第23話 二十一杯目✿森の鬼退治

 〜マナの視点〜

 

 あの、不思議な花見の夜のあと、風森の家には新しい家族ができた。

 伯爵が私にくれたものは、想像とは違った。


「ワン!ワワン!」


 それはとても黒く、鋭い牙をもった獣。

 というか仔犬。

 まだ小さい、黒い仔犬だった。


 柴犬ににた種類で、すごくかわいい。

 毛も目も真っ黒なので、『クロスケさん』と、名付けた。

 『さん』なのは、伯爵曰く、これでも私より年上、なんだとか。

 というわけで、クロスケさんなのだ。


 見た目はかわいいが、とても頼りになる番犬だそうで、いつも一緒に行動している。

 私が出かける時も一緒だ。

 小さいからバックに入るけど、さすがに犬なので、顔だけ出ている。

 その姿はとても愛くるしいもので、子供達にも人気なのだ。


 何よりすごいのは、ご飯がいらないのだ。

 これまた伯爵曰く、昔散々餌を与えたので、今はいらないとか。


 何を言っているのかよくわからないけど、確かに何も食べないし。

 仕込んでもないのに、ちゃんということを聞いてくれる。

 エコで賢いクロスケさんなのだ。


 伯爵といえば、まあ、何か似合わないことを始めたみたいだ。

 好きにさせるのがいいと、お祖母様も言っていた。


 今日、私はお祖母様に、風森の管理する神社に呼び出された。


 風森の神社は、昔から家の女しかはいれない。

 山を登り、一族の墓地を過ぎた先に、石畳の階段がある。

 そこを登ったところにあるのだが、普段は鍵がかかり閉ざされている。


 本殿の縁側に、見たことのある白猫がいた。

 クロウ様だ。

 厳密にはちゃんとした名前があるが、長いのでそれでいいとのことだ。


「ご苦労。

 小夜もきている。

 入りなさい」


 クロウ様に着いて行くと、お祖母様が正座で、これまた見たことのある人と話している。


「ヴラドがあ!!

 あいつがあ!!ぎゃはははあ!!」


 腹を抱えて死にそうな、サガミ様が昼間っから飲んでいた。


「サガミ様こんにちわ。

 お祖母様、ただいま参りました」


「きたかマナ。ご苦労」


「お疲れ様ですマナ。

 サガミ様から、少しお話があるようなので座りなさい。

 私はお茶でも入れましょう」


「サガミ様、お話というのは?」


「ああ、お前の兄に本当は頼みたかったんじゃが、

 クシノが迎えにいったら、いなくてな。

 小夜に聞いたら、拝み屋と関東に行っとるらしいんじゃ、

 まったく、人の忠告も聞か聞かずにであるきおって。


 まあそれでだ。

 お前に頼みがあっての。

 どうやら、近くの森に鬼が出たようじゃ。

 行ってひねってこい」


「鬼をですか。無理ですね。

 半分こちらの世界にいる、怪力の鬼を、私のような非力な女には、倒せません。

 少しの間、閉じ込めたりはできると思いますが、もともと私の専門外です。

 私は、ただ神に仕える巫女ですから」


「なにも、おぬし一人で行けというわけではない。

 クロウと一緒にいけ。

 今年はこのままじゃと不作じゃからの、

 わしの方はそっちで忙しい」


 昼間っから飲んでるのに、忙しいのですかね?

 少しイラッとしました。


「そうですか。

 クロウ様が行くのなら、私も行くのが道理ですね。

 それにしても鬼ですか。

 やっぱり、怖いものですかね?」


「ものによる。

 大昔の奴らは、雷や火を使えるもの、普通の鬼の何倍も強かった奴らがうじゃうじゃいた。

 今のは大したことはない。

 平和な世の中になったからな。

 いわゆるゆとりだ」


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 そうして、私とクロウ様とクロスケさん。

 一人と二匹は、里の結界からでてすぐの森にきた。


 その森の中には線路が走っており、数キロにわたる森があるだけで、民家などはない。

 ただ、森の中を走る電車が、何かに襲われたのだ。

 ここを通る電車は、ほとんどが貨物列車だったのがさいわいした。

 怪我人はいなかったが、コンテナは引き裂いたように破壊されていたのだ。


 事件を聞いた貨物列車の会社には、一族出身のものもいたので、お祖母様に相談があったのだ。


 私たちは森の外でバイクをおり、獣道を進んだ。


 事件の現場に近いところで、クロウ様が立ち止まる。


「近いな。

 上にも気をつけろ」


 日が落ちてきたからなのか、異様に、森の中は暗く感じる。

 あたりを気にしながら、私たちは線路近くまで歩いた。

 そして、それはいた。


 体は人のようだが、鋼鉄のような筋肉で、顔が牛のようなものが。

 荒い呼吸でこちらをみていた。


「フー!フー!フー!」


「なっ!?なぜ牛頭鬼が!」


 さっきまで白猫だったクロウ様が、明るく光ったと思った瞬間、

 そこには美しい男性の姿があった。


「クロウ様なのですか!?」


「来るな!

 木の後ろに隠れていろ!!

 クロスケ、ちゃんと守ってやれよ」


 牛頭鬼と呼んだそれは、大きな角で、クロウ様に突進した。


 刀を抜いたクロウ様がかまえる。



 ズバッ!!


 すれ違ったと思った瞬間、それはあっけなく崩れ、


 燃えながら塵になった。


「ふう……」


「えっ!?おわったのですか!?」


「ああ」


 くるんっと、宙に浮いた男性は、元の猫に戻った。


「あの〜、

 なんか〜、なぜこいつが!?的に焦ってたと〜思ったんですよ〜。

 なんか絶対的ピンチ!!みたいな〜。

 それで〜ドキドキして私も焦ってたんですよ〜。

 なんかサクッと切りましたよね?」


「なんだ?焦ったぞ?

 まさか、こいつがいるとは思わなかったからな」


「全然違う!

 すごい余裕じゃなかったですか!?」


「めんどくさいな、お前。

 説明しておくが、牛頭鬼が強いとかじゃなくてだな。

 あれは本来、この世にいるものじゃない」


「鬼自体が、この世のものじゃないでしょ?」


「そうだが、少し違う。

 牛頭鬼は、悪霊や神に近いものではない。

 あれは地獄という刑務所の、看守みたいな存在なんだよ。

 普段は、地獄でせっせと悪い人間を拷問してるんだ。

 閻魔の部下なんだよ」


「閻魔の部下なんだよって、

 そんなの切ってもよかったんですか?」


「あれは見境なく生きてるものを襲うんだよ。

 しょうがない。

 それに、地獄に帰してやっただけだ」


「そうですか。

 なんかいろいろ納得できないですけど、

 まあいいです」


「うわー、

 こいつめんどくせーなんなのこの子?

 兄があれだと妹もこうなの?」


「きこえてますよー。

 さ!かえりましょ」


「牛頭鬼か。

 やはり、なにかおこっているのか?」


 クロウ様の活躍で、わりとあっさり事件は解決し、

 私達は里へと帰る。


 それにしても、自分が使える神様が猫ってどうなんだろ?

 と思いながらも、

 動物好きな私は、仔犬と猫に囲まれて、結構楽しい1日だったのだ。

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