第7話 六杯目✿群衆の中の猫

 

 黒池の着物に桜と盃の絵。

 白い髪と整った顔立ちには妖艶さがあり、笑顔は少女のように幼い。


 満開の枝垂れ桜の下に、綺麗な白猫と話している姿は通常は目立つ。

 だが彼岸の向こうにいる存在は、こちら側の人間には認識されづらい。


 人々の無意識の中にしかそれはとどまらない。


 「遅い!何しとるんじゃあ!!」


 盃をいっきに飲み干して、また注ぐ


 「まあまあ、ゆっくりとしていようじゃないか。

 あれでも俺の一族のものなんだろう?

 約束はちゃんと守るさ。

 特に女との約束はな……

 風森の女たちはこえーからなあ。

 しっかり教育されてるだろ」


 ペロペロ


 綺麗な白猫は、毛づくろいをしながら間抜けな格好で話す。


 「今の当主は小夜か……

 元気にしとるのかの?

 あれは気の強いやつじゃが、孫には甘いのではないか?」


 「この姿で顔見せたら、野良と間違えて追いかけっこだ。

 あれは長生きするな。

 まったくあの妖怪ババアめ。


 若い頃はボインボインなボインちゃんでかわいかったのに

 ……まあお前ほどじゃないがな!」


 ペロペロ


 「ま、また、おだておって!

 恥ずかしいではないか……」


 「ああ、お前はいつだって可愛くて、綺麗さ。

 俺が全てを捧げる愛するものだ。

 

 何百年でもかわらない。

 お前に寂しい顔は、二度とさせないさ。

 まあ、風森の女たちには借りがあるし。

 あの坊主は助けてやらねえとな」


 白猫は、女に優しく寄り添う


 「……」


 女もまた、白猫を優しく抱きしめるのだった。


 ✿✿✿✿風森家本家✿✿✿✿


 「真紀、伯爵からの文です。

 お姉さまが、亡くなったそうです。

 一度こちらにくるようです。

 すまないがマナを呼び戻しとくれ」


 「お母さん……

 次の代はあの子にきめたのですね」


 「ああ、わたしもそろそろだろうね。

 これからのことはあの子に託します。

 どうか支えておやなさい。

 早速文を」


 「えっ!?……あの〜……電話しますね。

 その方があの、早いですし」


 「……」


 「……」

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