第7話 電話。
「断りの電話はオレがするよ」そう告げると、妻はなんだか悲しそうな顔をした。
マイホーム購入の機運は高まっていた。緩んでいたあかわいん家の絆が、庭付きのマイホームにより再び固く結ばれることを期待していたのだ。
「そうね・・・しかたないよね・・・」残念そうにしながらも、妥協を許せる買い物ではないことは妻もわかっていた。
モデルルームを見学したあとの二日間、ネットで色々調べた。比較サイトや、マンション購入のハウツーサイト、掲示板、etc。そこでわかったのが、多くの人が、購入にあたりそれなりの妥協をしていることだった。
また、妥協をせずに、何年も理想のマイホームを探しを続けている人もいる。地域、間取り、立地、価格、デペロッパー、ブランド、住環境、ゼネコン、駐車場や二重床、ベランダにいたるまで、人によってこだわる優先順位は違うものの、そういった人たちの検討材料はとても勉強になるとともに、自分がなにも考えずに購入を検討していたことを少し恥ずかしく思った。
「もしもし、谷口さんですか? 先日お伺いしたあかわいんですがお分かりになりますでしょうか? ええ。そうです。1階の庭付きプランの部屋で・・・」通勤途中の駅までの道のりを半ばまで歩いたところで電話した。その理由は、電車に乗り込むことを理由にして、通話を早く打ち切る為だった。「今回は、お時間を頂きましたが、検討からはずさせて頂きますので・・・」私は単刀直入に切り出した。
「ご参考までに理由を伺っても・・・」谷口さんの口調は穏やかではあったが、簡単には諦めたりしない様子がうかがえた。
「物件そのものは充分に安心、安全で素敵なものなのですが、周りの戸建て、アパートが近すぎて、せっかくの庭の価値がうまく活かせてないようなところが気になりまして・・・」
「1階、2階はどうしても、隣、向かいの住宅が気になりますからね。それは分かります。でしたら3階の同タイプの部屋が・・・」
話をしている間に駅付近についた。モデルルームの真横を通り過ぎた。数メートル先に先方がいることにも関わらず、電話で断っていることに少々ためらいを覚えた。
「いえ、うちは庭付きしか検討していないので・・・そろそろ電車に乗りますので・・・」計画通りのタイミングで電話を切った。その旨をメールで妻に伝えた。
その夜、私はこっそり建築現場へ向かった。見たところで、妥協点を修正できるわけがないことは分かっていたが、何となく足が向いたのだ。
深夜の現場付近はひっそりと静まり返っていた。風になびく木々の葉音を響いていて、閑静な住宅街の静けさをより一層際立たせていた。
「静かだな」独り言をいいながら一回りして、もう一度部屋の位置を確認したが、やはり、閉塞感は否めず、それを容認させるほどの材料はみつからなかった。
西側の道から全貌を眺めるうちに、当初検討した角部屋の反対側の角部屋の方が理想的であるように思われ、より妥協できないことに気付かされるだけだった。
あかわいん家の決断(中断してます) 陽野 乃在 (ひの だいざい) @redwine1968
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