第26話 二十四杯目✿ただの裏切りもの
なんでこんなことになったんだ。
俺の計画はいつからおかしくなったんだ。
そうだ。
あいつらだ。あいつらのせいだ。
「早く行け」
「はあ、はあ、
……チクショー」
俺はいま、あの倉庫の前にいる。
金城と風森と、岩本の三人が、俺にあれを、持ってこさせるためだ。
「金城のおっさん。
俺らもうかえってよくね?
あとは、新井がやればいいだろ?」
「まだ終わっちゃいねえからな。
こいつが戻ってきたら、後は好きにしろ」
「万が一、中でなんかあったら、
僕が行かなきゃいけないしね」
こいつら呑気にしやがって!
チクショー!チクショー!こいつらがこなければ!
まさか金城と知り合いだったなんて!
こんなことなら、こいつらが事務所に来た時に、俺もいればよかったんだ。
呑気なのは俺だ。
あの時、車で寝てたんだから。
いつからだ?いつからこんなことに。
そうだ。
あの時からだ。
俺が、こいつらに初めて会った時からだ。
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昔の俺は、半端もんのチンピラだった。
知り合いのキャバ嬢に頼まれて、こいつらを痛めつけようとした。
俺は仲間と数人で、まず風森を襲った。
ッガン!!
「おお!いい当たりだ!」
風森をバットで襲って、車に積めた。
その後、俺の後輩が店やってる整備工に連れてった。
「風森くんだっけ?
だめだよ君たち?いろいろ恨み買って〜」
「おめえは誰だ?
口もくせえし、やることもくせえし。
きっとあそこもくせえんだろうな〜」
「風森くんさ〜楽器やるんだろ?
手は大事にしないとね?」にこっ
ベキ!
俺はあいつの手を、バットで潰した。
その後、暇つぶしに爪をはいだ。
風森はただ、俺を睨んでいた。
「あらあら。
ハルちゃん〜生きてる?」
「死ぬ。
もうだめだ」
こいつらどうやって!?
なかなか見つからない岩本と、ガタイのいい角刈りがいつの間にかそこにいた。
「きさまらあ!!
……拙者の友人になんということおおお!!!
うおおお!!!!!」
ブン!!ドゴ!
人間じゃなかった。
ゴリラが暴れたんだ。
俺の後輩と、仲間の二人がゴリラにぶちのめされていた。
「君はたしか、新井くんだったね?
残念だけど、ハルちゃん返してもらうね。
あと、二度とこんなことしないでね」
ボキっ
岩本は、いつの間にか俺の腕を折ってた。
「ギャアアア!」
「うるさい」
俺の意識は、風森に刈り取られた。
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その後、俺は怪我が治ってから、またあいつにあった。
そん時のあいつは、女を二人も連れてやがった。
絶好の機会だったはずだった。
たが俺も、まさかあいつが、あんなに強えとはおもわかった。
二回目は、完全に病院送りだった。
歯が一本も残らなかったほどやられたからだ。
俺は本職になった。
偉くなって、もうあんな惨めな思いをするのは、こりごりだったからだ。
だが、俺の組には金城がいた。
あいつは金もあって、頭もいい奴で組長のお気に入り、
俺の、最も邪魔な奴だった。
俺のすぐ後に入ってきた奴に、金を使って飼いならした。
そして、組の金を盗ませて、
上納金を管理できなかった金城は、終わるはずだったんだ!
だけど、あいつは何かしらの方法で見つけやがった。
俺は焦った。
なにかないか?いい方法が?
そんな時だった、
あの男にあった。
「だいぶ困っていますね?
僕には、少なくともそんな様子に見えます」
そいつは、甘い声で俺に囁いた。
「もし、誰か殺したいのなら、
いいものがありますよ?
そして、証拠もほとんど残らない」
俺は飛びついた。
もうなんでもいい。藁にもすがりたかった。
その男は小さな袋を渡した。
「袋の裏に、封印のおまじないがしてあります。
使う時は、袋の中身だけを忍ばせて下さい。
回収する時は、忘れずにまた元の袋に入れて下さいね。
そうすれば安全ですから。
それでは、成功をお祈りしております」
黒いスーツに黒いネクタイ。
まるで、葬式帰りの服装。
綺麗な長い髪をした優男は、
新宿の人混みに消えていった。
居場所のばれた馬鹿は、幸い捕まったばかりでまだ何も話していない。
金城を迎えに行く前に、会いにいった。
見張りの奴には差し入れだと言って、中に入り、
縛られた馬鹿の、ポケットに袋の中にあった黒い玉を忍ばせた。
「すぐに助けてやるから、何もしゃべるな。
安心しろ。」
カメラに聞こえないように囁いた。
バシ!
「まったく!このおんしらずがあ!!
いまから若頭連れてくるから待ってろよ!!
このクズがあ!」
ガン!!
そして、金城を連れて来た時には、死んでいた。
あの時に回収できていたらよかったのに、
何があるかわからないからと、部屋に入れず、
隣の部屋のモニター室で、ビデオをチェックさせられた。
そしてさっきのことだ。
事務所に呼ばれて、俺は部屋にいた男たちを見て、目を疑った。
「お疲れ様です!若頭!、
っ!?お前らは!!」
「新井。
まさかお前かよ。
こりねえな」
「お前ら、知り合いか?
まあいい。新井よ?こいつらがさっき、俺に言ったんだよ。
お前が、俺をはめたってな?」
俺は冷や汗が出そうになるのをこらえた。
「そんなわけないですよ!なんでおれが!?
証拠でもあるんですか!?」
拝み屋のがんちゃん「多分、
これを持ってるはずなんだよね?」
岩本が持っていたのは、あの袋だった。
「なんで、
お前がそれを!?」
「あ!なんで!っていった!
ハーイ!ビンゴ!!」
「!!チクショー!!」
ダッ!!
俺は逃げた。
いや、逃げようとしたんだ。
でも、もう詰んでた。入り口は他の組員が道をふさいでいた。
「どけえ!!殺すぞお!!」
バキ!!
風森の蹴りが、俺の意識を刈り取った。
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気がつくと両手を縛られた状態で、車の中にいた。
「んー!んー!!」
拝み屋のがんちゃん「それでですね。
この袋に中身を入れれば大丈夫ですよ。
後は安全です。
中にお経のようなものが書いてあるでしょう?
そう、これこれ、
これがめちゃくちゃきくんですよ!ははは!」
まるで、新しいおもちゃでも自慢するように、岩本が何やら話していた。
「それでこいつの出番か。
失敗したら、お前にいかせるからな」
「ええ。
もちろん仕事は最後までやりますよ」
倉庫の前で車を止めた。
俺は白い布袋だけを渡され、中に放り込まれた。
中は電気がついたままで、
俺は薄暗い廊下を歩いて、部屋に向かう。
少しだけ空いたドアから、光が漏れていた。
ドアに手をかけて、中に入った。
死体が二つ、横たわっているのがすぐに目に入った。
特に変わった様子はない。
しくじった馬鹿のポケットに、手を伸ばした。
「ぎゃははははは!!」
耳元で、気持ちの悪い笑い声が聞こえた。
「うあああああ!!!」
俺の横目に女がいる!
俺は、死体のポケットだけを凝視して、急いで玉をさがした。
「ぎゃはははははあ!ははははは!」
笑い声が聞こえる中、
黒い玉を袋に入れて、外に向かって走った。
「はあはあはあ」
「んじゃおつかれさん」
「本当にかえるのか?
こいつの最後みてかねえか?」
「遠慮しとくよ。
俺は平和主義なんだ。
それにヤクザはきらいだ」
「まあ、好きにしろよ」
「それはうちで回収しときますよ。
こんなもんが出回ってちゃ、ろくなことになりませんからね。
料金は、週明けまでに振り込みよろしくお願いしますね」
「助けてくれえ!!
お願いだあ!!」
俺は泣いて助けを求めた。
まだ死にたくない!こんなとこで!
「新井!!てめえは好き好んでヤクザになったんだろうが!
好きで組うらぎったんだろうが!
この世界で、裏切りものは許されねえ!!
この、バカ野郎が!」
金城が俺に向けたのは、怒りじゃなかった。
泣きそうな、
悲しい顔で、俺を哀れんでいた。
そうだ
裏切りものは許されねえ
なんで俺は
なんで、あんなことしたんだ?
金城さんは、俺によくしてくれたのに
結局、俺は何者にもなれなかった
ただの裏切りものだ
「この、バカ野郎が……」
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