第24話 二十二杯目✿指輪のないプロポーズ
6年前〜絢の視点〜
ハルと暮らし始めて、私は彼に甘えっぱなしだった。
自分でも恥ずかしいくらい、べったりだった。
甘い初恋に、溺れていたんだ。
彼には、いつも誰かが関わっていた。
よく一緒にいたのは、全身タトゥーの、ベビーフェイスなリーゼントの怪しい人。
新宿のヤクザっぽい人、ガタイのいいオカマ達、江戸っ子訛りの師匠。
そして妹のマナ。
私は怖かった。
いつもまともじゃない人達と付き合っていて、きがつくと、どこかへ行ってしまう。
なにをしているかは教えてはくれない。
たまに大金を持っている。
そんな彼は、いつか、危ないことになるんじゃないかって。
そんな私の勘は、あたった。
彼が、がんちゃんと呼ぶ友達とでかけてから、一週間ほど帰ってこなかった時だった。
私は、下北沢のライブハウスでバイトを始めていたので、それなりに私も忙しかった。
田舎とは違い、ライブハウスもたくさんある。
ブッキング、宣伝、メール。
結構な仕事量で、クタクタだった。
朝までライブハウスでの仕事をし、その日のバンドメンバー達と、近くの中華屋で打ち上げをした。
朝日が眩しかった。
マンションまでの道の途中、大きな公園のベンチで、彼は眠っていた。
頭から血を出して、手の甲が腫れて、爪が何枚かはがれていた。
私は息が詰まった。
「絢か……どうした?
ないてんのか?誰かになん」
「ばがあ!!なにしてんだよ!
こんなに、こんな。
大事な手なんだろ!!……どうして」
寂しそうな顔で、少しだけ彼はわらった。
「そうだな。
……ごめんな」
それだけ言うと、
優しく、私を抱きしめた。
「っう、……ウ……エーエッ」
子供のように泣いた。
声にならない声で、泣きつかれるまで泣いた。
ハルは熱が出て、手の骨も折れていた。
しばらく休んでいたけど、まだ包帯も取れていないのに、急に出かけたいと言い出した。
電車に乗って、新宿につくと彼にとりあえずついていった。
そこは、紳士服の店だった。
小さな店舗で、まるで露天のような店に、やたらとチャラい、スーツ姿の男がいた。
「ハルさん!うわー。
その手、どうしたんすか?」
「まあ、事故だよ事故」
「そっすか〜。
それにしても、珍しいスネ!
まさかスーツ買いに?」
「ああ。
就職しようとおもってな」
「ついに本職の方の仲間入りっすか!
おめでとうございやす!!」
「ちげーよ。
そろそろ結婚するんだよ。だから、まともに働くの!」
「え?」
「マジっすか!?
ハルさんが!誰と?」
「このレディに決まってんだろ?
なあ?」
そういって、彼は笑うのだった。
「……うん」
私は生まれて初めて
嬉しくて涙がでた。
それは
指輪のない、プロポーズだった。
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