第19話 十七杯目✿片目の神父

 〜デュリオの視点〜


 

 ガイウス大司教に、脅迫まがいの異動を告げられてから、一週間がたった。

 まだ信じられないが、この世の中にはいたのだ。

 悪魔や怪物、そして、それらを狩る者たちが。


 一週間の間に、俺は仕事の引き継ぎや、部下たちに別れを告げた。

 まあ同じ建物の中だから、また会うこともあるだろうと、たかをくくっていたのだが……

 ✿✿✿✿バチカン地下4階✿✿✿✿


「あのー現地いりですか?

 研修とかしないんですか?」


「いや研修だ。

 君はただ見ていればいい。

 今回は、低級の悪魔が取り付いた、農家の老人が対象だ。

 まあ安全だろ。


 それから、

 今日から君の、新しい上司になるものを紹介しよう。

 入りたまえ!」


 後ろのドアから、その男は入ってきた。

 片目に眼帯をし、顔には熊にでもやられたような傷がある。

 赤毛で、髪はボサボサだが、歳は俺より少し上くらいの男だ。

 こいつからは、軍人特有の雰囲気を感じた。


「アラン•ブレスゲン神父だ。

 彼と彼の仲間たちが、君の新しい同僚になる。

 後のことは任せたよ、アラン神父」


「はじめましてデュリオ君。

 君のことは大司教から聞いている。

 よろしく頼む」


「は!よろしくお願いします!」


「それでは、失礼します。

 デュリオ君もいきますよ」


 俺はガイウス大司教に一礼し、アラン神父についていくことになった。

 しかし、どう見ても、神父は無理がないか?


「アラン神父。

 部下ですので、俺のことはデュリオとお呼びください!

 あと、敬語もご遠慮を」


「そうだね。そうするよ」


 アラン神父は、それだけ言うとただ歩き続けた。

 会議室のようなところに入ると、一人の女の子がいた。

 シスターの服で金髪、胸がボインな、可愛らしい子だった。

 歳は十代後半くらいに見えた。


「エリカだ。

 君の先輩にあたる。

 エリカ。デュリオだ」


「シスターエリカです。よろしく」


 可愛らしい女の子は、可愛らしいお辞儀をした。

 しかし、どこかよそよそしい。


「はじめまして!

 俺は、デュリオといいます。

 よろしくお願いします!」


 アラン神父は椅子に腰掛け、真剣な眼差しで話す。


「君はまだ、ほとんどなにも知らないと聞いたが、

 元は軍人で、激戦を生き残ってきた。

 隠密や、罠のエキスパートだと聞いている。

 なので、君にはこれを使ってもらう。……エリカ」


 エリカが、大きなケースを机の上におき、中を開ける。

 それは、スナイパーライフル。

 少し違うのは、銀色で、なにか模様のようなものが彫ってあることだった。


「ただの悪魔なら、私たちで拷問し、弱られせて、地獄に送り返すのは簡単だ。

 しかし、エクソシストがもっとも恐れているもの。

 私たちエクソシストの、死因の約8割。

 肉体もつ怪物たちとの、戦いなのだよ」


「肉体もつ怪物、あの狼男とかですか」


「そうだ。

 狼男、吸血鬼、ゾンビなど、かつて人間だったものは神を呪い、おぞましい者になった。


 それは不死だったり不老、怪力で人を喰う鬼だ。

 そしてそれは、自らの同胞を増やして、一つの社会を作り上げていった。


 全ての種族には、『アルファ』と呼ばれる、始まりの王がいる。

 それら、アルファの血を濃くついだ者たちは、

 『ロード』といわれ、貴族階級をさらに作っていった。

 それら貴族階級の怪物は、特に要注意だ。

 特殊な能力を持っていて、かなり危険だからだ。


 かつて、私たちカトリックは、総力を持ってアルファを攻めた。

 しかし、結果は地獄だった。

 たった一人の、吸血鬼に、十字軍は全滅したのだよ。

 まあ、今ではそんな、伝説級な者たちは、ほぼ滅んでいる」


「滅んだ?そんな怪物がなぜ?」


「100年前。

 かなりの数の、怪物たちの王や貴族が倒されたのだよ。

 それも、ただの四人の人間にだ。

 信じられるか?

 我ら神の使徒が、そう、全力であたっても、一人すら倒せなかった者をだ」


「っ!?そんな!」


「彼らは四人しかいなかった。

 頭を使い考え、隙を作り弱点を狙った。

 決して折れない強い心で、あの怪物たちの王たちを、打ち倒したのだ。


 それから、私たちカトリックは学んだのだよ。

 情報、そして、隙をつくことの、大切さをね。

 だから、今もこうして、哀れな化け物を捕まえては、研究し!拷問し!

 情報を集めて、しっかりと作戦をたてている」


「……それで、この銃は」


「術式を施してある、デュリオさん専用の武器です。

 銃弾には、銀や焼夷弾など、様々な専用弾が用意してあります。

 怪物たちの弱点に効き目のある仕様にしてあります。

 その時の状況を、しっかり見極めて選んでください」


「さあ、講義はこのくらいにして、君の初仕事に行こう。

 他の連中もついている頃だろう。

 今日はなんだったかな?エリカ?」


「低級の悪魔払いです。


 デュリオさんは目立たないところから、見張りをお願いします。

 いっておきますが、今日はデュリオさんに出番はありません。

 ただの、見張りですから」


「じ、地味ですね」


「そんなことはない。立派な役目だ。

 しっかりと見張ってくれ。

 ではいくとしよう。

 今日からよろしく頼む!」


 そして、想像していたのとは違う、

 のどかな覗きの日々が過ぎていった。


 しかし、そんな日々も、すぐに終わり、

 俺は、肉体もつ怪物たちから、もっとも恐れられるスナイパー

 【魔弾】のエクソシストと、噂されるようになる。

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