第4話

 その日の午後、俺はタブレットを持って、洞窟の奥で光の石を探していた。


『召喚勇者のための異世界サバイバル講座』という資料によると、タブレットに使われる高純度の白光石(ピスシスル)は、こういった天然のものでもじゅうぶん代替が可能、ということだった。

 しかし、石を見つけるにはかなりの時間と運と根気を必要とするらしく、買った方が早いとも書いてある。


 昔の坑道を捜しても、魔石なんてもう取り尽されてるんじゃないの? と思うかもしれない。

 どっこい、こういう竜脈が走った坑道では、ただのクズ石が時間を経て徐々に魔力を集め、魔石化していたりする。


 俺は資料に従って、タブレットのカメラアプリの設定をいじり、一定以上の光度を持ったものしか映らないようにして、周囲を撮影してまわった。

 こうすると、めぼしい石はすぐに絞り込むことができる。

 すると、あるわあるわ。壁にも床にも、縦横無尽に白光石の鉱脈が走っていた。

 どうやら、エルフがあんまり使わないので1000年間も魔石化し放題だったらしい。取り放題だ。


 ちなみに、ここまで危険な魔物は出てこなかったのかと言うと、じつは今俺のいる場所がちょうど魔物の巣のど真ん中だったのだが、あんまり弱っちいので戦闘描写は割愛した。

 途中からカメラに映るのが、ゴブ、ゴブ、ゴブ、ゴブ、ホブゴブ、ゴブ、そんな感じになってきたのでみんなまとめてイグザイルしてやった。

 ここでいうイグザイルしてやったというのは、たびたび使っているがあれではない、つまり本来の意味ではない、さすがの俺もこんなに食えない。食ったらイグザイルしてしまう。

 というか、戦闘描写に対して何か食ってる描写があんまりにも多すぎる。このままじゃ俺がいつも食ってるみたいに思われそうだ。

 勇者にとって戦闘は呼吸と同じだから、戦闘描写が省かれるのは如何ともしがたい話なのだ。

 ここは連中を屠っている間に、魔石についてちょっと話しておこう。


 魔石が光るのは、別に放射能を発しているとか蛍光物質が混じっているだとか、そういう物理的な理由からではない。魔法的なミステリアスな理由からだ。

 最新の素粒子モデルによると、できたての宇宙は場所によって法則がくっきり分かれていて、完全に混じり合うまで法則偏向性というものを持っていたと考えられている。

 この法則偏向性を維持し、伝達するミステリアスな物質マジックミネラルがこの世界の魔法の素だ。ニュートリノみたいに物質を軽く突き抜けていくので『魔力』と呼んで差し支えない。


 魔力は宇宙のあらゆる場所に蓄積されているけれど、自然の石の中で活性化状態にあると、けっこうな確率で光を放つようになる。

 もっと詳しく言うと、石のガラス質の中だ。地球にも透明なガラス質(珪質)が含まれている石とかがあると思う。

 そのガラス質の結晶構造はアモルファスと言って網目のように複雑な構造をするもので、それがどうやら星座の形を描いている部分があるらしいのだ。


 そこを魔力が通過すると、本物の星座と同調して同じ光を発するのだそうだ。

 なぜ星座と同調するのかは俺も詳しく知らない、魔術の基本原則『似る物同士が性質を同じくする』というやつが働くらしい。


 夏の星座は火の属性を持って赤に光り、冬の星座は天の属性を持って紫に光る。

 春の星座は水の属性を持って青く光り、秋の星座は土の属性を持って茶色に光る。

 ちなみに、風の星座は秋の前半で緑色に光る。ややこしいけど魔法学生は暗記するしかない。


 アヴァロンでは、これらを『星宮相同構造アモルファス』と特別に呼んでいる。長ったらしいので、みんなクリスタルと呼ぶ。一文字も被っていないがクリスタルで通じるから気にするな。


 ところで、白色に相当する星座は実はアヴァロンには存在しないと言われている。地球でも星の光はみんなわずかに赤かったり青かったり色がついているんだ。


 じゃあ、このさっきから俺がせっせと集めている真っ白いクリスタルはなんなのか。

 じつはただの『複数のクリスタルが混じったもの』だ。


 光の波長は赤と青と緑が混じると、白の波長に変化してしまうのだ。

 科学大好き少年が自主勉強のためにググりやすい単語で説明すると、『RBG』、『光の三原色』という。


 俺たちがゲームでなじみのある火の球を飛ばすだの氷を生み出すだのといった機能『だけ』を持った魔法の杖に使われる石は、それぞれ赤や青の色を持ったクリスタルだ。

 こういう単一の機能とそれに応じた魔石を持ったものは古典魔法道具と呼ばれる。

 しかし、現代魔法道具は違う。消費魔力をおさえ、より大型の魔法道具を駆動するために、四大属性の魔法を同時に操る必要がある。


 つまり、『複数の属性の魔力を持った石』が必要、ということになってくる。

 そういうクリスタルは、赤、青、緑、複数の色の光があわさるため、必然的に白くなければならない……ということだ。


 ゴブ、ゴブ、ゴブ、ゴブ、ゴブ。戦闘終了。


 けっこうたくさんの光の石を拾ったので、さっそく鑑定することにした。

 タブレットの蓋を開けて、中から本物の光の石を取り出し、じーっと見比べてみる。


 適当にそれっぽい石をタブレットに入れて動くかどうか確かめてみるわけにもいかない。

 光の石の中には地属性(黄色)と水属性(青色)の2種類だけで白になったのもあって、そんなものをタブレットに入れてしまうと壊れてしまうという。俺は慎重に石を見比べていった。


 あれだ、電気屋さんで同じ蛍光灯でも明るさが全然違う感じのやつがあると思う。なんか分からないけど違う。それを見比べている感じだ。


「あ、やべぇ、目がチカチカしてきた……」


 俺は目頭を押さえて、うーん、と唸った。これは視力が落ちそうだ。


「だめだ……素人にはぜんぜんわかんねー……」


 光の三原色、すなわち『赤』の火(紅火石・エークルシスル)と『青』の水(紺水石・テテニシスル)と『緑』の風(緑風石・デュラニシスル)がほぼ均等にまじりあえば、それだけで純白の光のクリスタルができてしまう。

 残る四大属性のうち、土(茶土石・センシスル)は混じっていてもいなくても、ほとんど変わらないように見えてしまう。逆に混じりすぎると色がくすんで弱い石に見えたりする場合もあるのだ。

 素人に白光石の鑑定は難しい。そのために宝石商みたいな魔石鑑定の専門家がいるくらいだった。ちなみに俺は専門家じゃない。

 ずっと昔にチート級エルフが鑑定スキルのセミナーを一緒に受けないかと誘ってくれたんだけど「そんなせせこましいスキルを身に着けると俺の剣が泣くぜ」とかいってスルーしてた。ごめん、今思うと習得しておけばよかった。


 いちおう、魔力の強さを測定するアプリもダウンロードしておいたのだが、事前にある程度選別しておかないとすぐにMPが尽きてしまうらしい。こういう魔力制御系はダウンロードと同じで、消耗が早い。


 一か八かでそれっぽい石の魔力を測定してみたけれど、充電に使えるレベルの石はぜんぜんなかった。タブレットのような超未来魔法道具に使われる石は、6種類の属性をほぼ均等に必要とする。やっぱり「買った方が早い」というのはその通りのようだった。


 やばい、これ以上続けても、時間とバッテリーの無駄だ。

 1日中作業していたらMP7も消費してしまって、残りMP80になっていた。


 これは町に行って、魔石鑑定の専門家に見てもらわないと不可能だ。俺はそう結論づけた。

 魔法文明の衰退した今の時代、そんな専門家がいるかどうかはわからない。

 けれど、ほらよくあるじゃないか。どこかに滅びた文明が残されたユートピア的なあれとかが。

 探すんだ、タブレットの残りMPは80。80日なら、なんとか生きられる。


 俺は、土魔法で大きなナイロンの布を生み出し、洞窟内に落ちていたほぼすべての光の石を布にくるんで背負い、力づくで洞窟から出ようと試みた(消費MP0.13)。

 凄まじい重量になった。俺の体積よりもはるかに石の体積の方が大きい。こんな重いのは地球でのあのとき以来だ。山道でパンクして困っている軽トラのおじいちゃんを発見して、背負って山を降りてあげたとき以来だ。

 この話をするとみんな背負ったのはおじいちゃんか、それとも軽トラかと尋ねてくるんだが、なんでそんな質問をするのか俺にはよく分からない。だって軽トラだぜ? 軽いから軽トラって言うんだろ?

 勇者の装備もここまでの重量を想定していなかったみたいだ、一歩踏みしめるたびに、ぎしっ、みしっ、と軋んで内蔵されているプロテクト魔法をブンブン発動させ、崩壊を防いでいた。

 そういや俺、この鎧で2000キロ上空から地上まで落下したんだっけ。そのあと、ろくにメンテもせずにここまでやってきた。よくここまで持ちこたえてくれたもんだ。

 もう少し、あと一歩で外に出られる、というところで、出入り口の天井があまりに低くて、俺の背負った荷物がつっかえてしまった。


 くそっ、あと、もうっちょっと、なのに。

 そのときだ、ゴブリンたちが洞窟の奥から飛びかかってきた。ここぞとばかりに動けない状態の俺に右から左から棍棒で猛攻撃をしかけてくる。食ってやろうか。

 あまり派手に立ち回れなかったので、タブレットに魔法陣を描いて、火炎の渦を放って全員灰にしてやった(消費MP0.15)。


 灰にしたあとで後悔をした。

 いかん、冷静になるべきだ。こんな調子で戦うたびにMPを消費していたら、残り80日じゃあとても足りない。

 すくなくとも、まともに戦闘ができる最低限に減らしていくべきだ。

 というか、もし魔石鑑定の専門家のいる町が見つかったら、普通に俺の必要なクリスタルもそこで手に入る可能性があるんじゃないか? なにもあるだけ採り尽していく必要はなかったんじゃないか。


 とりあえず、光の石は最小限にまとめて背負っていくことにした。必要に応じて捨てていくつもりだが、途中で何かの役に立つかもしれない。少なくともゴブ肉よりかは高く売れるだろう。

 常識的なサイズの袋に収めて、ようやく外に出ることができたが、明るい外に目がなれず、しばらく目をしぱしぱさせていた。あたたかいな、太陽の光は。


 オリュンポス山からどんどん降りていくと、ようやく起伏のない平地が目前に見えはじめた。

 アリスフォン=ヴェートラーナの50万魔導師部隊がいた辺りだ。1000年前に俺が高高度飛空艇に乗って、一瞬でその向こうまで降り立った場所だ。

 けれど、今はもうどこにでもあるような野原に変わり果てていた。ひばりが鳴いていて茶色いノウサギがちょこちょこ走っていた。国破れて山河在りって奴だ。

 幻を見ていたかのような不思議な気持ちだった。ぜんぶ幻みたいだ。1000年前の俺たちの戦いを覚えている奴なんて、もうこの世界にはいないんだぜ。

 とうぜん、見送りなどないものと思って振り返ると、なんとちっこいゴブリンが俺を見送っていた。


 洞窟の奥から出てきたのか。可愛そうなゴブリン、親の仇みたいに、俺を涙腺の真っ赤に膨らんだ目で睨みつけやがって……いや、まて。ちがうぞ、あれはゴブリンじゃない。

 どうしてあれがゴブリンに見えたんだ? 光を照り返す白い肌が、逆に黒ずんで見えたのだ。そうとう目が疲れていたらしい。


「チメイズマン! 待って!」


 ちびエルフ、マシュマロマン。いや、マリュリノロアだ。肩にはなにやら大きな麻袋を担いでいた。

 俺をずっと探していたのか。肩を浅く上下させて、額には汗をかいている。運動したせいで、顔がちょっと赤くなっていた。


 い、いかん。いけない、聞くな。立ち止まっちゃダメだ。

 俺は大量に持ってきてしまった光の石を体で隠すように、ロアに背中を向けた。

 あいにく、俺は要塞のごとき強固な精神を持つように訓練されている。一時の感情に流されるようなやわな男じゃない。


「待ってぇぇぇぇ!」


 ロアは耳をつんざくような大声で叫ぶと、ぶわっと目から涙を溢れさせて、山から一気に駆け下りてきた。

 許せ、ロア。俺が勇者だったのはもう昔のことだ、いまは命がかかった非常事態、もうこれしか俺の生きる道はないんだ。

 エルフにとって、この光の石は大事な物なのかもしれない。けれど、俺だってこの光の石がなければ生きていけないんだ。

 一刻も早くこの山から立ち去らなければ。残り80日で、文明社会を見つけ出さなければ、俺はタブレットの魔法を失って、そして……。


「おいて、おい、おいて……おいてかないでえっえぇぇぇぇぇぇぇ!」


 勇敢なロアが単騎で俺に肉薄し、太もものあたりにぴっとりとしがみついていた。

 はずみで肩に担いでいた麻の袋がぼとっと落ちた。中から出てきたのは、なんと、色とりどりのクリスタルだった。


「おまえ……これ、俺のために……?」


 ロアは、俺の太ももに顔をうずめたまま、ぶんぶん首を縦にふった。


 ガラガラガラガラ! ガラガラガラガラ!(俺の強固な精神が陥落する音)

 ガラガラガラガラ! ガラガラガラガラ!(俺の強固な精神が陥落する音)

 ズガガガガガガガシャアアアアアン!(俺の涙腺が崩壊する音)

 ドゴゴゴガガガググッゴゴゴゴッゴゴンゴンゴドンッ!(要塞のごとき精神が一時の感情に流されてゆく音)


 そうかそうか。

 わかったよ、こいつ俺のためにこれを持ってきてくれたのか。寂しかったんだよな。田舎暮らしでしかも単一民族の村だもんな、人との出会いとか別れとか、そういうのをほとんど経験したことがないんだろう。


「いっちゃ、やだ、やだよぉぉ! うわぁぁあぁぁぁ!」


 子どもに泣かれたら嫌とは言えないのが勇者だ。もうどこにも行ける気がしなかった。


「帰るか」


 そうして、俺はついに山道を引き返していったのだった。

 俺は気がついたらロアの頭を撫でてやっていた。さらさらしたセミロングの髪の毛だった。将来は美人になるな、なんて、80日しか残されていない命のくせに考えていた。


 * * *


「1000年前の戦争で、山の外は魔王に支配されているの。勇者だとかいって出ていくと、どんな目にあうか分からないわよ」

「そりゃ知らなかった、気を付ける」


 という訳で、俺は一路、オリュンポス山のゴブリン臭い塔の周辺へと引き返すことになった。

 また振り出しに戻ってしまった。やれやれだ。

 たき火の傍に横たわって、まだぐずぐず泣いているロアの耳をぐにぐにいじくって、泣き止むまで頭を撫でてやって、これからどうすべきか考えていた。


 ロアが持ってきたクリスタルを見てみたけれど、火属性も風属性も、どれも高純度のものだった。

 アプリで魔力を測定してみると、純度99.9997パーセント。工学でも使える驚くべき純度だ。

 ひょっとするとエルフの村には、魔石鑑定の専門家がいるのかもしれない。

 どうにかして部外者の俺が、エルフの村に入る方法はないだろうか?


「ロア、本当に勇者がお前の村に入る方法はないのか?」


 ロアは、ウルフベアー(さっきロアを慰めている間に呼吸をするように屠った)の海老茶色の毛布に顔をうずめ、こくん、と頷いた。


「勇者は、村に入っちゃダメなの。けれど、例外もあって……」


 上目遣いになって俺を見つめながら、恥ずかしそうに言った。


「チメイズマン……村人と結婚したら、もう村人の仲間よ……」

「ああ、そういう手があったか」


 俺はなるほど、と手を打った。


「けれど、ロア以外にエルフの知り合いなんていないし、あんまり現実的な案ではないな……あべしっ!」


 そんな風に考えていると、ロアがげしっと俺の足を蹴ってきた。痛い。

 えー、お前、俺と結婚したいの?


「ち、ちなみにお前、今何歳?」

「えっ、私?」


 びくっとロアの肩が震えた。

 俺から目を背けて、なんだか屈辱に顔をゆがめているようにも見える。

 もそもそ、と俺に背中を向けると、ぼそぼそと呟いた。


「……あと300年待ってくれるのなら、考えてあげなくもないわ」

「うーん。普通に不可能だな、それ」

「……不可能ってなによ、それ」

「普通に不可能って意味だけど……」


 というか、村の誰かと結婚するとなると、そのままエルフの村に永住することになるんじゃないか?

 いや、それは困る。だってタブレットを充電する魔石を手に入れるのは、当面の目標でしかない。

 俺の最終目標は、『俺を召喚した召喚師』を探し出すこと。そして地球に帰還することだ。


「そうか……俺が今から魔法使いに転職すればいいのか」


 こっちの方がよほど建設的なアイデアのような気がした。

 ちびエルフにもらった魔石を使えば、できるかもしれない。

 むかしむかし、古典魔法道具は、単一の属性の魔石を利用したものが主流だった。

 これを材料にして、昔ながらの魔法道具を再現してやるんだ。


 タブレットに古典道具の資料は山ほどある、水があふれる魔法のポットに、タイマー式オーブン、風魔法を利用した通信機、それら文明の利器を作って、エルフの村に持っていけば。

 かつてこの世界を塗り替えた異世界チート級魔法使いにはなれなくても、チート級もどきにはなれるかもしれない。


 ぼったくり精霊の被害にあっている村人たちは、精霊に渡すよりももっと効率的な魔石の使い道に気付くはずだ。

 そうして魔法使いとしてエルフの村に招き入れられた俺は、晴れて白光石を手に入れることができる。……なかなかいい筋書きじゃないか?

 そう漏らすと、ロアは、ケーキを落っことしたみたいな残念そうな顔をした。

 体を起こして、小さな手で俺の頬をむにーっとつねってくる。


「なんで? 300年くらい待てないの? 男でしょ?」

「なんでじゃないよ、普通に無理だよ」

「1000年も待ってたんでしょ?」

「そういう意味じゃないよ。時空魔法でぶっ飛ばされたから一瞬だったよ」

「呆れた、人間ってせっかちね。私とのことは遊びだったのね」


 ぷんぷん、と言って、ぷいっとそっぽを向いてしまったロア。

 せっかく湯たんぽ代わりにしていたのに、湯たんぽに距離をとられてしまった。女の子って難しい。

 だが、俺が寝ずにそのままタブレットで古典魔法道具の資料をあさっていると、寒くなったのかまた引っ付いてきた。

 ロアは俺の顔にほっぺたをくっつけて(画面が見づらい)、少し鼻声になって聞いてきた。


「ねぇ、どうして戻ってきてくれたの?」

「ん? そりゃ、お前が泣いて戻ってきてくれって頼んだからじゃないか」

「だって、タブレットの電池が切れたら、死ぬんでしょ、勇者って」


 俺は、ロアの眼をじっと見つめ返した。

 どこでそんな知識を手に入れたのか。子どもってのは怖いもんだ。

 俺はロアの頭をぐしぐしと撫でてやった。仔細は聞かなかった。その先にどんな困難が待ち構えていようと、なるべくなんでもない風に不敵に笑ってやった。


「勇者だからだよ。いつか死ぬのは当たり前じゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る