第36話 三十三杯目✿赤き人狼の戦士達
〜レオの視点〜
みんな死地へ向かう。
この戦争に反対するものはほとんどいなかった。
世界中を旅して、どれくらいの時がたったろう。どれだけの仲間が増えては死んでいったのだろう。
僕はレオ。
15歳の時に人狼になった。
姉と父さんと3人家族。母さんは体が弱くて僕が3歳の時に死んだ。僕の母親代わりをしてくれたのはエマ姉さんだ。
小さな田舎の村に、家族3人で暮らしていた。
あれは満月の夜のこと。
家の中に赤い獣が侵入した。
ガシャン!
部屋の窓を突き破って、それは、僕とエマ姉さんの前に現れた。
「グルルルルルウウウ!」
暗闇の中に大きな牙が光り、獣が笑ったように見えた。
ドン!!
父さんは後ろからショットガンを打った。しかし、獣はそれをかわし、父さんを引き裂いだ。
「レオ……エマ」
「キャアアーー!!!」
エマ姉さんが叫んだとき、僕は横腹を噛みつかれ、壁に放り投げられた。エマ姉さんは肩を噛まれた。
最初は何が起こったかわからなくて、体が動かないことが不思議だった。僕が倒れている床から、血が流れるのが見えた時に僕も死ぬんだと思ったのだ。
獣は、エマ姉さんの前に立って、まるで恐怖する僕達を見て楽しむように、部屋の中をゆっくり歩いて、父さんだったものを食べ始めた。
「あ……ああ」ガタガタ
エマ姉さんは恐怖で震えていた。次は自分だとわかったんだと思う。でも
ヒュン!!ッダ!!
ドス!!
「ガ!ガアッ」バタン!
部屋に入ってきた影は、早すぎて見えなかった。ただ倒れた獣の胸に穴が開いて、その近くにはさらに大きな獣が、手に心臓を持っていた。そして心臓を握りつぶした。その血が僕の体にかかった。
「すまない。俺のせいだ……暴走したこいつを止められなかった。すまない」
先ほどの獣の姿はなく、赤い髪の悲しそうな男がいた。
そこで僕は意識を失った。
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気がついた時には何故か、噛まれたはずの怪我はなかった。
「夢かあ。よかった」
そう思いたかった。でも、目が覚めた場所は見知らぬ部屋だった。
現実は突然突きつけられた。エマの髪が赤くなっていた。そして僕もそれは同じだったのだ。
赤い髪の男がやってきた。あの夜に助けてくれた人。
「俺はこの家族をまとめる族長、ギスラン。お前らを襲った奴は、俺の家族だ。あいつは一族の掟を破って、ここから脱走した。殺戮を繰り返して、それを楽しむだけの怪物になってしまった。俺は奴を止めるのが遅すぎた。
すまない!
お前たちのような!!まだ若い人間を俺と同じ獣にしてしまった。すべて、俺の責任だ」
ギスランと名乗る男の顔は、ただ後悔と懺悔に溢れていた。僕もエマ姉さんも何も言えず、ギスランを見つめていた。
僕は姉さんと二人で外に出た。
そこは、森の中の小さな集落のようなところ。ログハウスが10件ほどたっていた。
「エマ。僕は、僕達はこれからどうしたら、あの怪物みたいになったって、怖いよ、僕は怪物なんかになりたくない!」
「私があなたを守るわ。絶対に!」
二人で生きていこうと決めた。しばらくは様子を見て逃げ出そうと考えていた。だけどエマは違った。僕達がどんなものになったか、この家族と呼ばれる集落のことを知ろうとしたんだ。
実際逃げていたらあの獣のように、人を襲っていたか、追ってきたギスランに心臓を握りつぶされていたことだろう。
赤き人狼の一族。それがここの家族だった。みんながみんな、獣になりたくてなったわけじゃなかった。普段は普通の人間だった。
赤き人狼の一族は、満月でなくても獣の姿になれることができる。他にも人狼はいるそうだが、普通は満月の夜だけに、ほぼ暴走状態になりただ人を襲う。
ここの一族は血が濃いらしく、一定の年長者から血を受け注いだものは力も強く、自我を保ったまま自由に変身できる。ただ満月の夜は気持ちもたかなり危険というのは変わらないそうだ。
僕らを襲ったやつはもともと残忍だった性格と、族長のルールに従うのが嫌になり脱走したようだった。
僕らは本能的には血を求める。人を食べないと力が弱くなっていく。そしていずれは死んでいくという。ただ生き物であればそれでも生きてはいける。あまり美味しいとは思わないけど、僕には人を喰うよりはマシだった。
変身した時の力は凄まじい。片手で木を倒し、傷の治りも早く、老いることもない。
心臓を壊されるか、首を刎ねられるとさすがに生きてはいられない。あと銀の武器は弱点だ。焼けるような痛み、傷がしばらくは治らない。出血が多い場合は死に至るのだ。
僕達が家族となり何年もたっても、割と平和な日常だった。
変な話だけど、ここにも慣れてきた頃、その日、族長や主だった若者は村をでて鹿や猪などの狩りをしていた。僕と姉さんも狩りを覚えるため同行したのだ。
村に帰ると家はすべて燃えていた。
人間のハンターの襲撃があったのだ。僕達に優しくしてくれたおじさんや、少し年上で仲良くなって遊んだ男の子達。
村にいた家族の三分の一が死んでいた。変身して戦ったあともある。しかしみんな首を刎ねられ、串刺しにされて、まるでオブジェのようにされて、死体を犯し楽しそうに笑っている姿に僕は恐ろしさを感じた。
「ウアアアアアア!!!!」
激怒した族長の強さは異常だった。姿もほとんど見えず、叫び声だけが聞こえた。ハンターは10人近くいたがたった一人で引き裂いた。家族みんなが悲しみ、激怒した日。
それでも僕達は人間達の怖さは知っていた。
その後も見つからないように各地を転々と移動し、また新しい仲間が増えたりした。
何十年経ったのだろう。僕達は人間達からずっと逃げてきた。何度も繰り返し襲撃され、その度に悲しみが大きくなった。
家族を失う悲しみで満たされていた。
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ある日、ローブをきた金髪の女が現れた。その人は族長と長い時間話していた。
その人がきてから族長の目には優しさはなくなった。ただ戦う戦士の目だったのだ。
その日、族長の命令で僕らは集められた。
「人間達は我らを狩り、己のみが正しいという。我らに存在することは許されないのか。
否!否だ!
我らは狼煙を上げる!
奴らの神を!奴らの信仰を打倒する!
幾多の怪物、幾多の悪魔の兵士達と共に!
人間の世は終わり、我らの世が始まる!
それはもう直ぐだ!もう直ぐだ!
眷属達よ!
戦いを望まぬものに我は何も望まない!静かに暮らすことを許そう。
しかし!我に続くという誇り高き戦士よ!
自らを戦士と思う者よ!
赤き狼煙を上げて!我に続け!!」
「ウオオオオオーー!」
みな怨みと憎悪を吐き出した。
それはエマさえも、優しかった姉さんさえも飲み込んでしまった。
僕は憎いんじゃない。ただ悲しいんだ。怖いんだ。
エマがいなくなったら僕には何も無くなってしまう。
僕は赤き人狼の戦士達と共に旅立った。
エマを守るためなら僕は戦う。
たとえこの心が
醜い獣に成り果てても
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