ハルベルはスープをすすった。

 体がじんわりと暖まる。冷えた体に暖かさが心地よく染みる。

 木にもたれる。軽く目をつむる。

「美味しいか?」

 リアードの声がした。目をつむったまま答える。

「まずくはない」

「お前に聞いてない」

「感想なんて、どれも同じだろ」

「……言っとくが、人の味覚には個人差があるんだ」

「常識だな」

 目を開ける。

 もう日も落ちて、辺りは暗い。色濃い闇は、ハルベルにも見通すことができないくらい、黒く塗りつぶされている。

 ハルベルは少女に目を向けた。

「で、うまいのか?」

 少女は無言のまま、スープをすすった。

 少女の体はロープで直接木にくくりつけられ、手を自由に動かせるようになっている。

「普通だ。初めて口にする味だが」

 ハルベルはスープを一気に飲み干した。椀をリアードに差し出す。

「何だこの手は」

 リアードが眉を寄せる。

「おかわりだけど」

「一杯でやめるか、自分でつげ。ここでの食料は貴重だ」

「育ち盛りなもんで」

「嘘つけ」

 ハルベルが小さく肩をすくめる。

「冗談の通じねぇやつだな」

「応じる気はない」

 ぴしゃりと言い返される。

 ハルベルは差し出した手を引っ込め、小さく吐息を漏らした。

 冷たい風が髪をなぶる。夜の風は冷たい。よく知っている。

 体を凍てつかせ、時には命まで奪う。その残酷さを、身に染みて知っている。

 リアードが細い枝を火にくべた。炎は絶え間なく揺れている。

「食べた」

 少女が椀を差し出した。

「一杯でいいのか?」

「食欲がない」

「栄養は補給しないと。もっと食べたほうがいい」

「おい、俺といってること違うぞ」

「お前は大人だろう」

 ハルベルは木にもたれ、手を伸ばした。ほのかに指先が暖かくなる。

「明日はどうするんだ? また歩くのか?」

「この子を連れては無理だろう」

 ちらりと少女を見やる。

 相変わらず無表情のままだ。何を考えているのか、窺い知れない。

 ただ一つ分かるとすれば、敵意があるということ、それだけだ。

「……お前」

 顔を上げる。

 少女の瞳は、真っ直ぐにハルベルを見ていた。

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