第34話 三十一杯目✿悪魔の謀略
風森家の墓地の中を、サガミはクロウを抱いて歩く。
微笑む地蔵達の前で立ち止まると、片手で地蔵の頭に触れた。
ゆっくりと光の粒に姿を変え、二人の姿は、現世から消えた。
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ガヤガヤ ガヤガヤ
「2日は並んでるのに、
まだ順番待ちだよ〜」
長蛇の列の中で、男は半ば諦めたように、つぶやいた。
列の奥からこちらに向かってくる姿がある。
「お待たせ致しました〜!
サガミさまぁ!こちらへどうぞぉ!」
ミニスカ浴衣の鬼が、腰に金棒をぶら下げている。
豊満な胸の女獄卒が、手を振っている。
鬼についていくと部屋に通された。
そこには、大きな鬼が座っている。
「お待たせして、申し訳ありませんな。
今のシーズンは自殺者が多いものでして、
それで、今日はどういったご用ですかな?」
外見は、まさに恐怖の魔王。
長い黒ひげに、赤い肌。
ギラギラとした目を見開いている。
地獄裁判所の最高責任者の一人。
閻魔大王、そのものである。
「忙しいところ感謝する。
実は先日、おぬしの獄卒がなぜか、現世にいて悪さをしたので送り返した」
「ご迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした。
原因は現在調査中ですが、なぜあんなことになったのか」
「あれは何者かが、無理矢理呼び出したのじゃ」
「なんですと!?
そんなことを一体誰が!?」
恐ろしい顔が、さらに険しさを増した。
「心当たりがあっての、煉獄の先にある、地獄へ行きたい。
そのために門を通りたい」
「なるほど、あの地獄へ。
では、悪魔達が絡んでいると?」
「かもしれん。
しかしどうも腑に落ちないんじゃよ。
古い友人への挨拶もしたいので、聞いてみよう思ってな」
「あなたは相変わらずかわっている。
友人が多いのはうらやましいですが、無茶はしないで下さいね。
あなたに死なれたら困りますので。
しばらく不作にでもなって、
餓死者が並ぶのは、もう見たくはないのですよ」
閻魔は、書類に判子を押して、
部下らしい鬼に渡す。
「俺が守るから大丈夫さ」
「今の世は平和じゃからの。
そのくらいで飢えたりはすまいて。
他の王達にもよろしく伝えてくれ。では」
「世界中では未だ、平和とは言えませんがね。
それでは、おきおつけて」
先ほど案内してくれた鬼についていくと、いくつもの巨大な門と、それをつなげる道が続いている。
それは一つの宇宙空間に似た場所だった。
星が美しくきらめく世界は、地獄に近いとは思えないほどだ。
サガミとクロウは悠然と歩いていく。
やがて、一つの門の前に立ち止まる。
ミニスカ獄卒「開門!!」
そこにあるのは、大きな黒い門。
声と共に門が開く。
やがて、中から門番らしきものがが現れる。
燕尾服を着た、頭にツノが生えた男
「サガミとクロウじゃ。
明星の王に会いに来た」
「しばし、お待ちを」
すぐに燕尾服の男が戻ってきた。
「サガミ様、王がお待ちでございます」
カツカツカツ
門を抜けると、薄暗い廊下を歩く。
前を歩く燕尾服の男の、足音だけが響いていた。
やがて、大きな門が姿を表す。
門の前には、象と同じような、巨大な黒犬が寝ている。
その向こうには、黒い柵のような門がある。
そして門の向こうには、燕尾服の男と瓜二つの男がいる。
「王にお客様でございます」
「承っております」
お互いに男達は一礼すると、黒犬も道を譲った。
ガゴン!ギイー。
門の先に大きな館が見えた。
館に入ると長い通路を進み、やがて一つの部屋に入った。
中に入り3人は真ん中に立つ。
白い陣が受け上がり、3人は光の粒子になっていく。
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「こちらでございます」
そこは、全てが白い壁の建物の中だった。
ごく普通の白いドアの前に着くと、ドアを開け、中に通された。
中に入ると、そこはまるで図書館、円形の本棚の塔とも言える。
それは、天井が見えないほどだった。
「やあサッちゃん。待っていたよ」
部屋の真ん中にポツンとあるソファー、そこには美しい白い髪の青年がいた。
「ひさびさじゃのう。
調子はどうじゃ?ルーシー?」
「最近は本ばかり読んでいるよ。
漫画っていうのが、とても面白くてね。
やはり人間は面白いものを作るものだ。
今度どれか貸してあげよう」
柔らかい声と、美しい微笑み。
青年は本をおき、指を鳴らす。
さっきまで何もなかった場所に、ソファーが突如現れた。
「ありがたいが、
わしはこれで間に合っとる」
サガミは、盃に酒を注いで飲みだした。
「俺は読みたい」
「それで、今日はどうしたんだい?
まさか遊びに来たわけではないだろ?」
微笑みも声も、先ほどと変わらない。
しかし、どこか不気味さを含んでいた。
「最近妙なものが出回っておる。
それは黒い玉なんじゃが、地獄の奴らを呼び出すような、呪物じゃ。
山の奴らかとも思ったんじゃが、やり方が違いすぎるしの?
何か知らんかと思ってな、友人に会いに、わざわざ来たのじゃよ」
「そんなことか。
まあ、知らないことはない」
「ほう?
どこの馬鹿が、あんなものを持ち込んだんじゃ?」
「そうだねえ。
地獄の王の誰かが絡んでる、とだけ教えよう」
「一体だれじゃ!?
何のためにそんなことを!?」
男は立ち上り、天を見上げる。
「何のために!?
何のためにだって!?
僕らがやることなんて、決まってるじゃないか!?
人間の魂を試すのさ!!
光か闇を!闇か光を!
何を選びどこにいくのか!
僕らは神を!父を愛しているのだから!
……でもね、今回は違う。
僕ら、地獄の総意ではないのだよ。
私利私欲に走った、馬鹿な王の一人さ。
人を減らして、強力な魔物でも復活させて、地獄や現世を手にしたいんだよ。
くだらないよ。
僕にも勝てない、神の一人が、
父なる神に、喧嘩を売ろうというのだから」
「王の一人が、まさか!
現世に攻撃を仕掛けるというのか!?」
「そのつもりだろうさ。
あのくだらないおもちゃで、すでに自分の軍隊を送り込りこんでる。
いくつか魂を食わせれば、現世に受肉する。
強力なやつを呼ぶには、あの器では無理だろうが、現世の怪物とも組んでるんだよ。
そう煉獄の住人達さ」
「煉獄の住人だと?
今の現世にいる化け物たちのなかに、まだ大物でもいるのか!?」
「いや、現世ではいない。
煉獄で殺し合いを続けている、始まりの真相たちでも、蘇らせるつもりさ。
僕たちの友、始まりの吸血鬼。
人間を殺し、人間を愛した。
神を愛して、神を呪った。
あの狂った夜の王様みたいにね」
「本当にそんなことが、しかしできるのか?」
「できるさ。
玉のモデルとなった真相の亡骸、つまり水晶髑髏を依代にしてね。
大量の魂で、現世に蘇らせればいいのさ。
真相の誰か一人ぐらいは、きてくれんじゃないか?」
「悪魔の兵隊に真相。
それを使って、いったい何を蘇らせる」
「水晶髑髏が二つあればいい。
兵隊で都市を一つ滅ぼせば、蘇った真相が国ぐらい滅ぼせる。
玉で呼んだ兵隊に魂を集めさせれば、それでリバイアサンくらいは呼べるさ。
後は勝手に滅びが始まる」
「最悪だな。
神話の世界の化け物なんかでてきたら、
それこそ神と人と怪物達の全面戦争だ。
現世の人間のどれだけが死ぬか
想像もしたくないな」
「ルーシー。
おぬしは、どうするつもりじゃ?」
「僕は何もしないさ。
人、神、悪魔、怪物、皆がみな好きにすればいい。
こんな大きな試練を、どうやって乗り越えるか。
それを見届けるだけだ」
サガミは立ち上がり、不敵に笑う。
「そうか。そうだな!
ではわしも好きにするかのお。
おぬしと一緒でわしも、人間が大好きなんじゃよ」
時は確実に進んでいる
それは神の試練か
悪魔の謀略なのか
予言の時は近づいている。
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