⑧
「――ハルベル!」
ふいに、衝撃がきた。
体が地に叩き付けられる。息が詰まる。
少女が体を丸め、咳き込んだ。力のない咳だ。
「大丈夫か」
リアードが少女のそばにかがみ込む。
少女は荒い呼吸を繰り返すだけで、何も答えない。
ハルベルは体を起こした。口元を手の甲でぬぐう。
「リアード……お前、何の真似だ」
リアードは険しい顔つきで立ち上がった。
「あれ以上したら、死んでしまう。そんな簡単なことも分からないのか」
「そりゃあ、死ぬさ」
鼻で笑う。
「首を絞めれば死ぬ。人間として当たり前のことだ」
「それが分かっていて、何故そんなことをする!」
リアードが声を荒げる。
「この子の命を奪う権利は、誰にも――」
「……いい」
か細い声がした。
リアードが少女を振り返る。少女は軽く咳き込んだ。
「もう、いい。かばうのはやめろ」
少女がややしゃがれた声でささやく。
「死ぬことを望んだのは、わたしだ。そいつは何も間違っていない」
「しかし」
「もうやめろ」
少女の声は静かで、何の感情も含まれていない。
ハルベルがくすりと忍び笑いを漏らした。立ち上がる。
「なるほど、言ってることは正しい」
ハルベルはそばに落ちていた剣を拾い上げた。鞘にしまう。
「それなら、行動も伴わせろ」
少女が眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「そのままさ」
少女が目を伏せる。
「……お前の言ってることは、よく分からない」
「理解するんだな」
自分の荷物をまさぐる。指が何かに引っかかった。
「お前は、もう寝ろ」
毛布を取り出す。薄い毛布だ。
少しくらいなら寒さをしのげるだろう。少女に向かって放る。
「毛布だ」
少女の細い腕が伸び、掴み取る。
少女は毛布とハルベルを交互に見つめた。
「お前は、どうする」
「何が?」
「お前の毛布をわたしに渡したら、お前はどうやって寒さをしのぐ」
ハルベルは小さく肩をすくめた。
「あいにく、お前とは体のつくりが違う」
少女を見やり、にやりと笑う。
「ひょっとして、心配してんのか?」
「……まさか」
少女が吐き捨てるようにつぶやき、顔を背ける。
「素直じゃねぇなぁ」
くっくっと声を立てて笑う。
その隣で、リアードがため息をついた。
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