第6話 五杯目✿カフェマリンブルーのマスター

 〜マスターの視点〜


 

 私の仕事は喫茶店の【マスター】。

 ここは【カフェマリンブルー】。


 コーヒーを愛する無口で、イッツ!クールな私。

 その愛する家族で、切り盛りしている喫茶店だ。


 正直いってうちのコーヒーは美味い。

 しかし場所が住宅街で、近くには幼稚園やら学校くらいしかない。


 いつも主婦層のお客様中心である。

 伊達な男は寄りつかないし、女達はみなコーヒーそっちのけだ。

 妻の作るデザートを頬張りながら男の私にはわからないはなし。

 つまりは歯の浮いた話題を話している。


 「マスター!季節のチョコパフェ!」


 「私は、チーズケーキとアイスティーください」


 「……」 ぺこりっ


 何かが違う!もっとこう!あるだろう!

 ここはコーヒーを愛するこの私がいるのだぞ!

 かつては全日本バリスタで、優勝までしたこの私が!!


 こんなはずではなかった!


 元々渋いダークチョコレートの壁は今はグリーン!

 グリーンだとお!?あらかわいいお店ね✿じゃねねえよ!

 古い西部劇映画のポスターが剥がされた時。

 私の中の男らしさが死んだような気分だった!!


 しかし私は婿養子。

 肩身の狭いことなかれ主義なのだ。


 「パパ!あまいのちょうだあい!

 あとおれんじじゅーす!」ニコニコ


 「……」にこ


 なでなでっ


 娘よ!お前まで!

 まあ子供だからゆるしちゃうけどね!

 パパがジュースいれてあげるからね!!

 チクショー!!!!可愛い!!


 カランカラン


 「マスター!

 おひさしぶりです!」


 なっ!!なんでこいつらが!!!

 ああ!お腹痛くなってきた!!もうやだ!!

 いきなりこいつがくるとビックリして胃痛を起こすのだ。

 しかも昨日もきたし!


 「なんだよ、少し寄ってくって先輩のとこかよ」


 「センパイ?誰が?」


 「まじかよ……

 ここのマスター俺らの一個上の先輩だよ。

 覚えてねーのか?」


 「つーかお前、さんざんやらかして」


 「へーそっか!

 まあ、何かのご縁ですかね?」ニコニコ


 このやろう!!忘れてたのか!!

 やっぱりこいつは、昔からそうだこの悪魔め!!


 ✿✿✿✿マスター中学2年始業式✿✿✿✿


 「〜であるからして〜

 新入生の、模範となるよう上級生はふるまうように!以上!」



 私が初めてあの悪魔にあったのは、中学2年生のころだ。


 私の学校は、県内でも名の知れた古い学校。

 一昔前までは男子は全員丸坊主!

 などという厳しいところだったという。

 それもそのはずだ。

 今では暴対法などで厳しくなったが、当時は違う。


 学校の周りにはいわゆる"本職"のひとが多くすんでいた。

 その家族や周りの店もその関係者ばかりだった。


 通称!本職育成学校なのだ。


 始業式もおわり、教室に戻る途中の渡り廊下。

 早速三年生の不良にだれか囲まれてる。

 今では見なくなったが、改造制服をきているまさに"ヤンキー"達だった。

 

 目立つ新入生に目をつけて、ちょっかいを出している。

 いわゆるパシリにするためだろう。


 私は中庭を眺めているように見せかけ横目でみる。

 三年生に絡まれてる、そんなかわいそうな新入生を。


 2年生というのは完全に!3年には逆らえないのだ!

 ゆるせよ!


 それが初めてあの悪魔をみたときである。


 まずどう見ても一年じゃあない!!

 身長は俺よりでかい。

 175くらあった。


 顔つきが少しハーフっぽい。

 とても色白でスゲーイケメンだが、20歳くらいでも通じる。

 そんな変な落ち着きがあった。

 髪が赤茶で一年なのに制服は着こなされた改造制服。

 転校生かと思ったぐらいだ。


 「なんだその頭!?

 おめーは一年だろ?

 今日からパシリ決定!!」


 ゲシっ!


 ああ、かわいそうに。

 早速蹴られて背中に靴跡がついてる。


 ごめんよ!かわいい後輩よ!


 そいつは背中をけられてもなにもいわず。

 とことこと近くの掃除用具ロッカーにむかって行った。


 ギイっ


 なぜか掃除用具をガチャガチャあさっている。

 現実逃避か?


 しかし急に振り向き、掃除機を持ってこちらに走ってきた。

 あの涼しげなイケメンくんの面影はない

 般若!?


 ブン!!


 ゴツ!! ガン!!ブン!!ドゴ!!


 掃除機が壊れるまで、そいつは振り回し続けた。

 般若みたいにおっかない顔で、笑いながら。


 三年生は五人ほどいて、いわゆる番長みたいなグループだった。

 だがもうボコボコで泣いてる奴もいた。


 私が初めて、こいつに関わりたくないと思ったのもこの時である。


 関係のない、私までボコボコにしたからだ。


 それ以来だ。

 いろんな学校の不良が、何度か喧嘩をふっかけたようだった。

 全員もれなくやられたようだが。


 何故か私は何度も巻き込まれた。


 そういえば、この学校での新しい名物が生まれたのもこの時からだ。


 休み時間になると廊下の人混みが割れ、真ん中を歩いている男がいる。

 その様は、まるでモーゼが海を割ったようにみえた。


 ✿✿✿✿カフェマリンブルー✿✿✿✿


 「マスター!ホットコーヒー!」


 「っ!?」速攻ぺこりっ


 「うーん。

 マスターのコーヒーは格別に美味しいですね。

 苦味と酸味のバランスが素晴らしい!

 それにこのアロマはいったいどうやったらでるんですかね?」ニコニコ


 「……」ぺこりっ


 悲しいがこいつは私のコーヒーの良さをわかっている。

 数少ない常連なのだ。

 しかもまだ私が東京で修行しているときからの。


 「そういえば!

 これから花見するんだけどマスターもきませんか?

 食器とか少し貸してくれるとありがたいんですけど。」


 「……」いつものぺこりっ


 スタスタっ


 カランカラン


 私は、外の看板をクローズにかえた。


 無口でイッツ!クールな、コーヒーを愛する男


 私はカフェマリンブルーのマスター


 私のコーヒーを愛する常連さんを大切にするのだ。


 そして、


 肩身の狭い、


 ことなかれ主義の婿養子でもある。

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