第26話 二十四杯目✿ただの裏切りもの

なんでこんなことになったんだ。


 俺の計画はいつからおかしくなったんだ。


 そうだ。

 あいつらだ。あいつらのせいだ。


「早く行け」


「はあ、はあ、

 ……チクショー」


 俺はいま、あの倉庫の前にいる。

 金城と風森と、岩本の三人が、俺にあれを、持ってこさせるためだ。


「金城のおっさん。

 俺らもうかえってよくね?

 あとは、新井がやればいいだろ?」


「まだ終わっちゃいねえからな。

 こいつが戻ってきたら、後は好きにしろ」


「万が一、中でなんかあったら、

 僕が行かなきゃいけないしね」


 こいつら呑気にしやがって!

 チクショー!チクショー!こいつらがこなければ!

 まさか金城と知り合いだったなんて!


 こんなことなら、こいつらが事務所に来た時に、俺もいればよかったんだ。

 呑気なのは俺だ。

 あの時、車で寝てたんだから。

 いつからだ?いつからこんなことに。


 そうだ。


 あの時からだ。

 俺が、こいつらに初めて会った時からだ。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 昔の俺は、半端もんのチンピラだった。

 知り合いのキャバ嬢に頼まれて、こいつらを痛めつけようとした。

 俺は仲間と数人で、まず風森を襲った。


 ッガン!!


「おお!いい当たりだ!」


 風森をバットで襲って、車に積めた。

 その後、俺の後輩が店やってる整備工に連れてった。


「風森くんだっけ?

 だめだよ君たち?いろいろ恨み買って〜」


「おめえは誰だ?

 口もくせえし、やることもくせえし。

 きっとあそこもくせえんだろうな〜」


「風森くんさ〜楽器やるんだろ?

 手は大事にしないとね?」にこっ


 ベキ!


 俺はあいつの手を、バットで潰した。

 その後、暇つぶしに爪をはいだ。

 風森はただ、俺を睨んでいた。


「あらあら。

 ハルちゃん〜生きてる?」


「死ぬ。

 もうだめだ」


 こいつらどうやって!?

 なかなか見つからない岩本と、ガタイのいい角刈りがいつの間にかそこにいた。


「きさまらあ!!

 ……拙者の友人になんということおおお!!!

 うおおお!!!!!」


 ブン!!ドゴ!


 人間じゃなかった。


 ゴリラが暴れたんだ。

 俺の後輩と、仲間の二人がゴリラにぶちのめされていた。


「君はたしか、新井くんだったね?

 残念だけど、ハルちゃん返してもらうね。


 あと、二度とこんなことしないでね」


 ボキっ


 岩本は、いつの間にか俺の腕を折ってた。


「ギャアアア!」


「うるさい」


 俺の意識は、風森に刈り取られた。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 その後、俺は怪我が治ってから、またあいつにあった。

 そん時のあいつは、女を二人も連れてやがった。

 絶好の機会だったはずだった。

 たが俺も、まさかあいつが、あんなに強えとはおもわかった。

 二回目は、完全に病院送りだった。

 歯が一本も残らなかったほどやられたからだ。


 俺は本職になった。


 偉くなって、もうあんな惨めな思いをするのは、こりごりだったからだ。

 だが、俺の組には金城がいた。

 あいつは金もあって、頭もいい奴で組長のお気に入り、

 俺の、最も邪魔な奴だった。


 俺のすぐ後に入ってきた奴に、金を使って飼いならした。

 そして、組の金を盗ませて、

 上納金を管理できなかった金城は、終わるはずだったんだ!

 だけど、あいつは何かしらの方法で見つけやがった。


 俺は焦った。

 なにかないか?いい方法が?


 そんな時だった、


 あの男にあった。


「だいぶ困っていますね?

 僕には、少なくともそんな様子に見えます」


 そいつは、甘い声で俺に囁いた。


「もし、誰か殺したいのなら、

 いいものがありますよ?

 そして、証拠もほとんど残らない」


 俺は飛びついた。

 もうなんでもいい。藁にもすがりたかった。


 その男は小さな袋を渡した。


「袋の裏に、封印のおまじないがしてあります。

 使う時は、袋の中身だけを忍ばせて下さい。

 回収する時は、忘れずにまた元の袋に入れて下さいね。

 そうすれば安全ですから。


 それでは、成功をお祈りしております」


 黒いスーツに黒いネクタイ。

 まるで、葬式帰りの服装。

 綺麗な長い髪をした優男は、


 新宿の人混みに消えていった。


 居場所のばれた馬鹿は、幸い捕まったばかりでまだ何も話していない。

 金城を迎えに行く前に、会いにいった。

 見張りの奴には差し入れだと言って、中に入り、

 縛られた馬鹿の、ポケットに袋の中にあった黒い玉を忍ばせた。


「すぐに助けてやるから、何もしゃべるな。

 安心しろ。」


 カメラに聞こえないように囁いた。


 バシ!


「まったく!このおんしらずがあ!!

 いまから若頭連れてくるから待ってろよ!!


 このクズがあ!」


 ガン!!


 そして、金城を連れて来た時には、死んでいた。

 あの時に回収できていたらよかったのに、

 何があるかわからないからと、部屋に入れず、

 隣の部屋のモニター室で、ビデオをチェックさせられた。


 そしてさっきのことだ。

 事務所に呼ばれて、俺は部屋にいた男たちを見て、目を疑った。


「お疲れ様です!若頭!、

 っ!?お前らは!!」


「新井。

 まさかお前かよ。


 こりねえな」


「お前ら、知り合いか?

 まあいい。新井よ?こいつらがさっき、俺に言ったんだよ。

 お前が、俺をはめたってな?」


 俺は冷や汗が出そうになるのをこらえた。


「そんなわけないですよ!なんでおれが!?

 証拠でもあるんですか!?」


 拝み屋のがんちゃん「多分、

 これを持ってるはずなんだよね?」


 岩本が持っていたのは、あの袋だった。


「なんで、

 お前がそれを!?」


「あ!なんで!っていった!

 ハーイ!ビンゴ!!」


「!!チクショー!!」


 ダッ!!


 俺は逃げた。


 いや、逃げようとしたんだ。

 でも、もう詰んでた。入り口は他の組員が道をふさいでいた。


「どけえ!!殺すぞお!!」


 バキ!!


 風森の蹴りが、俺の意識を刈り取った。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 気がつくと両手を縛られた状態で、車の中にいた。


「んー!んー!!」


 拝み屋のがんちゃん「それでですね。

 この袋に中身を入れれば大丈夫ですよ。

 後は安全です。

 中にお経のようなものが書いてあるでしょう?

 そう、これこれ、

 これがめちゃくちゃきくんですよ!ははは!」


 まるで、新しいおもちゃでも自慢するように、岩本が何やら話していた。


「それでこいつの出番か。

 失敗したら、お前にいかせるからな」


「ええ。

 もちろん仕事は最後までやりますよ」


 倉庫の前で車を止めた。

 俺は白い布袋だけを渡され、中に放り込まれた。


 中は電気がついたままで、

 俺は薄暗い廊下を歩いて、部屋に向かう。


 少しだけ空いたドアから、光が漏れていた。

 ドアに手をかけて、中に入った。


 死体が二つ、横たわっているのがすぐに目に入った。

 特に変わった様子はない。


 しくじった馬鹿のポケットに、手を伸ばした。


「ぎゃははははは!!」


 耳元で、気持ちの悪い笑い声が聞こえた。


「うあああああ!!!」


 俺の横目に女がいる!

 俺は、死体のポケットだけを凝視して、急いで玉をさがした。


「ぎゃはははははあ!ははははは!」


 笑い声が聞こえる中、

 黒い玉を袋に入れて、外に向かって走った。


「はあはあはあ」


「んじゃおつかれさん」


「本当にかえるのか?

 こいつの最後みてかねえか?」


「遠慮しとくよ。

 俺は平和主義なんだ。


 それにヤクザはきらいだ」


「まあ、好きにしろよ」


「それはうちで回収しときますよ。

 こんなもんが出回ってちゃ、ろくなことになりませんからね。

 料金は、週明けまでに振り込みよろしくお願いしますね」


「助けてくれえ!!

 お願いだあ!!」


 俺は泣いて助けを求めた。


 まだ死にたくない!こんなとこで!


「新井!!てめえは好き好んでヤクザになったんだろうが!

 好きで組うらぎったんだろうが!

 この世界で、裏切りものは許されねえ!!

 この、バカ野郎が!」


 金城が俺に向けたのは、怒りじゃなかった。


 泣きそうな、


 悲しい顔で、俺を哀れんでいた。


 そうだ


 裏切りものは許されねえ


 なんで俺は


 なんで、あんなことしたんだ?


 金城さんは、俺によくしてくれたのに


 結局、俺は何者にもなれなかった


 ただの裏切りものだ


「この、バカ野郎が……」

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