第12話 十一杯目✿戦国のトリオ
月が高くなり、夜の桜はより一層美しさを増す。
広い公園内は、祭り用の提灯と、ライトの淡い光で、その夜を彩る。
まだまだ祭りは終わらない。
仕事帰りのサラリーマン達。
家族や若者達。
彼岸のもの達もまた、集い初めていた。
ひときわ景気のいい声で歩く、
三人の男
「いや!マジですんませんでした!
殿が死んでくれると都合よかったんです!
こいつと【ミッチー】と三人で相談して!
その!やっちゃいました!
マジですんませんしたー!」
オリーブ色のスーツに、草色のネクタイ。
背の低い猿顔の男は、美しい姿勢で何度も頭を下げた。
「いやー!俺もあの後まさか天下とるとは思いもしなかったっす。
なんかその〜、いっぱい我慢したし〜。
もうとっちゃってもいいんじゃね?
ってミッチーもあおるから〜やっちゃいました!
なんか天下取って?ごめんなさい」
藤黄色(しおういろ)のスーツに、金ネクタイ。
やる気のない顔で、垂れ目の優男も頭を下げた。
「お前ら、毎回会うたびにそれいうのやめない?
もういいからさ!!
なんか俺がかわいそうなヤツみたいになるから!
いいから!もうやめて!」
赤スーツに、黒ネクタイ。
面長で切れ目、髭をはやした男は、両手で赤くなった顔を覆っている。
もう一人いたのだが、この状態に突入すると、涙ながらに人ごみの中へと消えていった。
三人が同じような会話をしながら歩いていると、大きな枝垂れ桜がみえた。
黒い着物の女と白猫がくつろいでいる。
「おお!!きたか三馬鹿!
久しいな!
【ノブノブ】!
【ヒデ】!
【イッチー】!」
女は機嫌良く手をふる。
「姐さん!さがしましたよ〜。
ていうかイッチーがちゃんとあやまんないんすよ!
自分は悪くないみたい!
みたいなこといってなんかかんじわりーんすよ!」
「いや!あやまったじゃん!
いつまでもうるせーよ!このサル!」
「サルって!またサル!
っていった!この腹黒タヌキが!」
「だからもういいっていってんじゃん!
俺がいいっていってんだからいいじゃん!
なに!?なんなの?嫌がらせしての?
君たち焼き討ちされたいの?」
「あいかわらず仲がいいんだ」
「クロウ先輩お久しぶりっす!
先輩もこいつらにいってやってくださいよ〜」
「殿はそうやっていろんな神様には媚びうるから〜。
死んだときとかも大変なんすよ。」
「あ〜ん!?
べつに媚びうってね〜し!
うった事すらねーし!!
クロウ先輩にクロウ先輩ってべつにおかしくねーし!」
「がきかよ」
「がきじゃね〜し!?
オレ生まれてからこのかんじだし!
最初から立派な毛が生えてたもん!!」
「ほらすぐそういって。
自分のわるいとこみとめーから裏切られるんですよ!!
そんなだから浅井とか妹まで嫁いだのに裏切るんだよ!」
「ながまさ君は……そんなんじゃない!!
まわりに……だまされた……だけだもん」
「おいイッチー!殿がかわいそうだろうが!!
ないちゃうよ?
殿泣いちゃってもいいの?
殿泣いたら火の海だよ!
第二の比叡山みたいなことになるよ?
会社員も人妻もみんなやっちゃうんだよ?
この人ってほら、わりとすぐやっちゃうようなクズじゃん?
もう死んだときすげーうれしかったもん。
だからさ。やだよね?
だからみんなでやっちゃったんだもんね?
あやまろ?な?全部私のせですって……ね?」
「おまえもなああああ!!」
ドタバタ
「「はあはあ」」
「そうじゃ、今年のじゅんびはのお。
なんとクロウの家のものがやってくれるぞ!!
もう直ぐくるころじゃて」
「まじすか!楽しみっすね〜!
やっぱりかわいいボインちゃんなんすか?」
「残念じゃが男じゃ!」
やる気のない狸顔は、残念そうにうなだれる
「ヤロウかよ!萎えるわ〜」
「このアホ!恩知らず!
せっかく準備してくれんだから感謝ぐらいしろや!」
ポカ!
「なんで!?なんでおれ!?
いつもこうだよ!?
殿はこんなんだから裏切られるんすよ!」
「てめえまた!
人の傷口えぐりやがってこのサルがあ!」
ドタバタ!
「まあまあ!
それくらいにせんか?
さっそくきおったぞ!」
人ごみの中をかきわけて、役者は揃いつつあった。
「うわ〜なんか増えてる」
元は天下の三英傑とも名高い武将だとか、
そうじゃなかったとか。
どこでも喧嘩しながら、
いつも一緒な彼らは、
高天原でこう呼ばれている。
【戦国のトリオ】と。
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