第3話 二杯目✿寿司屋のこうちゃん

 〜寿司屋のこうちゃんの視点〜


 俺の仕事は【寿司屋】。


 みんなからは【こうちゃん】で通ってる。


 朝は早いし、技術を覚えるのは大変だ。

 何より厳しい世界だ。


 親方はよく俺を殴ったが、面倒見のいい人だった。

 できの悪い弟子の俺を見捨てずに育ててくれた。

 一人前にしてくれた恩人だ。


 ✿✿✿✿修行時代✿✿✿✿


 ゴツんっ!!


 「いてえな!くそオヤジ!っ!?

 あ!すみません!!違うです、親方!!痛!!

 すみませんでした!!」


 「てめえは緊張感がたりねえ。

 人様の口にいれるもんだ。


 ただ出せばいいのか?違うだろ?

 お客の顔を、体、どんな顔してるか。

 話し方、ちゃんと見極めろ!


 病気だったり妊婦だったり、子供だったり色々なんだよ。

 お前しかできねえ。お前がいい。

 そういう風にお前をみとめてくるような仕事をしろ。

 

 だけどな!じぶんはすげーとか頑張ってます!!

 なんてのは見せちゃいけねえんだ。

 俺ら職人はな。

 それが粋ってもんだ」


 それが粋ってもんだ。

 決してすごい技術をすごく見せない。


 いつもにっこりスマイル。

 スマートに仕事をこなしていたのが親方だった。


 俺には厳しかったので、なんどか本当に殺されるんじゃないかと思った。

 少しちびった事も懐かしい。


 そんな俺の学生時代。

 凄腕のギター弾きの親友に影響されて、

 ドラムを叩いていた。

 そいつとは中学からの付き合いでまあ、

 腐れ縁ってやつだな。


 あいつとであったのは入学式だった。

 式の最中、隣の席のやつが話しかけてきた。


 「オレ、オマエノ、トモダチ。


 コレ、クエ、イチゾクノオキテ。」


 とかいって、10円の駄菓子を渡してきた。


 「オレ、オマエノ、トモダチ。


 ソレ、クウ」


 入学式中に熱い抱擁をしてめっさ怒られたけど、

 俺たちはトモダチになった。


 見た目がやる事と違うもんだからすぐになかよくなった。

 しかも、なぜかやたらと俺にだけ駄菓子を食わせたがる。

 まあ楽しい学生生活だったよ。


 高校を卒業してからは米国に渡った。


 金髪の彼女が欲しかったからだ。

 俺は、胸ボインボインの尻バインバインの金髪美女がすきだ。

 美女たちと毎日シャンパンでも飲みながらの毎日。

 お気に入りのバイクで好き勝手に暮らせればい〜いな〜!

 ってなふうに思って、

 卒業式が終わってすぐにアメリカまで飛んだ。


 アメリカでは住み込みで寿司レストランで働いた。

 日本人も何人か一緒に働いていたのだが、なんせアメリカ!

 驚愕のびっくり寿司ばかりで開いた口が塞がらなかった。

 

 初めての研修の講師が、俺でもわかるくらいひどい技術のエセ職人だった。

 ていうか白人だった。


 その頃に俺は、一流の本物の寿司職人を目指すことを誓った。

 金髪美女の事はあきらめた。

 俺は英語がほとんどはなせなかったからだ。


 「オオイエ〜!グッドッグッド!

 イッツあいらぶゆ〜!!カモン!!」


 ハルちゃんに教わった自慢の腰振りダンス。

 最高の愛の言葉でせめた。


 「うわ!なに!?こわ!!

 なんか頭おかしいひといる!!【英語】」


 ってなかんじで、

 いつも照れてんだかいなくなっちまう。

 欧米はもっとオープンだと思っていたんだが、想像とはちがったんだな。


 そんなわけで、金髪の彼女はできなかったんだがいいこともある。

 帰国後すぐに今の嫁さんと出会い結婚。

 まあバインでもぼいんでもねえけど気立てのいい美人だ。


 子宝にも恵まれた。恵まれすぎた。

 なんせ5年で4人だ。

 俺の命中率は高い、あまりにもすぐに妊娠させるので、友人曰く


 "10秒見つめあうと赤ちゃんできちゃう男"


 だそうだ。


 そんな寿司職人会の種馬と呼ばれた俺は、今日も包丁を研ぐ。

 この包丁も長年使っていたせいか、かなり小さくなっていた。


 「♪〜粋なおいら〜は♪〜今日も研ぐ〜♪

 

 んふふ〜ん♫んふ〜♫研ぐべし!!研ぐべし!!研ぐべしー!!!」


 ガラッ!


 「うぃーす!!こうちゃん元気!?」


 「ハッ!!?!!」


 なっ!?あ、あいつだ!!

 全然帰ってこないと思っていたら、最近ひょっこり帰ってきた俺の親友。

 演奏屋でただれた仲間。


 「ん!!おう!どうした?

 急にきたからびびったわ!」


 マジでびびった。


 「ちょっと頼みがあるんだよ。

 こうちゃん。

 祭りの時期で忙しいとこ、悪いんだけどさ……」


 久々にあったと思ったら、しんみょうなツラしやがって。

 こいつはいつもいきなりだ。


 「祭りで客なんかきやしねえよ。

 それに、祭り期間は持ち帰りの予約だけで店はあけねえからよ。

 んで?頼みってなんだ?」


 「いまからさ、一緒に花見しないか?

 それで……料理たのめるかな?」


 寿司屋のこうちゃん「いいぜ」


 「本当に!?

 ありがとう〜!助かるわ〜」


 はふん〜。やだやだあ!!


 正直いまからはきつい。

 持ち帰り客の大量の寿司を握り、全て渡し終えてもうくたくただ。

 本心は今すぐ寝たい。


 でもやるさ。


 俺は小粋な寿司職人。


 客の笑顔が一番大切なのだから。

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