1-10 羽田発
折りたたまれた車椅子がトランクから取り出された。
「うちにこんなのあるとは思ってなかったよ」
浩人は三国から受け取った車椅子を広げた。
「最近は、集まる皆さんも高齢だからな。こういう形でお役立ていただけるとは思ってなかったけどな」
三国はすぐに運転席に戻った。
「本当に、ありがとうございます」
車椅子に座った麻子が頭を下げた。
「札幌でのことは同行いたします櫛田浩人に伝えてあります。何かございましたら遠慮なくお尋ねください。では、私はこちらで失礼させていただきます。お気をつけ下さい」
浩人のスマホがメールの着信を告げた。泰人からだ。札幌市営の火葬場、里塚斎場に朝イチで向かうよう手配が出来たと書いてある。里佳の立てた旅程を変更せずに済みそうだ。
「千歳空港、大丈夫です。快晴だそうです」
運行掲示板とスマホの画面を確認した里佳は満足げだった。
「昨日までは大雪の予想だったんですけどね」
浩人は寝る前に見た天気予報を思い出していた。
「私が北海道に行く時はいつも晴れなの」
麻子はにこやかな表情だった。
「羽田空港、すっかり変わったのね」
旅の目的が目的なだけに笑顔は似つかわしくないのではと思っているのは浩人だけのようだ。最初から笑っているような顔の里佳はともかく、久しぶりの旅に麻子の気分も明らかに浮き立っているようだ。
「雪祭りの最中じゃなくてよかったです。雪祭り中は絶対にこんなタイミングでチケット取れないんで」
得意満面だった。
「おい」
浩人がそれとなく注意する。単なる旅行じゃないということ、里佳には何度言っても無駄だった。
「あら、いいのよ、気になさらないで。私、こんなことでも無ければ家を出られなかったわ」
「すみません」
浩人が頭を下げた。
「そんなことしないで。ただでさえ色々とお手間をいただいているのに、わざわざ札幌までついてきていただけるなんて。こちらのほうがお礼を言わないと。それに、田村さんが友香を説得してくれなかったら。ねえ」
「あ、はい」
麻子の口から出てきた葬儀という言葉でようやく旅の目的を思い出した里佳が申し訳無さそうに身を縮めた。
そんな里佳を見て麻子が微笑んだ。
「さあ、行きましょう、北海道へ」
麻子の言葉を合図に、三人は航空会社のカウンターへと向かった。
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