第4話 三杯目✿赤屋根の家

 〜ハルの視点〜


 たただれた仲間の一人。

 寿司屋のこうちゃんとともに、

 料理の材料やらを車に積み込む。


 「こうちゃんありがとう。

 でもこんなにいいのか?

 俺……金はあんまり持ってないよ……」


 「いいっこなしだ!

 こんなにいい米と酢もらったんだし!

 きにすんな!ある程度は仕込みも終わったから、

 あとは現地調理だな」


 相変わらずこうちゃんはいいやつだ。

 俺らが中学の時からの親友で、クラスもずっと一緒だった。

 別々の高校にいってからもバンドでは一緒だった。


 本当の親友というのは、何年ぶりに会っても、まるで昨日も会ったかのように、当たり前に接してくるのだ。

 それは、とてもうれしいことだった。



 「帰ってきているって聞いてたけどな〜。

 こうもいきなり花見するなんてお前らしいな。

 ところで、がんちゃんにはあったのか?」


 「いや……しんちゃんがいなくなった時に、

 電話で話したきりだ。」


 「そうか……じゃあ会いに行くか!

 あいつのとこの本殿の物置に、確か敷物とかいろいろあったんだよな。」


 「そうだな、俺も久々に会いたいよ」


 2人で少し寂しい顔をしながら車を出した。

 走り出して五分ほどの橋の近くで、こうちゃんは車を止めた。


 「おい……

 あれ……覚えてるか?」


 車を止めてこうちゃんが見た方向をみた先。

 一軒の赤い屋根の家がある。

 俺はすっかり忘れていた、あの日の出来事を思い出す。


 ✿✿✿✿中学一年の夏✿✿✿✿


 中学に入って部活にも少し慣れていたころ。

 夏休み1日目のこと。

 俺の部屋には、三人のクラスメイトがいた。


 寿司屋のこうちゃん

 拝み屋のがんちゃん

 発掘屋のしんちゃん


 そして俺の4人でとりあえずうちに集まったのだ。

 当時はクーラーもなかった俺の部屋。

 半分壊れた扇風機を回しながらの会議がはじまった。


 「それにしてもおまえんちは相変わらずだな……もう慣れたけど」

 メガネのがんちゃんを中心に会議ははじまる。


 「ああ、お化けでるってんだろ。

 俺なんか生まれた時からだからな。

 ああ、またか、くらいだよ。

 それにさ、俺には音は聞こえるけど滅多に見えないし」

 


 「それってマジで?

 俺はみたことないからな。

 うそくせーって思ってたんだけど」

こうちゃんは俺とがんちゃんに疑いと好奇心のまじった視線をおくる


 「はは!俺も、信じない!」

 しんちゃんはこうちゃんと同じ意見だった。


 俺は兄の部屋から拝借した、大人の本を読みながら答える。


 「まあ、あんまりきにすることでもないしな。

 っ!?(まじかよ!これからは高画質でうすうすなD○Dだと!?

 ああ我が青春のテープたちよさらば!泣)」


 「やっぱ信じないよな。

 とかろがいるんだよ、お化けは!

 そして君たち普通の人たちでも見えそうな!!

 面白いところを見つけたんだよ!


 あそこは面白いぐらいでそうだぞ!

 確かに、この家も普通じゃないが、しっかり予防してあるし。

 よほど感覚が鋭くないとなんもないし……

 てことで夏休みの第一弾肝試しをはじめる」

 がんちゃんの提案は肝試しだった。


 「きたーーーーー!!

 さすがは拝み屋の息子!

 で!?どんなとこ?」

 こうちゃんが立ち上り歓喜し、がんちゃんは応える。


 「昔からかよってる信者の人の家族の家。

 らしいんだど、ずっと手付かずでさ。


 結局うちで管理することになってもうかなり経つらしい。

 親父もあそこに近寄るなって言ってたし。

 これはやばいでしょ!そして鍵もあるのだ!」


 「「おおーー!!!」」パチパチ


 変にやる気になったみんなをよこめに俺は二冊目も熟読したいと思っていたのに。

 結局は空気にながされてしまい、すぐに出発した。


 「……ここか」

 おれは家をみてつぶやく。

 それは一軒の普通の家だった。


 橋の横にたった一軒だけある。

 赤い屋根の家。


 壁はカーキ色で二階建てで、玄関横にポストがある。

 雨風にさらされて、くたくたの新聞がささっていた。


 俺たち4人は好奇心でワクワクしていた。

 玄関の曇りガラスから中を覗いたが、日が傾きかけた夕方は薄暗い。

 家の中はあまり見えない。


 「鍵開けてみる。

 ちょいまっ!?

 ……空いてんだけど……」

 がんちゃんが不思議そうに振り返った。

 なぜか鍵が開いていて、俺たちはすんなり家に入ることに成功。


 中は普通の家だった。

 居間らしき畳部屋の隣は、寝室みたいな部屋。

 襖でしきるような作りだった。

 寝室には布団が綺麗に積まれている。

 埃もなく小綺麗な室内を俺たちは眺めていた。


 「これ……東京オリンピックの……」


 そういって、しんちゃんが指差したのは先には、綺麗に置かれた新聞だった。

 記事は東京オリンピックのものでかなり古い。


 ドンっ!!


 いきなり二階からものすごい音が聞こえて、俺たちは石のようにかたまった。


 みんなでそろそろとあつまり、静かに歩いく。

 恐る恐る二階に続く階段を見上げた。

 二階の部屋の障子紙が見えた。


 二階だけかなり風化していて、黄ばんで穴だらけ。

 一階に比べて風化具合が違いすぎた。


 俺はその時きがついた。


 来年は2000年になるよな?なんかへんだ。


 家の中は人が生活できるくらいきれいなのに変だ。

 東京オリンピックの新聞や昭和モダンな家具。

 おもちゃなんかも今の子供が遊ぶにしては古すぎる。

 いったいいつから空き家なんだ?

 いみがわかんねえ!


 ドンっ!!!!


 さっきよりでかい音がした。


 ズルズル…………ドンっ!!!!!


 …………ズルズル…………ドンっ!!!!!!


 なにかを引きずる音も聞こえる。

 その音は二階の廊下から、一階の階段に近づいてきている。


 俺たちはもう全然動けなかった。


 さむい。

 すごく寒い。


 そういえば、今は夕方だけど真夏でこの寒さは異常だ


 ドンッ!!!!!!!

 ズルズル…………ドンッ!!!!!!!!!


 その音はすぐ近くまできていた。

 そしてとうとう階段まできた。


 俺はみた。


 真っ黒い人の形をしたそれが、こちらに手を伸ばしてきた。


「…………」


 全員なにも叫ばず、ただ無我夢中で逃げた。

 走って走って、やっとの事ですこし離れた公園についた。


 「はあはあ、みた!?」


 俺が聞くと、みんなすごい汗で何度も頷いた。


 「今日はもう帰るわ……」


 俺は重い体で歩き出し、皆もそれぞれ帰宅した。

 それ以来無意識にかその家の話題は出ることがなかった。


 ✿✿✿✿車中✿✿✿✿


 「覚えてるか?あれ。

 空き家だと思ったら人住んでてな、まじであせったよ。


 ほっそいばあさんがでかい口あけて。

 血走った目でこっち見てきてさ。


 あれ多分足の悪いとしよりだったんじゃねえかな?

 あるけないからはってたんじゃね?

 まったく家族はどうしてんだよ。おとしより1人家に置いてくなんてよ」

 遠い目でこうちゃんは話した。


 「そう……だな」



 こうちゃんにはだまっていよう。


 俺の家から学校までは、赤い屋根の家近くを通る。

 俺は何度かあの後に確認していた。


 あの家は俺の知る限り、あの事件以来15年は誰もいない。

 ただの空き家だ。

 きっと生きてる人間は、そのずっと前から誰もいないだろう。


 相変わらずなにも変わらずただそこには、赤い屋根の家があるだけだ。



 今も変わらない赤い屋根、それをバックミラーに見る。


 俺たちはもう1人の親友の元へと向かううのだった。


 

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