第15話 十四杯目✿花の宴
〜マナの視点〜
桜の公園近くの、図書館の地下駐車場にバイクを止めた。
ヘルメットを脱いで、なぜか不機嫌そうに一言も喋らない、伯爵に声をかける。
「着きました」
「……」
「友達はどちらに?」
「……しらん」
「ここは広いから大変ですよ?
私も探すの手伝いますから、安心してください」
正直この人からは、なにか得体の知れない、よくないものを感じる。
でも、お祖母様と話している時の、あの優しい声が忘れられなくて、私は戸惑うばかりだった。
門を抜けて、出店近くまで来たところで、私はさらに戸惑うことになる。
偶然にもハル兄様がいたのだ。
しかも、少女とべったりで楽しそうに、少女の目は、恋する乙女の目だった。
私は走り抜けた、そして兄様に懇願した。
「兄様は!兄様は変態です!!」
「っ!?マナ、さん?」
「わかってはいました!
いつかこんな事になるんじゃいかと!
いつも私の胸をいやらしく見てはサイズを聞いてきたり!
夜に楽しそうに全裸でなにかの儀式のようなことをしているのも!
それでも、こんないたいけな少女にまでも
....法を犯してまでも少女を犯すことをわたしは見過ごせません!
どうかいまならまだ!まだまにあいます!」
沈黙の後、どっ!っと笑い声がおこった。
周りのひと達が、なぜかみな、死にそうなくらい笑っている?
「マナさん?ちがうんだよ。
最初から説明するからさ、とりあえず、落ち着こうな?」
兄様からの話は信じられない事が多かったが、兄様の友達の岩本さんもいて、
詳しく話してくれた。
「そうでしたか。
それはみな様、ご迷惑をおかけしました」
落ち着いてみると、少女は確かに、普通の人間ではなかった。
それに、兄様の周りの人たちからも、同じものを感じた。
「私をおいて、いなくなるな……」
「あ!ごめんなさい!
兄様、紹介いたします。
ご親戚の伯爵です」
「こんばんわ」
伯爵は、綺麗なお辞儀をして、兄様をみた。
「う……こ!こんばんわ」
兄様は、怯えた仔犬のような目で震えている。
「おう!久々じゃの〜ヴラド!
元気にしとっとかあ!?嫁さんも一緒か?」
「久しぶりだなサガミ。
妻は先日いってしまったよ」
「そうか。
儚いのう人の世は……」
派手な着物の女性が、伯爵と親しげにはなしている。
きっと友達というのはこの人なんだろう。
「探してたお友達ですか?」
「ああ、礼をいう」
「さあさあ!
役者もだいたいそろったことだしのお!
花見の宴じゃああ!!
料理と酒を存分に味わい!
音楽に酔いしれる!
今夜は無礼講じゃぞ!
さあ騒げ!!」
宴がはじまった。
兄様の音が聞こえる。
「そいじゃ!
おいらもいっちょ!」
二人の二重奏は、古いこの国の歌から、異国の歌まで、自由に鳴り響く。
海の歌から山の歌。
タンゴにフラメンコ。
シューベルトからバッハ。
美しく、心躍る。
「絶品だろ?
先輩もたまには店に顔だしてくれよな」
「……っ!?」パクパク!
「ハル……楽しいおと」ニコッ
「アマダイを用意してくれって、
言ったじゃないか!?
僕は白身がすきなんだよ!」
「ムシャムシャっマグロうめえ」
「そういやさ〜、誰かいなくね?」
「ああ!そういや、
どこいったんだろ?
そのうち来るでしょ!
途中まで一緒に来たし」
「あんたらが昔の事ほりさげるから、スネちゃったんじゃん。
あれは泣いてたね!また殿がなかせたね!」
「俺のせいかよ!?
あいつはメンタル弱すぎなんだよ!」
「そうっすよね?
すぐにすねるから友達すくねーんだよ。
あいつは!ってあっ!!」
「うわーーん!!」ビューン!
「……つれてきますね」
「ねえねえ!
ノブノブ次は団子〜」
それからも、見知らぬ誰かが増えていく。
それが何者なのかはわからない。
いったい、どれだけのものが集まったのだろう。
不思議な光景
人と彼岸の向こう側の住人達が、
入り乱れ笑いあう。
月は大きく、
花の宴を照らしていく。
花は力強く、
人の世を見守っている。
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