第20話 十八杯目✿喧嘩の弱い若頭
〜金城の視点〜
俺の仕事は【若頭】だ。
だいたいのやつには【金城(かねしろ)】で通じる。
簡単に言うと本職の人間だ。
ガキの頃、借金で首がまわらなくなった親父は、一家心中したんだが運悪く、俺だけが生き残った。
そのあとはおきまりのコース、親戚たらいまわしのあとは、グレて仲間と暴れまわった。
その時の先輩の誘いで俺もこの組に入った。
もっとも、その先輩も今はいきちゃあいねーがな。
俺が出世したのは腕っ節のつよさじゃねえ。
だいたい今の時代、そんなアホな奴はお荷物だ。
最後は鉄砲玉にでもなるか、誰かのかわりに、ムショ行きだ。
俺は、まずとにかく金を増やした。
なんでもやって、今の地位まで上り詰めた。
俺は喧嘩はイマイチだが、手足はたくさん持ってる。
揉め事もだいたいは簡単におさまる。
今回も簡単な仕事のはずだった。
アホな新人が、上納金持って逃げただけだ。
そんなアホはすぐに見つかる。
情報屋に仕事を回して、すぐにそいつを見つけた。
それでさらってきて、組の倉庫に閉じ込めて、これから楽しい拷問をしようとして、倉庫を開けたら死んでやがる。
しかも、見張りのやつも一緒にだ。
死に顔は恐怖にひきつっていて、
叫びながら死んでやがる。
さいわい、監視カメラで確認が取れたんだが
「うわあ!!くるなあ!!……」
「ひい!!ひっ!!……」
なにも、いねえ。
ただ一人でに苦しんで、一人づつ死んでいった。
パントマイムのしすぎで死にました、とかありえねえしな。
二人同時ならガスかなんかかもしれねえが。
「若頭!これ見てください!」
二人とも動かなくなってしばらくしてから、三十分ほど早送りしたところだった。
赤い女が、倉庫を歩いているのが、一瞬だけ写った。
「あは!あははははは!!」
部屋の中で、気持ち悪い女の笑い声が、聞こえた。
俺は一瞬でこの感じはやばいと思って、叫んだ
「おい!ここを出るぞ!!
今すぐにだ!!」
俺と舎弟は、倉庫に鍵をかけ、外の車にとび乗った。
「はあ、はあ、頭、あれはなんなんすか!?」
「チクショー!!!
めんどくせえことになりやがって!」っガン!
俺は苛立ちで、車のなかを蹴った。
「まさか、
お化けかなんかですか!?」
「うるせえ!
電話だ!かせ!」
俺は、金と手足を利用してのし上がってきた。
喧嘩も揉め事もなんとかしてきた。
こういう厄介ごとは、前にもあった。
こういう時に役に立ったのは、俺より、一回りも年下の、二人の男達だった。
「ああ、俺だ。
久しぶりだな。今は田舎で稼業ついだんだろ?
悪いんだが新宿にきてくれ。
ああ、厄介ごとだ。
詳しいことはこっちで話す。
事務所にこい。
すぐだ。急いでくれ。
わかった、明日だな」
「若頭?
誰にかけてたんですか?」
「ああ、お前はしらねえか。
餅は餅屋に、もめ事は俺らに、
厄介ごとは、拝み屋にってな」
俺は、金と手足を使ってここまできた。
俺は、喧嘩の弱い若頭なんだから。
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