第29話 二十六杯目✿エクソシストの緊急会議 第三章〜バチカン事件〜

 〜デュリオの視点〜


「バチカンが、ヤバイ」

 エリカの開口一番だった。


「「な!な!たんだと!?」」


 まったく意味がわからない。

 俺以外の部隊の人間に、大司教も、みんな大口開けて、目玉飛び出しそうだ。


 事の始まりは、ガイウス大司教からの緊急招集からだ。

 俺の他にも、主立った部隊の、副官以上の人間が大勢あつめられた。


「ヤバイって、なにが?」


「デュリオさんは、話を聞いてなかったのですか?

 それとも、理解力のない脳筋なんでしょうか?

 もう一度いいます。


 バチカンが、ヤバイ」


「「な!なんだって!?」」


 俺か?俺がおかしいのか!?

 マンマ、こいつら怖いよ。


「な、なん、だってー?」


「くそ!予言の時が、来てしまったというのか!!

 まだ情報が足りなすぎる!!」


 ガイウス大司教が焦るが、ヤバイのは、俺の方だ。

 一人だけ、テンションで取り残されている。


「しかし、エリカが予知夢をみたということは、

 必ず、近々バチカンが……ヤバイ!」


「な!なんだって!?

 エリカの予知夢だと?」


「焦るのが遅すぎます。

 デュリオさんはあれですか?あれなんですね。

 もう結構ですから。

 少し静かにしていてください」


 エリカは、予知夢を見るというのか。

 まさかエスパーだったとは、驚きだった。

 信じられないが、みんなのリアクションを見る限り、

 本当に当たるんだろう。


「やはり、第三の予言通りに、

 バチカンが、陥落するというのか?」


「ええ。間違いなく火の海になるでしょう。

 それと、原因の一つに、クリスタルスカルが見えました」


「クリスタルスカルか。

 やはり、あれが原因で!あれの行方は?

 どこにあるかは、まだわからないのか?」


「予知夢の中で、一つだけ手がかりがあります。

 東洋人を探してください。男です。

 彼がきっと、一つは見つけます。

 彼が見つけたものが、原因になります」


「クリスタルスカルって、なんでしょ?」


「ッチ!!」


 舌打ちされたわー。


 こいつ絶対俺のこと嫌いだわー。

 もうやだよマンマ!

 マンマがアイロンかけてくれた服の着心地がなつかしいよ。


「かつて、クリスタルスカルは、世界中の遺跡から見つかった。

 それは、かつての技術では作れなかったものだ。

 しかし近年になり、調査の結果、精巧に作られた偽物だといわれている。

 まるで、本物がはじめから、なかったようにだ」

 知らない俺のためにガイウス大司教が説明をはじめる。


「あー、映画とかで見たことあります」


「本物は、あったのだよ。

 しかもそれは、厳密にはクリスタルではない。

 あれは、人が作れるものではないのだよ。

 ここからは機密事項だ。

 我々は持っていたのだよ。そのうちの一つをね。

 あれはこの世に、魂を止めるためのものだ。


 下級の悪魔から、ロード級以上の、悪魔や怪物をも受肉する」


「前に聞いた話ですと、

 そんな伝説級の奴らは死んだって、聞きましたが?」


「私達人間は、死んだらどうなると思う?」


「えー、天国ですか?」


「そうだ!我々神に仕えるものは、天の国に行く!

 では神を信じないものや、呪われた怪物達の魂は、どこに向かうのかね?」


「まさかっ!!」


「この世をさまよう亡霊になるか、地獄にいくかだ。

 呪われた悪魔達の故郷。悪魔達は地獄の住人だ。

 しかし、怪物達は違う。奴ら怪物は、地獄とは別の住人。

 汚れた魂が、地獄では悪魔になっても、怪物にはならない。

 ならば、救われる可能性のある人間たちの通るところだろう。

 それに分かっているアルファ達は、


 生前かなりの、狂信者だったもの達だ」


 怪物達が人間?

 何かがとりついたとかじゃないのか?


「詳しくはわからない。

 なぜアルファが生まれるのかは不明だ。

 ただ悪魔達の話や文献では、地獄に魔物はいても、怪物はいない」


 魂とはなんなんだ?

 大司教は、鋭い眼差しで続ける。


「アルファは、一度は人間の時に死んで、

 地獄ではないどこかから、血と肉を持って不老不死の存在になり、

 人を糧にこの世に止まる。そして怪物達は子孫を残せない。

 それは、元となるアルファも同じ。


 彼らは呪われ、神を呪った存在だからだ。

 生あるものの証である、種の繁栄は消える。

 その代わり、自らの血を分け与えることで、呪いという種を受け継がせ、

 眷属を増やしていく」


 そして、ガイウス大司教は皆を眺めてから、ゆっくりと話した。


「アルファが死んだ時。

 そこに残るものこそが!!


 クリスタルスカルなのだ!」


「な!なんだって!?」


 アラン「……かつて我々は、一つのクリスタルスカルを手に入れた。

 それは黒い骸骨だった。

 そして、我々は禁じられた実験をした。

 それは黒魔術、邪法といわれるものだ。

 実験の結果、下級の悪魔などを受肉することに成功した」


「っ!?」ギロ


 アラン神父が話を持っていった、空気読んでよ!!

 大司教途中で話持ってかれて、めっさ怒ってるよ!!

 やめたげて!!!!!


「下級の悪魔とかはわかりますけど、

 なぜ、ロード級のものもよびだせると?」


「大司教が仰っていたではないか?

 かつては、持っていたと」


「まさか!」


「そうだ。その時には、儀式もしていなかった。

 原因はわからないが、アルファは再び受肉した。

 その時、かなりの研究員が死んだ。


 そのアルファは、その場にいたものを残らず食い尽くしたよ。

 腹を抱えて!楽しそうに!我らカトリックの、精鋭エクソシスト達と、

 まるで楽しそうに殺しあって!

 そこに残ったのは、屍だけだった」


「その目もまさか……」


「これは違う。

 私はそこにいなかった。


 そしてえ!!!そのアルファは、まだどこかにいる!

 のうのうと!!あの!化け物め!!」


 いや、あんたいなかったんじゃん。

 なに、その燃え方。おれも燃えとけばいいの?

 ここはそれが正解なの?

 ねえ。いいの?おれもやっちゃうから。


「ちくしょおお!!絶対許せねえ!

 必ず!俺が!いつかかならず!」


 どうだ?この迫真演技は?


 ん?


 みんな、なにその目?

 めんどくせえみたいな空気!

 おれ?おれが悪いの!?


「ん!!つまりだ!

 クリスタルスカルは、存在が確認されたもので4個。

 一つは除くとしても、残り3つを探して、厳重に保管することが優先任務だ」


「あの、それとバチカンがヤバイのと、どんな関連性が?」


 すかさずガイウス大司教が割り込む。


「1917年、ポルトガルで3人の子供たちに、聖母が予言をした。

 一つ目と二つ目は、世界大戦について?


 露すけとか共産主義とかからんでる時でね。

 この予言、利用できんじゃねえ?

 ってことで、予言も都合のいい戦争終わる時にだしたのよ。

 そしたら何十年もしてから、第三の予言もあるんすよーって。

 その内容がさ、ドン引きで、これまずくね?

 って、ずっと誤魔化してきたんだよ。でもね、


 陛下がもう無理じゃねえ?

 ってかデュリオめんどせえよってことで一応公開することにした。

 いろいろと情報操作して大変だったようだよ。

 撃たれたふりしてさ。

 これだ!これが第三の予言だって一応はごまかしたんだよ」


 あれ?なんかサラッとひどいこといわれた。

 しかも大司教なんかイラついてるよ。


「でもね、普通に無理があるよね。

 だってさ、予言の内容は



『マリア様の左側の少し高いところに,

 火の剣を左に持った一人の天使を見た。

 この剣は、まるで世界を火で焼き尽くさんばかりに、火花を散らして光り輝いていた。

 しかし、その炎は、マリアが天使に向かって差し伸べておられた右手から発する輝かしい光に触れると消え、天使は,右手で地を指しながら大声で叫びました。

 「悔い改め、悔い改め、悔い改め」

 それから私たちには、はかりしれない光、それは神です。

 何か鏡の前を人が通り過ぎるときにその鏡に映って見えるような感じで、白い衣をまとった一人の司教が見えました。

 それは教皇のような人でした

 そのほかにも幾人もの司教と祭司、修道士と修道女が、険しい山を登っていました。

 その頂上には、樹皮のついたコルクの木のような粗末な丸太の大十字架が立っていました。

 教皇は、そこに到着なさる前に、半ば廃墟と化した大きな町を、苦痛と悲しみにあえぎながら震える足でお通りになり、通りすがりに出会う死者の魂のために祈っておられました。


 それから教皇は山の頂上に到着し、大十字架のもとにひざまずいてひれ伏されたとき、一団の兵士たちによって殺されました。

 彼らは教皇に向かって何発もの銃弾を発射し、矢を放ちました。

 同様に、他の司教、司祭、修道士、修道女。

 さらにさまざまな地位や立場にある多くの信徒たちが。次々に殺されていきました。


 十字架の両腕の下には二人の天使がいて、それぞれが手にした水晶の聖水入れに殉教者たちの血を集め、神に向かって歩んでくる霊魂にそれはそそぐのです。


 ってさ、無理じゃねえ?むりだよね?

 まだ予言はおわってないんじゃないか?と、

 私でも疑ってたわけよ。そこにきて、エリカの予知夢。

 エリカの夢は、一月から約三月の間に必ず当たる。


 マジで当たるから!

 つまり!ヤバイんだよ!!はあはあ」


 いや、あんたも相当だよ。


 ヤバイよ


「はあはあ。だからヤバイから!

 わかったら解散!デュリオの馬鹿ちん!

 このバチカン!!探せ!!はあはあ」


 なぜか、全部俺が悪いみたいな空気で、

 エクソシストの緊急会議は、幕を閉じた。



 それでもやらなければならない。


 なぜなら俺は、魔弾のエクソシスト


 そして


 バチカンがヤバイんだよ!

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