第39話 三十六杯目✿気持ちのいい奴ら

 〜情報屋の角田の視点〜


 ドガン!、扉を破る音がした。


 岩本殿が乗り込んだようである。

 天才的な頭脳と可愛らしい笑顔で、幾多の怪異と渡り歩いたお方だ、心配は無用なのでござる。


 拙者は周りに他の敵が他にいないか確認していたのだが、なにやらモーテル近くの駐車場から、可愛らしい男の子がこちらに向かってきたでござる。


「ウホッ!かわいい!

 がしかし!こんなところに一人でいるなど、まさか!」


 まさか、こんな夜にかわいい男の子が一人でいるなど、男娼だというのか!なんてひどい世の中だ!


「へえ、よく気がついたね。

 でも、たった一人で僕を捕まえようとでも?」


 捕まえる?拙者のことを、警察官だと思っているのか?

 なんと悲しい少年なのだ!きっと生活のために苦労して、その幼い体を売って生きてきたというのか!抱きしめたい!癒したい!ああ!いやらしい!!


「拙者は違う!ただのホ◯でござる!だがら、抱きしめたい!決して君を捕まえたりしない!安心してほしいでござる。


 拙者は少年の悲しみを癒してあげたい。


「ホ!?な!何を言っているんだ!?」


「大丈夫でござる。拙者に君の悲しみの全てを抱きしめさせてほしい!さあ!この胸で!存分になくでござる!」


 拙者は少年の悲しみを抱きしめようとした。


 ベシ!

 なぜか、少年はいきなり拙者を殴り飛ばしたのだ。


「グフゥ!……な!なぜ!?」


「はあはあ、なんなんだお前!もうとにかく死ね!」


 少年はナイフで襲いかかってきたでござる。

 その時、拙者は気づいてしまった。

 誰も信用できないほど、この少年の心は悲しみや憎しみで満たされていることを。


「やらないか!?

 いや!やめないか!!」

 レオ「しねええええ!!」


 少年はナイフを振り回す、その目が語っている。

 僕を止めて、そして優しく癒してほしい、と。

 拙者はこれでもプロである。


 任せなさい。やり場のない悲しみを拙者は止めてみせよう。

 少年の攻撃を避け、ナイフを持っている手に手刀をいれた。


 ビシ!ッカラン。とナイフは地面に落ちる。


 そして、……背後から優しく抱きしめる。


 ヒシ……


「もういいでござる。

 拙者は安全でござるよ?さあ、もう、安心してこの」


「ウアアアアアア!!!!!」


 ビキビキと筋肉が増えていく。


 あのかわいい少年が、赤い獣に変わっていく。ああなんということだ!拙者は騙されていたのだ。拙者を弄んで、実は拙者の体が目当てだったのである!


「グルルルルル!ガァ!!」


 ビリ!っとシャツが破け、左チクビが現れた!!

 拙者の服を!やはり間違いない!このままではやられてしまう!

 かわいい少年はすでに完全にケモノになってしまった。

 拙者、これでもプライドがあるでござる。ネコは好きだがあんなタチ姿の狼は御免被る。


 ん!?赤いケモノ??


「……まさか、人狼?

 クリスタルスカルを狙っている奴らのなかまなのでござるか!?」


「……」コクっと頷く。


 騙された。二度までも、拙者のホ◯心を。


 ポロリーその時、ー一筋の涙がおちるーー



「…………貴様ああ!!よくもおお!!よくもおおおお!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


「!!??」


 ガパ!トランクを開け、

中からッシュン!ととびだす!


 トランクを開けた時、天空に向かい、光が飛んでいった。


 もう、許さない。


 情報屋の角田「悪罰一式アクバツイチシキ!火猿ヒエン!!」


 ドゴオオン!!!!


 それは、轟音と共に、突如地面に落ちてきた。

 あたり一面に爆風が吹く。


「……御身の前に」


 主人に頭を垂れる。

 美しい顔立ちの女。

 しかし、全身は青白い炎で構成されている。

 それはまるで炎の妖精。


「久しいな……火猿。

 ……拙者はとても傷ついている。

 その獣は拙者の心を弄んだ。

 優しさに漬け込み、拙者を犯そうと!!

 お前の主人を!!

 ならばだ。

 ならばお前はなんとする!」


 メキ!!


 女の顔は夜叉のように、怒りの化身とかしていく。


「そうだ!我が怒りを!お前の怒りを!奴に!!怒りの炎を!!!」


 ボウ!!と炎は勢いを増す。


「"炎舞"!!」


「ァァアアァアアア!!!」


 ドガガガガ!バゴン!!打撃音が響く


 火猿は舞う!凄まじい炎の連撃が叩きつけられた。

 なんとか防御したものの、獣の毛に炎がまとわりつく。


 火猿に蹴りや爪で反撃するが、炎が体にまとわりついていくだけだった。。

 単純な物理攻撃は効かないのである。


「クソォ!な!なんなんだよ!!うああ!!」


 たまらず変身を解いて人間に戻る

 モーテルの方に逃げていき、もう一人とともに逃げていった。


「追いますか?」


「いいでござる。足では追いつけないでござる」


「御意。」フシューと炎は消え、


 火猿をトランクに戻す。


 ついカッとしてしまったでござる。

 さすがにやり過ぎてしまったでござるよ。

 火猿は、拙者の感情を共有している。

 怒りや憎しみで強くなっているのでござる。

 今回のような、色恋の感情の時は特に張り切るでござる。


 その昔、男に酷い目にあって死んだ女が、強力な妖怪になってしまった。普段は美しい姿をしているが、自分に狂った男の全てを焼き尽くす妖怪でござる。

 拙者達はかつてこれと戦い、拙者以外はその恐ろしい魅力や炎にかなり苦戦していたのだが、なぜか拙者には魅力がきかなかった。

 そのまま封印でも何でもすることができたが、拙者には彼女の悲しみ、弄ばれた気持ちが痛いほどわかったのでござるよ。

 それで少し話をしたのでござる。

 昔のことや彼女の恨みを聞いたでござるよ。

 いつしかそれはガールズトークのようになり、そして彼女は拙者を認め、拙者も彼女を認めて契約したのでござる。今は悪さもせず、拙者の部下になったのである。


 自我が強く、メンタルが不安定なので、依り代の改造も複雑な設計、拙者以外の言うことはきかないが、拙者が唯一扱うことのできる式神でござる


 モーテルに入ると、やはり岩本殿がうまくやっていたようでみな無事だったでござる。


 岩本殿の友人にその友人達も。


「角田ちゃんお疲れ。

 もしかして人狼がまだいたのかい?」


「ええ。

 拙者を、犯そうとしたゆえ撃退したでござるよ」


 ウホ!いい男が二人もいるでござるよ!

 一人はイタリアの伊達男!しかもこの筋肉は、間違いなくガチムチな軍人上がりではないか!!


「あなたもこの人の友達なの?」


「……それにしても、あなたはしあがっている!!ウホ!!素晴らしい筋肉だ!もしかして!ウホ!あっちの方も仕上がっているのでござるか!?」


 拙者は伊達男の手を握り、褒め称えた。

 エリカ「(なんで無視されたの!?)……あ、あのあな」


「黙れこのくされ◯◯◯があああ!」ギロ!!


「えあ!?」


「し!仕上がってません!

 助かりましたよありがとうございます!

 だからはなしてください!(怖いよマンマ!)」


 残念でござる。


「がんちゃん?彼はだれなんだ?」


「彼は角田ちゃんだ。新宿の情報屋。

 僕やハルちゃんの親友でもある。

 つまりは、これからは君の親友でもある。

 ちなみにガチホ◯だがとても優しいナイスガイだ。

 君のためにわざわざイタリアまでついてきてくれたんだ」


「そうか!角田さんありがとうございます!」ニカ!


 うああ!少年でござる!夢とロマンを追う少年の笑顔でござる!!


「ウホ!!角田さんなどと行儀のいいものではないでござるよ。もっとフレンドでいいでござるよ」


「じゃあ俺も角田ちゃんって呼ぶよ。

 角田ちゃんもしんちゃんと呼んでくれ。

 今日から俺も、君の友達だ!」


 ガシ!イッツ!抱擁タイム!


 あ!熱い抱擁だと!?このガチムチデブの拙者に臆することなく!?なんて!なんて気持ちのいい男なのだ!!


「さて、自己紹介も終わったところで、これからどうするかだ。

 連中の仲間はまだまだ多いよ。

 警察や行政なんかにもいる」


「思っていたより深刻ね。

 でも我々はバチカンに戻らないと。

 これはかなり危険なものなの。


 まずは他のメンバー達と合流するわ。

 あなた達3人も連中に顔を見られている。

 無事には出国できないわよ。


 それに、なかなか戦力にもなりそうだしね。

 このまま私達ときてくれないかしら?

 一番安全だと思うわよ」


「確かに出国するのは難しいね。

 輸送業者は秘密主義で人間は運ばないし。

 ハルちゃん達も向かってるみたいだから、とりあえずは固まって行動したほうが安全だろうね。


 それにね、ハルちゃんからのメールだと、日本ではデーモンが出たらしい。

 しかも受肉した本物の怪物だ。

 それはまるで神話に出てくる悪魔そのものだったそうだ」


「デーモンが!?いったいどうやって!」


「日本で、黒い玉を使った呪術道具を見つけたんだ。

 それは穢れた魂をつなぎとめていた。

 デーモンや悪霊を、この世に止めたりするものだとみて間違いない。

 さらに、その連中は実験だといって、日本を出て行ったらしい。

 目的地はここ、イタリアだ」


「もし、その実験が日本だけでなく、世界中で行っていたとしたら?

 それが全て一箇所に集まるのだとしたら?

 予言どおり、バチカンは火の海になる!

 それにクリスタルスカルを連中が欲しがってるって事はだ!

 化け物と悪魔が手を組んで、戦争になるってことかよ!!」


「そういうことも考えられるかもね。

 そのクリスタルスカルっていうのはなんなのだね?

 あの玉に似ているが、もっと禍々しいものだね」


「これは、怪物達の真相であるアルファの亡骸の一つ、アルファを復活させることができるものです。

 100年前に、アルファ一人で十字軍が壊滅したという伝説があるくらいです。

 でも、真祖が恐ろしいのは、その気になれば、強力なロード級の怪物達を作ることができること。

 そこから爆発的に増えたら、人間の世界は終わります。

 今はアルファもロード級も殆どいませんがね」


「怪物達の親玉か、なぜそいつらは今いないんだ?」


「人間に倒されたそうですよ。

 彼らは、巧みな戦術で弱点を突きを、伝説級の怪物達を次々に滅ぼしたとききます。

 今は我々も、やみくもに戦わず作戦をしっかり立てて戦っています」


「なるほど、化け物はどこの国でも人間に倒されるのですな」


「ところでこういう役割は、神様とかも働いてくれるだろう?僕達の国の神様達はせっせと怪物退治してくれてるのだが?」


「神様がそんなことするかよ?だいたい神にあったことでもあるのか?バカバカしい!」


「僕もしんちゃんもあったことはあるよ。

 僕は最近大勢の神様と花見したし。

 その時、武神のクロウさんが付喪神を切ろうとしたんだが、まあ丸く収まったよ」


「まじで!?いるの?神様が!?」


「まあ君たちのとことは違う神様だがね。

 なんせ八百万以上はいるし、たまに死んだり、また蘇ったりと忙しいんだよ。

 あとは、天使は見たことあるよ。

 羽っぽいの生えてるとこ見たことあるし」


「天使も!?本当にいるのか!もう話が凄すぎてついていけない!エリカが壊れかけてるよ!」


「岩本殿は目がいいのでござるよ。


 それにしても、事が大きくなりそうですな。

 悪魔に怪物、我々だけでは対処が仕切れませんな。

 敵の数も種類もわからないとなると、作戦も限られるでござる」


「やはり話が大きすぎるね。

 うん!逃げようかしんちゃん!」


「ダメだ!!

 ……これは俺のせいだ。

 俺のせいで……人が死んだ。

 これからさらに死ぬかもしれない。

 俺だけにげるなんて、できないよ。

 がんちゃん達だけでも逃げてくれ。

 俺は、最後までのこ」


「しんちゃん!!!

 ……僕はね、君に死んでほしくないんだよ。

 だからもし、君が最後まで残るなら、君を行かせた僕にも責任がある。

 僕も最後まで残るよ。

 それに親友を見殺しにできるわけないだろう?


 ただ角田ちゃんはここまでだ。

 君をこれ以上巻き込むわけにはい」


「岩本どの!!!

 寂しいこと言わないでほしいでござるよ……拙者が帰らない事くらい、知ってるでしょうに。


 なあに、今までだって、何とかなったでござる。

 今回もきっと、何とかなるでござるよ。

 それに依頼料も、もらってしまったのでござるよ?」


「角田ちゃん。

 君ってやつは本当に優しい。


 そうだったね、僕の親友はそういうバカバカしい奴ばっかりだ!ははは!そうさ!やってやろうじゃないか!!」


「ウホホホホ!

 まあ死んでもお盆には帰れるでござるよ」


「ああ!死んでも帰ろう!野菜で帰るものたのしそうだ!ハルちゃんはキュウリだな!あははは!」


「俺はナス!」


「ウホ!拙者はナスになりたいでござる!!」


「ギャハハハハ!!」


「こいつら……正気なのか」


「日本人はこういう人種だと祖父が入っていましたよ。

 普段はおとなしいですが、時には野蛮で恐ろしい事をする。

 誰か大切な人のためなら、時には楽しそうにみんなで死地へと赴く、"高貴な野蛮人"だと」


 拙者には親友がいるでござる。


 みんな


 気持ちのいい奴らでござる。

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