第25話 二十三杯目✿高架下の占い師

 〜ハルの視点〜


 

 情報屋のデブに、チキンを餌付けしてから、俺とがんちゃんは、新宿の南口に出没すると噂の、占い師の情報を角田から待っていた。

 ずっと見張っているのは、さすがに飽きるので、連絡があったらすぐに向かえるように、近くで夕飯でも食うことにした。


 この辺は相変わらずだ。

 表通りは人でごった返し、外国人観光客であふれている。

 裏通りは昔の闇市のなごりが未だ残り、飲屋の横町は顔なじみの連中が多い。

 歌舞伎町はきらびやかな町並みへ変わったようなので、今度いってみるのもいいかもしれないな。

 飯屋を探し、歩いていると、スーツ屋の店員が話しかけてきた。


 名前は知らん。


「ハルさん!!

 戻ってきたんすか!」


「久しぶりだな、スーツ屋。

 金城のおっさんに呼ばれて、少しきただけだ」


「ひどいなー。

 名前、いい加減おぼけてくださいよ!

 ねえ岩本さん」


「本当に。久しぶりだな、タケ」


「やっぱり岩本さんはしっかりものですね!

 ハルさんは、相変わらずです。

 ハルさん結婚したんですよね?あの派手な姉ちゃんと、いやーうちの店の前で泣かせたから、無理やりさらってきたんだと思っちゃいましたよ」


「まじて!?ここでプロポーズしたの?

 馬鹿なの?女の子の気持ちわからない馬鹿なの?

 だから逃げられたんじゃないの?」


「がんちゃん、俺のケツ毛アタックが炸裂したいみたいだ」


「そっかあ。結構お似合いだったのに残念でしたね。

 それはそうと、金城さんのことで、嫌な話を聞きましてね。

 なんか、若い奴が金持って逃げたらしいじゃないですか。

 そいつ、俺のお客さんだったんすよ。

 兄貴分にスーツ買ってもらってましたからね。

 その時に、イヤーな話をきいちゃったんですよ」


「ほうほう。

 つづけたまえ、スーツ屋」


「いやタケです!覚えて!」


「馬鹿はいいから続きをお願い」


「そいでね、

 その兄貴分が、そいつにいってたんですよ。

 金庫の番号教えるから、金持って逃げろって、それであの人は終わりだって。

 なんのことかそん時は、わかんなかったんすけどね」


「スーツ屋、

 それ誰かにいったか?」


「いえ、

 ハルさんたちに初めて話しました。

 金城さんの話も、さっき角田さんから聞いたし、あんまり本職の方にはかかわりたくないですよ。

 俺だって、馬鹿じゃないですから」


「ああ、いいふらしてたら死んでたかもな。

 この話は忘れろよ。

 ところでそいつ、どんなやつだった?」


「その人たしか、金城さんの舎弟で、たしかいつも運転手してますよ」


「なるほどね。

 僕らはわかんないけど、きっとすぐに見つかるね。

 さて、後は占い師の子か」


「角田さんも探してたやつですね。

 見つけたら連絡しろっていわれてます。

 いつもこのぐらいにはくるんですけどね。

 あそこの、橋の下によくいますから、来たらすぐにわかります」


「そうか、ありがとう。

 見つけたら、角田ちゃんに教えてあげて、あと最近新しい店で、オススメあったら教えて」


「飲みっすか?ヌキっすか?」


「飲みだよ。

 僕は新婚だ。愛妻家なのだよ」


「岩本さんが!?

 人間変わるんですね。

 あんだけ店の女の子に手ェ出しまくって

 "出禁の岩本"といわれた人が!?」


「こいつのせいで、どんだけ迷惑したか。

 いつも知らねえ女から、俺のとこに金返せってはなしが、どんだけきたと思ってんだ」


「ハルちゃんこそ、昔の話を蒸し返さないでくれるかな?

 嫁にいったら呪うから」


 俺たちはスーツ屋オススメの、焼き鳥屋に行くことにした。

 カウンターのみの小さな店で、高級感もありなかなかだ。

 特に、白モツと朝引きのもも肉、つくねは絶品だった。

 二本目の酒を飲み終わった頃に、角田から連絡があった。


 俺たちは、スーツ屋にいわれた橋の下へと向かった。


「……いたな。あの子だな」


「そうです。

 あんまり無茶はしないでくださいよ。

 まだ若い子だし」


 そう言って、スーツ屋は店があるからと帰っていった。


 バス停近くの橋の下に、小さなテーブルと椅子、占いとかいた小さな看板だけがある、普通の占い師に見えた。

 少し違うのは、まだ20歳そこそこで、黒髪に三つ編み、黒いローブみたいな服をきた、女の子だったことだ。

 この辺の占い師は年寄りのベテランが多い、その中で、その子は一人だけ若かった。


「あの〜。うわさできいたんだけど〜。

 その〜。実は〜、すっごい嫌いな人がいて〜、

 懲らしめたいんだな〜。

 なんか〜そういうの〜、あるってきいたから〜、


 きちゃった!」


「きちゃったじゃねえよ」


 俺は、今時の女子高生風な口調で、酔っ払いのふりをして近づいた。

 がんちゃんのツッコミは無視する。


「ええ。ありますよ。

 少しお値段は張りますが、効果は保証します」


「ほんとにほんと〜?


 見せて見せて〜」


「こちらになります。

 これを、その人のいる家などにおけば、不幸が訪れるでしょう。

 お値段は3万円になります」にこっ


 占い師はまるで、洋服屋の店員みたいに、なれた接客スマイルでそれを取り出した。

 一見ただの小さな布袋だが、その中には気持ちの悪い気配の、何かが入っているだろうと感じた。


「ハルちゃん、触っちゃだめだよ。

 魂が穢れるよ。

 占い師さん、こんな危ないものを、簡単に人に売るのは感心できないね。

 あなたの目的はなんだ?」

 ツッコミを無視され、少し不機嫌にがんちゃんは言い寄る。


「なんなんですか?あなたは?

 冷やかしなら、他に行ってくれませんか?」


「君も危ないよ。占い師さん。

 もっとも、本当に君みたいな若い子が、こんなものを作ってるならね。

 僕はみすごせない。


 これでも、本物の神主なんでね」


「神主?

 危ないって、どういうことですか?」


 占い師の顔から、少しの恐怖心が見えた。


「これは強力な呪物だ。

 穢された魂の怨念を、無理やり留めている。

 君にも、その怨念がまとわりついているのが見えるかい?

 

 ……背後に、ずっと張り付いているよ」


「ひ、ひい!!

 ごめんなさい!!ごめんなさい!

 わたし!ただのバイトなんです!!


 お願いします!!助けてください!!」


「いいとも、

 すべて話してくれたら、


 ……その穢れは、すぐにおとそう」


「わたしはまだ、勉強中の占い師で、その、練習でここにはきていて、前に知らない男の人が、声をかけてきて、これを売る仕事をしないかって誘われて、好きな時に売ってくれればいいから、絶対儲かるからっていわれたんです。

 それからたまに、その人がきて、これをくれるんです」


「そいつの取り分は?」


「とくにいらないって、実験だからって」


「怪しいと思わなかったのかい?」


「優しそうな人だったし、

 結構売れて、それで、浮かれて」


 占い師の女の子は、思いつめたように泣き始めた。


「まあいい。それはこちらで処分しよう。

 ただね、こいつを処分するのと、君を守るためのお守りは、貴重なものを使うんだ。

 材料はかなりたかいよ。ただ、いつ君に呪いがかかるかわからない。

 なるべく早いほうがいいんだけれど。


 さいわい僕は、今そのお守りはもっているんだが。

 さすがにこれは貴重だし。……どうしたものか」


「お金はあります!!

 今まで売った分、結構使っちゃたけど!ほら!」


「そうだね。特別にそれでいいよ。

 さすがにケチって死なれちゃ、寝覚めも悪いし。

 でもこれは、普段ならそのお金の倍以上するからね、なくさないでくれよ」


 そう言って、がんちゃんは女の子から代金を受け取り、白い袋のお守りを渡した。


 女の子は、何度もお礼を言って帰っていった。


「なあ、それ、二十万位あるけど、

 あれは本当に、そんな貴重なのか?

 それに、あの子の背中には、なんもいなかったように見えたんだけど、

 ほんとにあの子呪われてたの?」


「ああ、呪いはかかってたよ。

 まあ、僕がかけたんだけど」


 ハル「うわ!最低!」


「呪いというのは、なにも呪術だけではないんだよ、言葉一つでも、人を不幸にしたり、幸せにもできる。

 説得力のあるものがいえば、それだけ影響されるものなのだよ。

 あの子がいい例さ。


 僕を信じたから、彼女は呪われ、


 僕を信じたから、彼女は救われたのだよ」


「そういうのは詐欺師っていうんだよ。

 あの子もいい勉強になっただろ。


 ところであのお守りほんとはいくらなの」


「五百円」


 やっぱり詐欺師じゃねか。


 それにしても、彼女にあれを渡した男が、なんの目的で動いていたのかは、謎のままだった。


「あの子の言ってた男の、特徴聞いとくんだったな」


「忘れてた。どうやってふんだ、

 解決しようかと考えていて、忘れていたよ。

 でも解決方法もみつかったから、いいとしよう」


 やっぱこいつ、詐欺師だ。


 俺と詐欺師は、


 この事件を終わらせるため、


 金城のおっさんの事務所へと、


 再び向かうことにしたのだった。

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