第40話 三十七杯目✿希望の世界

 〜エマの視点〜


「ごめんなさい。

 回収に失敗したわ」


「へえ、君達二人でも勝てないような、凄腕のエクソシストがいたとは驚きだ」


 長い黒髪、怪しい雰囲気を漂わせて、葬式の喪服姿の男がきていた。

 彼は錬金術や呪術を使い、悪魔の使役に使う玉を作った【ソウハ】だ。

 見たところ東洋人に見えるが、人間なのかも怪しい。


「エクソシストには、そんな技は使えないわよ?どんなやつだったのかしら」


 こっちは妖しい雰囲気の魔女、魔術で悪魔の魂を呼んだり、まさに妖しい魔術を使う。

 金髪にローブを着ている女は【メリザンド】だ。


 この二人に私とレオ、そして族長ギスランの五人が集まっていた。


「最初は情報通り、ハンター達が痛んだけど、あの発掘隊の日本人の他に二人の東洋人が割り込んできたんだ。

 ...あんなやつは見たことがなかった。

 火の精霊か悪魔なのか。

 そして、何より恐ろしいのはあいつだ。

 今でもあの気持ちの悪いゴリラのことを思い出すと背筋が凍る」


 私は、弟のレオと共に、クリスタルスカルの回収に向かった。

 だが、知らない東洋人に邪魔され失敗した。

 レオの青い顔を見る限り、よほどの死闘だったのだろう。


「私が相手したやつは、刃物の体をした二体だった。

 恐ろしく動きが早く、切れ味のいい刃。

 私は動きについていけなかった。

 レオが来なければ危なかったかもしれない。恐らくやつらは、日本人だと思う。

 一人はたしか、着物みたいなものを着ていたし、日本語らしい言葉を発した」


「興味深いね。

 いったいどんな仕組みだろうね?日本の神官か何かかもね。

 彼らの一部は式神というものを使う。

 悪魔の使役みたいなものだが、あれはまた別物でね、私も会いたかったな」


「所詮は人間だ。

 次回からは広い場所など、有利な場所におびき寄せろ。

 隙を作って術者本人を殺してしまえば、それで終わりだ」


「それじゃあちっとも楽しくないじゃない?私はもっと面白い殺し方をするわよ?」


 メリザンドは楽しそうに話す。


 血に飢えた魔女め!

 私たちは、楽しむために戦っているのではない!

 守るためにたたかっているんだ!


 私はあまりこの女が好きではない。

 奴らにはハンターに比べればまだマシだが、仲間だとは思わない。


「そういえば!日本でも面白いものを見たよ。

 なんとね?

 人間と化け物が、仲良く"血晶石"を探してたんだよ。

 しかも、そいつらと受肉したデーモンを戦わせたんだけど、戻ってこないんだよ!

 どうやったんだろうね?きっと倒したと思うんだよ。

 ただの人間じゃなかったのか、あの時の化け物が強いのか気になってしょうがないよ」


 この男も狂人だ。

 狂った実験をしては楽しそうにしている。


「デーモンなどいくらでも呼べばいいからいいが、俺の一族を同じように扱えば!お前の命はない!心しておけ」


「わかっているさ。

 私だって貴重なサンプルは大切にするよ。

 君は特に貴重だからね。

 なんていうんだっけ?

 連中はロードとか読んでるんだよね?

 そうそう、君は数少ないアルファの血を直接受け継ぐ存在。

 吸血鬼の連中は数は多いが、君らに比べるとどうもね」


「我らがなんだと?」


 それは、いつの間にか部屋にいた。

 現在の吸血鬼達で最も力がある男。

 アルファ【血の貴婦人】の直系でただ一人存在している、まさに吸血鬼達の王。

 その強さはロード級の枠を超えて、アルファ級と言ってもいい力をもつ。


「ああ、

 あなたは別さ。

 吸血鬼の王、【バートリ卿】」


「私の血を直接継ぐものはみな、それぞれの眷属を従え、長い間人間達との戦いで生き残ってきた精鋭。


 眠っていた長老達もみな集めた。

 直系15人の家長。

 そして、それら貴族達はみな、奴らがいうロード級だ。

 上位吸血鬼が100人、その部下1000人以上の武装した吸血鬼達だ!


 100人もいない犬どもと一緒にされては、気分が悪いのだよ。」


「誰も君らが弱いと言ってるんじゃない。

 もちろんかなり期待しているさ。


 ただ多いし、僕は君達のことはだいたい知ってるから、どうも興味がわかないというか、僕が知ってる以上のことを、期待できないということだ。

 ギスランのとこは他の人狼とは少し変わった種族で、僕としては知らないことが多く、数も少ないから貴重だということだよ」


「ククク、

 君が知ってる事など、所詮私や家長達以外の知識なのだよ?

 例えば」


「うああああ!!や!やめろおお!」


 急にレオは叫び苦しそうに這いつくばった。


「貴様あ!なにをした!」


 私はバートリ卿に飛びかかったが、そこには手応えがない。


「な!何してるんだ!エマ!落ち着け!!」


 気がつくと、私はレオに止められていた。


「いったい急にどうしたんだ!?」


 何を言っている!急におかしくなったのはレオだろ!?こいつが!何か変なことをしたんだ!」


 私はバートリ卿を指差した。


「このように、人の意識を操ったり、幻術を見せることもできるのだよ」


「ははは!!面白い!

 さすがは吸血鬼の王だ!

 凄い魔眼だ!初めて見ましたよ」


 幻術だと?あれが?


「その辺にしないか?

 これから共通の敵と戦うのだ。

 仲間とは言わないがな」


「せっかく面白くなってきたのにつまんないな〜」


「フン!まあいい。

 最終確認に来ただけだ。

 血晶石は全て予定より早く集まってきている。あと3日もあれば全て集まるだろう」


「3日!?

 それは嬉しい。実験しにあちこち行った甲斐があったよ。

 あなたはどこまでも規格外だ」


 3日だと!?


 千個の血晶石にどれだけの血と魂が注がれているのかなど考えたくもない。


 だけどもう直ぐだ。


 あの魔女が来てから

 優しいギスランは、いつしか復讐に取り憑かれてしまった。

 自分達を受け入れる世界はない。

 ならば、新しい世界を作ると。


 彼は死んではいけない。

 みんなの希望なのだから。


 ギスランもレオも、私が何としても、守らなければならない。


 もう直ぐだ。


 千人の悪魔達と、千人の怪物達。


 新しい世界を作るための戦士達。


 希望の世界は


 もう直ぐだ。

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