第33話 三十杯目✿謎の怪物

 〜発掘屋のしんちゃんの視点〜


 俺がイタリアにきてから、何か月たったんだろう。

 ビザもあるから、そろそろ日本に戻らないといけなくなるなと、そのときは呑気に考えてたんだ。


 俺の滞在している部屋は、宿泊が一週間更新の安いアパートだ。

 はじめのうちは、フィレンツェとか都市の方にいたのだが、金がかかる。

 日本と違って、この国は高層マンションなど簡単に増やせないないのだ。

 それで、南部の安いアパートを借りた。


 この辺は、今は使われていない古い建物なんかが多い。

 山の中にある、今は使われていない古い教会の地下から、遺跡らしいものがみつかった。


 教会の地下室の壁がくずれて、その一部がでてきた。

 どうやら、かなり広い地下空間があり、その上に教会をたてたらしい事がわかった。


 考古学者として興味があった俺は、現場の責任者に会いにいった。


「部外者を中に入れる訳には行かない。

 下手な事して、貴重なものを壊したり、盗まれるのはごめんだ」


 現場の責任者は、初老の考古学者で、ロベルト教授だ。

 彼の学会の発表を聞きにいったときに、教会のことを耳にしたので、

 直接頼み込んでみることにしたのだ。


「俺も同じ考古学者として、十分理解しています。

 日本ではそれなりの経験もあります。

 なんとかお願いします!」


「君は、日本の考古学者なのかね!?

 ヨウジサエジマを、知っているか?」


 まさかここで、俺の恩師の名前がでるとはラッキー!!


「ええ。俺は教授の助手をしていたこともあります。

 なんなら、電確認してもらってもいいですよ。

 多分一昨年の記事に、一緒に写っている写真もあります」


 一昨年、俺たちはある城跡の発掘に成功した。

 文献上でしか確認のとれない、古い城があったとされる場所を、ほってほって執念で、城の柱をささえていた石をほりあてた。

 ロベルト教授は、パソコンでその記事を探して、俺が考古学者だと確認した。


「君の参加を認めよう。

 実際人手が足りなくてね。

 しかし、あくまで非公認の参加なので、栄誉もなにも、手にする事はできないよ」


「そんなものいりませんよ。

 誰も見た事のないものを一番最初にみられるなら、それは考古学者にとって、最高の華でしょ?」


「考古学者の華。

 まったく、ヨウジの毒におかされてしまっているね。

 君もわたしも」


 そういって、うれしそうに笑う教授と、握手をかわした。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 教会は老朽化がすすみ、立地も山の中にあるため、かなり前から使われていない。

 所々、ヒビや腐食もすすんでいる。


 教会自体の広さは、たいした事はないが、地下へすすむと、まるで迷路だった。

 しかし、それは明らかに人工物だ。

 それでも、いってしまえば、ただの洞窟みたいなものだ。

 天井がくずれて行き止まりだった場所を、ほってほってひろげていく。


 なにもでねえ。

 もう3日ほってるが、なにもでねえ。


 10人の男たちが、ただほってほってほりまくる。

 はじめは、地下の小部屋から洞窟に向かう事ばかり考えていた。

 だが、外からおちついて教会の構造をみてみると、おかしな事にきずいた。


 建物の構造上、中が狭すぎる事に。

 おかしなことに教会には窓がない。

 全部、壁なのだ。


「教授!

 この教会、まだ部屋があるんじゃないですか!?」


 俺とチームは、地下の作業を中断して、教会の隠れた空間をさがしはじめた。

 その場所は、すぐにみつかった。


 教会の一番奥の壁。

 壁の奥には、まだ空間があるはずだった。


 調べてみると、その壁は薄い。

 俺たちは相談した、重要な建物の壁を、破壊していいものなのか。

 壊すべきではない意見と、まっぷたつに割れた。


 そんな白熱の最中、俺は壁をかるくたたいて強度を確認してた。

 どうせみんな、好奇心には勝てない事をしっていたからだ。


 ボコッ


「あ……ごめん。

 穴あいちゃった」


 ボコ!ドガ!


 もうそこからは早いものだ。


 やがて壁の奥が見えてきた。

 それは片手に火の剣、片手は地を指差している。


 表情は憤怒。


 俺たちの目の前に、大きな天使の壁画が姿をあらわした。


「ファティマ……

 いや……ここはもっと前のものだ。

 いったい……」


 絵をみて教授はファティマといった。

 天使が指差す地面には、約2メートルほどの赤い染料で描かれた、円形の陣。それじたいが蓋のようになっている。

 材質は石でできており、石畳の床に、ピッタリはまっていた。


「開けてみましょう」


 バールを隙間に入れて持ち上げる。

 あとは、男5人でそっと持ち上げた。

 蓋を開けると、そこには土があるだけだった。

 なにがあるかわからないので、慎重に土をどけた。


「何かあるぞ?骸骨?赤い!しかも透き通っている!

 これはクリスタルスカル!?

 すごいぞ!

 これは興味深い!」


 透き通る赤い髑髏。

 俺は、好奇心で心臓が壊れそうだった。


「大当たりだ!!

 赤いクリスタルスカルなどきいたこともないがこれはすごい!!

 いったいどんなものでできているんだ!?

 これはすごい発見かもしれない!!」


 掘り当てた髑髏を中心に、記念写真をとった。

 そのとき一瞬だけ、歓喜する俺たちを、壁画の天使が睨んでいるように感じた。


 教授は、明日から、髑髏の解析をするために、依頼や報告の電話で忙しそうだった。

 俺たちは、街におりて祝杯をあげた。

 そのあと、俺は教授と共に、髑髏を大学に持ちかえり、アパートに戻った。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 あくまでボランティアな俺は、朝はゆっくりおきて、好きな時間にいくのがいつものこと。

 街から山道を歩いていると、教会のある森のほうから、煙があがっている。

 なにか事故だとまずい!


 俺は急いで教会に向かった。


 山の道は、上り坂で螺旋状に近い。

 走れば15分くらいでつくはずだ。

 10分ほど走っていたとき、突如森の中から、なにかが飛び出してきた。

 それは片腕がなく、血まみれの教授だった。

 教授のそばまでいったが、顔色が真っ青で、俺は恐怖に縛られて動けない。


「に……にげろ。

 みんな……はあはあ

 化け物にくわれ……あれをはやく」


 地面に転がってきた教授が、動かなくなったとき。

 俺は、なぜか教会に向かって走り出してしまった。

 もうなにがおきたのかわからず、頭が真っ白になり、とにかく走った。


 途中で森に入り、教会までまっすぐ進む、森の先に教授の赤い車と、燃える教会が見えてきた。

 森をぬけると、赤毛で短髪の黒いスーツの男と、赤いローブをきた金髪の女、

 そして地面に転がっている、バラバラにされた肉片。


 悲鳴をあげながら、おおきな赤茶の獣に、足をくわれている作業員の一人がいた。


「ぎゃあ!た!たすけ!!うあああ!!!」


「ん?誰かいるのか!」

 スーツの男が振り向く。

 ヤバい!!

 俺はとっさに教授の車の後ろに隠れた。

 もう悲鳴は聞こえない。

 肉のちぎれる音と、教会の燃えるにおいだけだ。


「どうしたの?」

 ローブを着た女がスーツの男に話しかける。


「いや。人間のにおいがした気がしてな。

 気のせいだ。これでリストの人間は全部だな?

 あれは見つからないか。

 一度報告の後、次は自宅にいくぞ。

 下で、あいつを拾って出発だ」


 俺は目を疑った。

 さっきまで獣だったものが、人間の姿になる。

 それは赤い髪の、裸の女だった。

 血にぬれた顔をぬぐい、赤いローブをはおる。

 三人は車に乗り込み山を降りていった。


 俺は、そっと車の影から周りをみる。

 燃えるにおいに血の生臭さがまざって、急に気持ち悪くなり、その場で嘔吐した。


「う!なんだってんだ!

 あんなにみんな!みんなで!!」


 重い体を起こして、教授の車にのりこむ。

 さいわい、鍵がついていたのでエンジンをかけて少しだけ休んだあと、

 教授が倒れていた場所まで車をだした。

 そこには、教授の頭と、バラバラの教授だった物が散乱していた。

 もしかすると俺とすれ違いで、あの化け物がまだいたと考えると、再び恐怖心がめばえた。


 俺は街の一番近い警察署にいった。

 しかし、警察署の前に、あのスーツの男たちの車、中にのっている赤い髪の女と目が合った瞬間、女は俺に、殺気のこもった見開いた目を向けた。


 !!!


 きずかれた!?なんで警察署のまえに!

 クソ!!どうしたらいい!!


 がんちゃん助けてくれ!!


 俺は無意識に、がんちゃんに助けを求めていた。

 車に乗り込みとにかく逃げた。


 公衆電話が見えて車をおりる。

 メモ帳のなかから番号をさがし、電話をかけた。

 手が震えて、小銭がうまく入らない事にいらつく。


『もしもし?』


 がんちゃんの声を聞いた瞬間、

 おれはおさえこんでいた感情があふれだした。


「俺だ!がんちゃん!ヤバイことになった!

 こっちで発掘してたんだ!

 はあはあ……チクショー、

 みんな死んじまった。化け物に!!」


『!しんちゃんか!?

 今どこにいるんだ!』


「教会なんかこなきゃ!

 チクショー、あいつらなんなんだよ!

 警察にもきやがった!どうすれば……

 あいつらまた!ガン!!……」


 いって!なんだ!?だれだ!?


 電話の途中で、俺は無理矢理電話ボックスから引きずり出され、そのまま車に押し込められた。


 一瞬の事でわけがわからない。


「探したわ。無事でよかった。

 さあ、クリスタルスカルはどこなの?」


「あんただれだ!?」


「シスターエリカよ、

 助けにきたわ。


 私たちは、あなたの味方よ」


 謎の化け物から、俺を守りにきてくれた


 かわいらしいシスターだった。

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