四十二杯目✿地上の光

 敵の隙をつくために岩本殿と二人、潜入したと思っていたのが、まさかの罠でござる。


 ここは出口を目指し一度脱出する。


 アイコンタクトもバッチリでござる。


 しかし、悪魔たちが入り口を占拠していた。

 数々の菊門をこじ開けてきた拙者にはこのくらいなんでもないでござる!


 悪魔たちを蹴散らし、入り口を抜けたが、岩本殿と違う方に来てしまっていたでござる。


「先に行ってくれ!」


 岩本殿!

 先に行くということは後から必ず来るということ。


 信じて待つでござる!


 拙者は涙をこらえ走ったでござる。


 そして気がついたのでござる。

 どこに向かえばいいのやら?


 元々の拙者達の作戦は敵の隙をつき、被害を与えること。


 よし敵を見つけて破壊工作でござる。


 通路を抜けると広場に出たでござる。


「一人?馬鹿なの?」


 金髪のローブ姿の女が広場の上から見下ろして呟いた。


「思ったより誰も来なくてつまんなかったんだけどね。

 一人だけだし。

 あんた達が遊んであげてよ

 少し早いけど他にやらなきゃいけないし」


 スタッ!スタッ!


 上から二人の男が降りてきた。


 一人は金髪で長い髪。

 一人は茶髪で短い髪。


 そして、二人ともガッチリした筋肉で太すぎず、白い肌で整った顔立ち。


「ウホ!な!なにものだ!」


「僕はカルロ、バートリ一族の長老の一人」

 金髪の男は優しい声ではなす。


「俺はクリス同じく長老の一人だ」

 茶髪の方は力強く威圧的に話した。


「ウホ!ウホー!!

 これはこれはカルロ殿にクリス殿か。

 拙者は角田と申す者。

 お若いのに長老とは素晴らしい!」


 どちらの殿方も引き締まっておる!

 迷うでござる!

 しかしどちらとも遊びたいでござるよ!


「こう見えてもかなり長く生きてるからね僕達ヴァンパイアは!」


 ドガン!

 気がつくと金髪の男に殴り飛ばされていた。


「グボお!」


 み!見えない!

 拳が腹に突き刺さったでござる。


「おい。

 すぐに殺したらつまらんだろうが」


「あ〜ごめんごめん。

 それにしても君はなかなかかわいいねえ」

 ペロリ


「あ〜また悪い癖がでたよ」


 な!かわいいだとお!?

 まさか!遊ぶとはそういう遊ぶということなのか!?


「拙者としたことが飛んだ間違いを、まさか拙者の体が目的だとは、それなら!さあ!遊んで見せろおお!ケツ出せやああ!!」


 バゴン!!


「ぶふうう!!」


 な!なに!?


「なに勘違いしてるの!?

 君を殺してから楽しむんだよ!?

 僕は殺るのもやるのもすきなんだよ」


 な!なんてタチの悪い!!


「グォ!拙者は、殺られるのもやられるのも!

 真っ平御免でござる!!


 "悪罰一式火猿"!!」


 ヒュン!ドゴオン!!


「御身の前に」


「なんだ?

 使い魔か?」


「こやつら伊達男は!

 事もあろうに!


 我をなき者とし!


 屍をもてあそぶともうしている!!


 この怒り!


 奴らと共に!!


 焼き尽くせえ!!


 "闘"!」


 ヒュン!


 スダン!!


 炎の拳がカルロの腕を焦がす。


「へえ。

 変わった者を使うね。


 しかも意思があるんだ?


 打撃は軽いけど火は苦手なんだよね。


 でも!」


 ジャラジャラ

 ヒュン!!


 先端に重りのついた鎖を火猿に向け投げた。


「ふん!無駄でござ……」


 鎖は火猿に巻きつき動きを封じた。

 物理攻撃は基本的に通さないはずなのに!


「こいつのは特別なんだよ。

 それが魂持つ者なら動きを封じる。

 "オウレストチェーン【捕縛鎖】。


 そんでもって!」


 ザシュ!


「キャア!」


 な!切っただと!?

 白く濁った水晶のような短剣で、肩を切りつけた。


 切り口が凍っているように見えた。


「切りつけると凍る"アイスナイフ"氷短剣だ。

 さあお前の使い魔のいい悲鳴をもっと聞きたいだろう?」


 こいつもタチが悪い!


「貴様らあ!」


 バゴン!

 殴ったと思ったら姿が消えた。

 気づくと拙者が吹き飛ばされている。


 強すぎる!

 これが吸血鬼!


「ほーら!」


 ザシュ、ピキピキ


 茶髪の男が、ゆっくりと楽しむようナイフで切りつけていく。


「キャア!」


 この外道どもがあ


「貴様らよくも。

 拙者の大切な仲間を傷つけてくれたな。


 もう許さないでござる!!」


 ドガ!ドガン!


「グフうう……う」


 強……い。

 このまま死ぬのか。


「あ〜あ、飽きてきたな。

 お前のご主人様の悲鳴を聞かせてやるから、

 今度はお前がしゃべる番だ」


「や!やめろおお!!」

 火猿の叫びが空しくひびいた。


「火猿すまんな。

 拙者の力不足でござる。


 しかし!!


 ただではやられん!!


 参る!!


 ウオオオオオオ!!!!!!」。


 楽しかったでござるなあ。

 火猿とのお茶会、二人での枕投げ。

 家事になりそうになったでごるなあ。


 それではおさらばでござる!


「ふん!

 つまんねえな、殺してやるよ!」


 バギン!!ボ!

 ッボッボッボ


 メキメキメキメキ


 火猿の体が燃え上がる。

 赤かった体が、徐々に黒い溶岩のように硬質化していく。


 それは膨れていき、やがて止まる。


 硬質化した体から炎が漏れ、禍々しい炎の大猿へと姿を変えた。


「な!なんなんだよ!貴様はなんだ!いったいな!ゴベ!!」


 ズドン!グシャ!!

 クリスは振り上げられた拳に押しつぶされ燃えていく。


「クリス!!貴様ら!」


 カルロと目があうと拙者の体が急に動こなくなったでござる。


「僕らバートリの長老はまが!!」


 グシャリ!


 カルロは火猿に踏み潰され燃えていった。


 カルロが消え、意識が戻った拙者のみたものは元の姿の火猿だった。

 その姿は力を使い果たしたのか立っているのも辛そうだ。


「火猿。

 助かったぞ。


 拙者のために無理をさせたな。


 もう戻っていいぞ」


 火猿は無言で笑うと静かに戻っていった。


 今まであんな火猿は見たことがなかった。

 岩本殿に聞いてみようか?


 岩本殿!

 無事でいるのか?

 さすがに遅すぎではないか?


 ドォン!ドォン!ドォン!


 どこからか音が聞こえた。

 まるで大きな太鼓のようなおと。


 拙者は来た道を戻った。

 するとすぐそこの通路に岩本殿がいたでござる。


「岩本殿!

 無事でござるか!?」


「角田ちゃん。

 無事だったんだね。


 見てごらん。


 あれが才能って奴だ」


 そう言って遠い目で岩本殿は空をみた。


「な!なんでござるか!?」


 空から地上に光がさし


 空の音が聞こえている。


 やがて


 地上の光は広場を包んだ。

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