第5話 四杯目✿拝み屋のがんちゃん

 〜拝み屋のがんちゃんの視点〜

 

 僕の仕事は【拝み屋】。


 古い友人は【がんちゃん】なんて呼ぶ。


 住居としている家の横には本殿がある。

 信者の冠婚葬祭、後は厄払いなどなんかをするところだ。


 先祖代々この場所に住んでいる。

 一族総出の稼業としているため、僕も子供の頃から手伝わされてきた。

 まあ普段のやることといえば掃除くらいなのだが。


 一度は稼業も継がずに都会にでた。

 ギター馬鹿の親友の家に転がり込んで、自分探しの旅をしたものだ。


 あの馬鹿との出会いは中学の入学式だった。

 なんか隣の席のやつらが式中に、駄菓子片手に抱き合っている。

 どん引きだったよ僕は


 「君たち座りなさい!!」


 「オレタチ、トモダチ」ガシ!!


 「こら!!」


 がつん!がつん!


 あ〜かわいそう。

 馬鹿なやつらだと思っていた。


 「なあ、めがねのおまえ」


 僕は、まわりを横目でみたのだが、どうやらメガネはぼくしかいない。


 おかし〜な〜こわいな〜と思って隣を直視した。


 「……ヘミングウェイ」真顔


 「ぶ!……ぶははははは!!!

 ひいいい!!ははははは!!」


 正直つぼったよ。

 まったくもって理解不能なネタでせめてこられたからね。

 そしてぼくもめっさ怒られたのだよ。

 まあいい学生生活だったよ。


 しかしいつしかは誰かがこの稼業を継ぐ時がくる。

 たまたまそれが僕しかいなかったわけである。


 いつまでも遊んではいられないからね。

 東京からかえってきてからの久々の拝み屋家業。

 正直かなりまいっていた。 

 特にあの事件があったときは、もう身も心もズタボロだった。


 日々の疲れで憔悴しきっていた僕に救いをくれた人。

 それは当時付き合っていた彼女だ。

 まあ、今は隣で眠っている嫁になった人だ。


 拝み屋といっても、物語に出てくるような凄腕ではない。

 波あ!!……とかやっても屁くらいしかでないのが現実だ。


 僕にはみえることはあるが、お祓いやらお守り作りの才能。

 そんなものはお世辞にもあるとはいえない。

 それでも日々勉強して、知識だけには自信がある。


 才能といえばあのギター馬鹿の友人の妹はどうしているだろう?

 あそこの家は女系がすごい人ばかりだ。

 それになかなかのボイン揃いだ。


 話が逸れた。

 健康的な日焼けした肌。

 この可愛らしい笑顔。

 僕の人気で、信者は少なからず増えている。


 今年も祭りの季節がきた。

 

 きっと友人の誰かが僕にたよってくるのはめにみえている。

 ならば、先に準備をしておく方がいい。


 花見の神器と呼ばれる大敷物を探すとしよう。

 僕は布団からでて着流し姿で本堂に向かう。


 それにまだ夕飯前だというのに、嫁をだべちゃったからね。

 嫁は疲れてしばらく起きないだろう。

 新婚さんはお盛んなのだ。


 また話が逸れた。

 祭り期間は信者はみなここへは来ない。

 その事をを思い出した僕は魔がさした。

 人知れず趣味に没頭することに。


 「悪霊め!私が相手だ!

 ♪〜無敵の〜おとこ〜♫おうぎ〜♪

 んふ〜ふふふーん♪波っ!波あああー!!」


 某宇宙人の必殺技のように、両手を突き出した!!


 プ〜……


 チクショー!!屁しかでねえ!!

 僕にはできないのか!!


 「がんちゃん〜!いるかい?」


 !?


 「お!?なんで!?

 っこうちゃんくるなら電話くらいしなよ。


 それに……なんでお前がいる。

 このケツ毛ぼーぼーギター馬鹿」


 「がんちゃん……

 ケツ毛アタックしたの、まだねにもってんの?」


 「……このやろう!!!

 僕はお前のせいで体毛恐怖症になったんだぞ!

 髪の毛以外の毛を見ると、お前のゲスい笑い顔が浮かんで萎えるんだよ!!

 ってきけよ!鼻ほじるな!!っ殺す!

 今すぐ!呪い殺す!」


 「まあまあ、がんちゃんさ!

 花見しようぜ!花見!」

 こうちゃんは相変わらずニコニコし、話題をずらす。


 「いきなり来て君らはあいもかわらず僕を巻き込んで。

 またわるだくみか!!ってベルトを外すな!

 ケツをだすなああ!!!」


 「ほら、久々にみんないるんだぜ!

 って......わりい」


 「……ああごめんな。

 嬉しくてついな。

 事情は後でアナすけど、とりあえず敷物とか?

 積んでいこうよ。」


 「アナッ!?

 てめえ……やっぱりわざとだろ!?

 ああん!!?」


 「そういえば!

 がんちゃんの好きな寿司ネタ揃えたぜ!

 天然物好きだろ?」


 「ああ!僕は寿司が大好きだ!

 どうせいまから敷物を探すとこだったんだ!

 ついでだ、そのかわり甘鯛をたのむぞ!」



 僕は拝み屋。


 嫁と命は大切にいただくのだ。


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