「――ハルベル!」

 ふいに、衝撃がきた。

 体が地に叩き付けられる。息が詰まる。

 少女が体を丸め、咳き込んだ。力のない咳だ。

「大丈夫か」

 リアードが少女のそばにかがみ込む。

 少女は荒い呼吸を繰り返すだけで、何も答えない。

 ハルベルは体を起こした。口元を手の甲でぬぐう。

「リアード……お前、何の真似だ」

 リアードは険しい顔つきで立ち上がった。

「あれ以上したら、死んでしまう。そんな簡単なことも分からないのか」

「そりゃあ、死ぬさ」

 鼻で笑う。

「首を絞めれば死ぬ。人間として当たり前のことだ」

「それが分かっていて、何故そんなことをする!」

 リアードが声を荒げる。

「この子の命を奪う権利は、誰にも――」

「……いい」

 か細い声がした。

 リアードが少女を振り返る。少女は軽く咳き込んだ。

「もう、いい。かばうのはやめろ」

 少女がややしゃがれた声でささやく。

「死ぬことを望んだのは、わたしだ。そいつは何も間違っていない」

「しかし」

「もうやめろ」

 少女の声は静かで、何の感情も含まれていない。

 ハルベルがくすりと忍び笑いを漏らした。立ち上がる。

「なるほど、言ってることは正しい」

 ハルベルはそばに落ちていた剣を拾い上げた。鞘にしまう。

「それなら、行動も伴わせろ」

 少女が眉をひそめる。

「どういう意味だ」

「そのままさ」

 少女が目を伏せる。

「……お前の言ってることは、よく分からない」

「理解するんだな」

 自分の荷物をまさぐる。指が何かに引っかかった。

「お前は、もう寝ろ」

 毛布を取り出す。薄い毛布だ。

 少しくらいなら寒さをしのげるだろう。少女に向かって放る。

「毛布だ」

 少女の細い腕が伸び、掴み取る。

 少女は毛布とハルベルを交互に見つめた。

「お前は、どうする」

「何が?」

「お前の毛布をわたしに渡したら、お前はどうやって寒さをしのぐ」

 ハルベルは小さく肩をすくめた。

「あいにく、お前とは体のつくりが違う」

 少女を見やり、にやりと笑う。

「ひょっとして、心配してんのか?」

「……まさか」

 少女が吐き捨てるようにつぶやき、顔を背ける。

「素直じゃねぇなぁ」

 くっくっと声を立てて笑う。

 その隣で、リアードがため息をついた。

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