第38話 三十五杯目✿普通の拝み屋

 〜拝み屋のがんちゃんの視点〜


 僕と角田ちゃんは、、まず荷物を輸送業者へ預けに行った。


 輸送業者と言っても、半分は違法な荷物を取り扱うような輩だ。

 料金もバカ高い。

 それでも、過去に何度か利用したこともあり、信用はできるのだ。

 しかも何より早い。

 いったいどれだけのルートを持っているのか知りたいくらいだ。

 予定では、明日の夜明けには受け取れるときたから驚きだ。

 さらにサービスもいい、ホテルまで届けてくれる。

 大きめのアタッシュケース二つで、かなり料金は取られたが仕方がない。

 なにせ、機内に持ち込めるような代物ではないからだ。


 荷物を預けて、イタリアに飛んだ。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ホテルにつくまで、隣で、うほうほ五月蝿かったが、無事ついた。

 僕達は、しんちゃんのアパートの近くに、ホテルを借りた。


 角田ちゃんはしんちゃんの顔がわからない。

 まずは写真を渡して、調査開始だ。


 僕は現場、角田ちゃんはホテルで情報収集。


「さて、まずはその友人とやらの情報を集めるといたしましょうか。

 それにしても、イタリアというのはラテン語も使うので、なかなか大変ですな。


 ハッキングしても、内容を調べるのに一苦労ですな。ははは!!」


 そんなことをいいつつも、角田ちゃんはかなり頭がいいから驚きだ。

 言葉の壁などすぐに崩壊させる。簡単なラテン語は機内で覚えた。

 わからない言葉もすぐに調べて内容はだいたいわかる。


「僕の方はアパートを見てみるよ。

  それと、発掘現場かな?」


「発掘現場なら見つけたでござる。最近近くの古い教会で、作業をしていたようでござるな。

 そしておそらくは、これですな!」


 角田ちゃんのパソコンに、画像が写し出された。

 それは、数人の男達の真ん中に、しんちゃんが写っている写真。


「これは髑髏?なんか赤いねえ」


「この写真が撮られた後に、大学側から、警察の方に作業員のリストがメールされていますな。ただリストには日本人の名前はなし」


「なるほどね……、警察の方には、少なくとも連中の仲間がいるわけだ。しんちゃんはリストにないとすると、個人的な付き合いで現場にいた。

 奴らは。しんちゃんがいることに気づかなかったんだな。

 だけど写真は連中も見ているだろう」


「幸か不幸か、写真が回収されて方々にメールで送られたのは、岩本殿が電話を受けた時間より少し後、運が良ければまだ捕まってはいないやもしれませんぞ」


 さすが角田ちゃんだ。この短時間でかなりのことがわかった。


 僕は一人で、まずはアパートに向かった。

 観光など今はしている暇がない。

 アパートの鍵は壊され、中はひどく荒らされていた。ゴミ箱の怪しいティッシュの山だけが手付かずだ。


 これはきっと、あれだろうな。

 僕はそのティッシュの一つを取り出した。

 しんちゃんの煩悩の塊紙に、念を込め、簡易的な思業式神を作り出す。

 拝み屋のがんちゃん「さあ、パパを探しに行こうか」


 紙に念が入り込み、イメージしていたウサギになった。

 この式神は、僕の念で動く、しんちゃんの匂いで作ったようなものなので、これで居場所が近いと教えてくれるように命令を出しておいた。

 僕はぴょんぴょん跳ねる煩悩ウサギとともに、一度発掘現場に向かった。


 特に何もない、焼けた教会があるだけ。

 かすかに血の匂いとともに、新しい火事の匂いを感じた。


 あまり、好きではないんだが、仕方がないのでメガネを外すことにした。

 僕がメガネを外すと!

 超イケメンから、超絶イケメンになる!

 さらに!!!

 目が良くなるのだ!!


 僕は本家の人間や友人の妹の用に、才能があるわけではないんだが、一つだけ持って生まれたものがある。

 それは、この目だ。

 これは、この世のものではないものを見通す。

 僕のような。霊力や法力が少ないものには、普通こんな力はない。

 これは血筋なのだろう。

 うちの家系はそれだけが取り柄なのだ。


 幽霊などがいたら、この世界は幽霊だらけだ。

 誰かがそんなことを言って笑っていたが、実際、幽霊だらけなのだよ。

 彼岸の存在を見るということは、その存在が新しかったり、強い意志を持っていたりすると、より見えるものなんだが、普段は見えないだけで、古く弱々しくなっているものも、そこにいるのだ。

 存在が弱く、薄れているから見えにくいだけだ。

 それは、もう人の形ではなく、ただの思念だったりしてふわふわ浮いているものなど様々だ。


 僕の目は、そんなものがすべて見えてしまう。そうすると大変なのだよ。普通の生活なんか送れない。

 ハルちゃんの家などメガネ無しだと、廊下も歩けないくらいだ。

 それでも、あの家は、すべての部屋に護符を仕掛けてあるから安心なのだ。家の外なんかは無理なので覗いてる連中であふれている。


 そんな、見えすぎる体質な僕でも、このメガネをかけると、あら不思議。

 視界はかなりクリアになる。

 このメガネ自体が呪物で、一種のフィルターの役割をする。よほど強いもの以外はほとんど見えなくなる。これは本家が作ったもので、僕の祖父が譲ってもらったそうだ。


 もう一度言うが、僕にはお祓いの才能はあまりない。

 この目くらいだ。

 そんな僕が、今まで厄介事を解決するときには、だいたい解決できたのは、交渉と知識、仲間たちと作り上げてきた、呪術と科学の融合だ。

 その代わり扱いが難しくて。僕以外には使えなかった。

 最近、やっと使えるようになったものもあるのだけれど、それでも一般人が使えるものはまだない。


 簡単に言うと、力技系統と精神的系統、そこからさらに別れるので曲者ばかりだということだ。

 そんな秘密兵器があれば失敗などしないと思うだろうが、例えばしんちゃんの時は、さすがにあのかわいそうな付喪神を滅ぼすのは気が引けたんだよ。

 別に人を殺すつもりがあったわけじゃなかったみたいだし。

 それでも人は惑わされると、負の感情に飲まれて、おかしくなってしまうことが多い。

 結界で閉じ込めて交渉するか、戦うか迷っていたんだが、付喪神ともなると僕くらいの結界はすぐ壊して、またどこかに行ってしまった。


 その後は特に被害もなさそうだし、金にもならないから放っておいたんだが、ハルちゃんが解決してくれた。だが、結果で言えば僕は失敗した。


 しかし、今回は力技でもなんでもして、しんちゃんを助けないといけない。

 あの頃のしんちゃんは、失恋でまいっていたから、イタリアで楽しんで忘れさせようと思って行かせた。

 僕のせいでしんちゃんが危ない。


 だから僕にできることはなんでもやらないといけない。


 カチャカチャ


 僕は、メガネを外した。

 途端に、視界が色とりどりの世界に変わる。


 見つけた。

 最近死んだばかりの霊がいた。


「……俺が見えるのか?」


「ここで何があったか教えてくれるかい?お礼はするよ。」


 彷徨う作業員は語る。

「クリスタルスカルを見つけた。

 次の日に……化け物が襲ってきた。

 初めは普通の男の子と女の子だった。

 そいつらはクリスタルスカルを探していた。

 教授があいつらに教えていれば!教授は逃げた!

 そしたら女の子が、急に赤い獣に!みんな引き裂かれたんだ。

 助けてくれ。痛いんだ!」


 赤い獣になったとすると、妖怪や鬼のような、半分は彼岸のものの仕業だろう。


「ありがとう。

 さてお礼をしないと。

 君にはいくつか選べる道がある。

 気づいていると思うが、君は死んでいる。

 ①あの世に行って成仏するか。

 ②この世に残って彷徨う。

 彷徨う場合、悪さをすればいつかあの化け物みたいになってしまう可能性もあるし、自我をなくしてしまうこともあるので、あまりお勧めはしない。

 ③は、①も②とも違う。

 僕の下僕として働くものになるか。

 その場合は自由はないが、新しい肉体を与えよう。

 化け物が憎ければ復讐もできるし、世の中のためにもなる。

 ④もあるがこれは一番勧めない。

 拝み屋の僕と戦うだ。

 さあ、選びたまえ」


「今じゃないと……ダメ?」


 僕は、無言で睨む。


「うっ!……あいつらが憎い!俺たちを虫けらのように食った、あいつらは許せない!」


「俺も許せない!俺も連れてってくれ!」


「俺たちに、力を貸してくれ!」


 おっと!教会からもう一人出てきた。


「いいだろう。その代わり、契約すると僕には逆らえないからね」


「「かまわない!!」」


「契約は成った。名を授ける。ゼン、ゴウ、僕の命尽きるまで、その魂を守ろう」

 二人の姿は消え、僕の魂に刻まれた。


 僕は、2人の作業員達と契約した。

 これは魂の契約だ。

 僕が死ぬか、僕が契約を破棄しない限り続く。

 使役タイプの式神は、自らの意志を持つ。

 まだ魂を移していない2人分の新作の依り代があるのでちょうどよかった。


 本家に見られたら外法だと言われるだろうが、僕には才能がないんだ。さまよえる霊魂や悪霊を雇っているだけだ。


 僕は、煩悩ウサギとホテルに戻った。

 情報を集める角田ちゃんの横で、僕は敵の正体を探して情報をつかんだ。

 作業員改め、ゼンとゴウの話では、人から狼のような獣になったという。

 間違いなく、人狼だろう。

 日本でも過去に出たことがあるので間違いないと思うが、満月でもなく自在に変身できるとなると、かなり上位のものだとわかる。


 やがて夜が明けようとした頃、荷物が届いた。

 これで後はしんちゃんの居場所だけだ。


「岩本殿。見つけたでござる。

 大学の監視カメラに移ったところまではすぐだったのですが、そのあと車で移動だったもので、調べるのに時間がかかってしまったでござる。

 隣町に向かって、そのあとは急に姿が消えたでござる。

 この辺りはモーテルがあるので、おそらくはそこかと」


 僕らは準備をして出発した。

 すっかり朝になってしまったが、急がなくてはならなかった。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 タクシーで隣町まで向かい、煩悩ウサギの反応が、モーテルの近くで強くなったのでそこでおりた。

 一つの部屋の窓ガラスが割れていて、女の子の声がした。

 間違いない!奴らもおいついている!


 僕は角田ちゃんに、他の仲間がいないか確認をお願いした。


 しんちゃんの煩悩ウサギに扉を壊す命令をだす。


 ガン!!ドガン!!扉が壊れると煩悩ウサギも消滅した。


「やあしんちゃん。

 ずいぶんと厄介なことになってるじゃないか。

 それにしても、……僕の友人に喧嘩を売るとはいい度胸だねえ。

 礼儀も知らない狼少女には、教育が必要なようだ」


「お前は、いったい」


「拝み屋をやっいるだけの、

 ただの友達さ」


  見事に、赤い化け物がいた。

 さっきの声からするに、女の子の方だ。


 しんちゃんはアホみたいに口を開けてびっくりしているし、満身創痍な仲間らしい軍人さんが戦っている最中だった。


 軍人さんに挨拶を済ませ。

 この怪物と向き合う。


「グルルルルルガァア!!!」


 狼少女が、今にも飛びかかってきそうだ。


 僕は持っていたケースをあけ、両手で印を結ぶ。


「"前後二式"!」


 ガチーン!!と響く金属音。


 術式を施してある薄い合金の板が、まるで折り紙のように、一瞬で二体の人形を作っていく。

 キラキラと輝く、銀と玉鋼でできた、刃物の鬼二匹が現れた。


 狼少女は身構えた。


「なんだよ、あれ」


「いったい、なんなんだよ」


「言ったじゃないか、拝み屋でそいつの友達さ」


 僕のやり方は、言葉で術式を発動させる。


 印を結びなおし、命令する。


「さあ、君らの敵だ、張り切っていこうか。

 ……"闘"!」


 前後二式は、全身の装甲板の裏側に術式を仕込んであり、肘とカカトについている刃は、日本刀に近い切れ味だ。

 さらに、刃にも退魔の呪術が施してあるため基本的に彼岸ものたちでも切れる。


 ッザン!! ビシャっと血が壁に飛び散る。


 二人同時に切りかかったが、人狼が腕で防御し、一瞬で後ろに飛んだせいで浅い。


 人狼が鋭い爪で襲いかかる。

「ガァ!」


 しかし、二人には届かない。するりとよける。


 二人の意識はシンクロする。

 そして人間とは違い、肉体の限界はなく、魂が思うままに体を動かせる。

 そのため、連携や反応速度などすべてが規格外な代物だ。


 ブン!!ブン!!、空を切る音はまるで刃物でも振り回しているようだ。


 まだまだ素人の動きだが今の二人には避けられないスピードではないため、すべてが空振りだ。


「ガァ!グウッ!!」


「僕の見たところ、心臓を破壊すればいいのかな?」


「ああ!奴らは人狼だ!心臓か首をはねるかすれば殺せる!」


「だそうだ。そろそろしまいにしようか」


 ガシャン!!とまどが割れる。



 軽い火傷を負っている、赤い髪の少年が部屋に飛び込んできた。


「エマ!!撤退だ!!」


 ダン!!


 一瞬で逃げられた。

 あの俊敏さは、暗い場所だと厄介なので深追いはしない。

外はまだ薄暗さがあり曇っている。

 夜目がきかないこちらには致命的だ。

 それに相手が丸腰でよかった。


 なぜなら、前後ニ式は結構な貧弱さが弱点だからだ。

 ライフル程度の貫通力で二、三発くらえば、即刻、戦闘不能だ。

 当たらなければいいのだよ!当たらなければ!


「さて、なんとか生きてるみたいで安心したよ。」


「お前!!つえーじゃねええかよお!!こんなの持ってたんじゃん!!!なんであの時!しねえ!!今すぐお前の墓を掘ってやるからしねええええ!!!」


「君は僕をなんだと思っているんだ。

 僕にはできないことの方が、多いのだよ」


 僕は霊力も少ない


 才能もない


 普通の拝み屋なのだから。

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