第32話 二十九杯目✿初めてのお願いごと
〜拝み屋のがんちゃんの視点〜
昨日は久しぶりに馬鹿をした。
いつもこうだ。今回はマナちゃんにコッテリしぼられたし、さすがに、僕もいい年なので、少し控えなければいけない。
毎回そう感じているが、どうしても皆で飲むとやってしまうのだ。
きっと、次にハメを外しても同じことなので、結局のところ、反省したとはいえないのだが、と僕は、今現在進行形で、現実逃避をしているのだ。
新宿から持ち帰った、呪物を入れていた箱が、ないからだ。
寝室や本殿には、変わった様子がないのだ。
妻はまだ帰っていない。
つまり、始めから呪物が目的で、誰かが侵入したということだ。
何度見ても同じ、ないのだ。
持ち帰った呪物は、全部で九つ。
これを僕が持っていると知っているのは、全部で3人だ。
一人はきっともう生きてはいないだろう。
生きていたとしても、身売りのような形で、売り飛ばされて結局は、長生きしないだろう。
つまりはハルちゃん、金城さん、占い師の女の子。
この3人に絞られる。
金城さんはあれの怖さを知っているし、頭のいい人だから除外。
ハルちゃんは昨日僕と一緒にいたし、馬鹿だから除外。
残るは占い師の女の子。
さて、どうしたものか。
ヴーヴーヴー……ヴーヴーヴー
通知不可能の表示。
「もしもし?」
『俺だ!がんちゃん!ヤバイことになった!
こっちで発掘してたんだ!はあはあ....チクショー、
みんな死んじまった。化け物に!!』
「!しんちゃんか!?
今どこにいるんだ!」
『教会なんかこなきゃ!チクショー、
あいつらなんなんだよ!警察にもきやがった!
どうすれば……あいつらまた!ガン!!……』
電話は無言のまま、やがて切れた。
混乱した自分を落ち着かせるために、部屋の中をぐるぐる歩いていた。
「死んだ?くわれた?警察?……ヤバイ!」
そう、結局はイタリアに行ったしんちゃんが、ヤバイことしかわからなかった。
通知不可能の場合、
たいていは、海外の公衆電話などだ。
一人でこうしても仕方がないので、
僕はまず、滞在先のアパートと、大使館に問い合わせることにした。
しかし、アパートの電話には誰もでない。
大使館ではそんな人間は、出国も入国もしていないという。
入国してない?
データの改ざん?まさか
僕は、言い知れない不安を感じて、ハルちゃんに連絡した。
「しんちゃんが、
ヤバイ!」
『え!?しんちゃんが、ヤバイ!?』
「今さっき、イタリアの公衆電話から、しんちゃんが電話をかけてきた。
とても焦っていた。
電話はすぐに切れてしまって、ほとんど話せなかったが、みんな死んだとか言っていた。
きっと、まずいことになっている」
『しんちゃん……
なんだってんだ。俺はどうしたら……』
ハルちゃんも混乱している。
僕もさっきからどうすればいいか考えるが、
まともな思考ができていないのは、同じだった。
しかし、出来ることは一つしかないじゃないか。
「僕がいこうと思う。もともと、僕の責任もあるからね。
ただね、あの玉がなくなっているんだ。
昨日の家を出た時は、確かにあったんだ。
出かけている間に、誰かが盗みに入ったとしか思えない。
あと八つもあるんだ。
あれをそのままにしておくのはまずい。
僕は言葉も話せるから、イタリアでもなんとかはなるだろう。
だからハルちゃんに、あの玉をさがして欲しい」
僕はやるべきことを、なるべく簡潔に伝えた。
『....わかった。しんちゃんを探してきてくれ。
だけど、俺も行くから!後から必ず行くから、
頼むよがんちゃん!しんちゃん見つけてくれ!』
「準備をしてすぐに行くよ。
連絡はこまめにするけど、もし僕からの連絡がこなかったら。
僕はいいから、しんちゃんを優先してくれ。
必要なものがあれば好きに使ってくれ。
あとは頼んだよ」
『ああ。
後は頼んだ』
さて、次から次へと、厄介ごとが続くのはいつものことだが、
今回は情報もないのに等しい。正直、僕一人では荷が重い。
こういう時に頼りになるのはハルちゃんだが、
玉のほうが終わらないと合流は難しい。
そうなると、あとは一人だけだ。
「もしもし?岩本だ。こないだは世話になったね。
ところで、僕の友人がイタリアで厄介ごとに巻き込まれてね。
ハルちゃんは別件で行けないから、君に手伝って欲しいんだ。
毎日美味しいものをご馳走しよう。
イタリアの伊達男でも眺めながらのチキンは、格別だと思うよ?」
『ッウホ!!行くでごさる〜!!』
「ありがとう。やはり君は、最高に頼りになるよ。
向こうは外国だから、持ち込めない物は業者にたのむよ。
カテゴリーは、不明。情報戦も視野にいれてくれ。
正直なところ、今は何も情報がないに等しい」
『情報戦もありですと、
なかなかヤバそうな相手でござるな』
「ヤバイかも。。死人も出てるみたいだし。
大使館のセキュリティーに侵入しての改ざん。
又は直接書き換えられるような地位の人間が関わっているようだよ」
『ふむ。
では合流は、7番倉庫でいいでござるか?』
「僕はこっちの空港から飛行機でいって、2番倉庫にいってから行くよ。
三時にはいくから、先に準備をしてくれ。
前後二式と、悪罰一式の火猿を持ってく、
あとはこっちから少しもっていく」
『岩本殿、
2番にいくなら、現金はドルも忘れずに三束ほどご用意を」
「ああわかってるよ。
むこうで口座が使えないとかになったら、洒落にならないからね。
カードも何枚か持っていく。
なるべく早く行くよ。
それじゃあよろしく」
イタリアにいく準備と、角田ちゃんと合流するために、
僕は、東京へまた向かうことにした。
嫁さんになんていおうか。
新婚なのに、仕事でもないことで家を留守にするわけだが、
「ただいま〜」
愛する妻の、愛らしい声が聞こえた。
しかし、ハルちゃんが呪物の方を解決するまでは、空き巣の入った家にはいてほしくない。
「おかえり。帰ってきてすぐで悪いんだが、
しばらく実家にいてくれないか?
少しの間、僕は留守にする。
イタリアに用事ができた。
何かあれば、ハルちゃんかこうちゃんに会うといい」
「……そう。お土産は、アマレッティがいいわ」
妻の寂しそうな笑顔にキスをして、僕は空港へ向かった。
2番倉庫で、現金とカードを回収し、タクシーで角田ちゃんの待つ、7番倉庫近くで降りた。
倉庫に入ると、すでに装備品一式を二人分揃えて、角田ちゃんが待っていた。
なぜか鼻息が荒く、仁王立で。
「ありがとう。
さすが角田ちゃんは仕事ができる!」ッニコ
「ッウホ!
久々の海外で、拙者ウキウキでござるよ!」
「まさか僕も、友達探すためにイタリアに行くとは思わなかったよ。
でも昔からの腐れ縁でね、ほっとくわけにはいかないよ。
付き合ってくれて助かるよ。
報酬は、しっかり払うからね」
「いえいえ。拙者も岩本殿とは何かの縁。
困っているときは、お互い様でござるよ。
そうですな、今回の料金は、五円で結構」
五円玉を、角田ちゃんに放り投げた。
どうかしんちゃんが無事でありますように。
ッパシ!!
賽銭なんて入れたことがない僕の
初めてのお願いごとだった
「さあ!
その願い、叶えに行くでござるよ!」
「ふふ、
君みたいな神様がいるかよ」
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