⑥
ハルベルはスープをすすった。
体がじんわりと暖まる。冷えた体に暖かさが心地よく染みる。
木にもたれる。軽く目をつむる。
「美味しいか?」
リアードの声がした。目をつむったまま答える。
「まずくはない」
「お前に聞いてない」
「感想なんて、どれも同じだろ」
「……言っとくが、人の味覚には個人差があるんだ」
「常識だな」
目を開ける。
もう日も落ちて、辺りは暗い。色濃い闇は、ハルベルにも見通すことができないくらい、黒く塗りつぶされている。
ハルベルは少女に目を向けた。
「で、うまいのか?」
少女は無言のまま、スープをすすった。
少女の体はロープで直接木にくくりつけられ、手を自由に動かせるようになっている。
「普通だ。初めて口にする味だが」
ハルベルはスープを一気に飲み干した。椀をリアードに差し出す。
「何だこの手は」
リアードが眉を寄せる。
「おかわりだけど」
「一杯でやめるか、自分でつげ。ここでの食料は貴重だ」
「育ち盛りなもんで」
「嘘つけ」
ハルベルが小さく肩をすくめる。
「冗談の通じねぇやつだな」
「応じる気はない」
ぴしゃりと言い返される。
ハルベルは差し出した手を引っ込め、小さく吐息を漏らした。
冷たい風が髪をなぶる。夜の風は冷たい。よく知っている。
体を凍てつかせ、時には命まで奪う。その残酷さを、身に染みて知っている。
リアードが細い枝を火にくべた。炎は絶え間なく揺れている。
「食べた」
少女が椀を差し出した。
「一杯でいいのか?」
「食欲がない」
「栄養は補給しないと。もっと食べたほうがいい」
「おい、俺といってること違うぞ」
「お前は大人だろう」
ハルベルは木にもたれ、手を伸ばした。ほのかに指先が暖かくなる。
「明日はどうするんだ? また歩くのか?」
「この子を連れては無理だろう」
ちらりと少女を見やる。
相変わらず無表情のままだ。何を考えているのか、窺い知れない。
ただ一つ分かるとすれば、敵意があるということ、それだけだ。
「……お前」
顔を上げる。
少女の瞳は、真っ直ぐにハルベルを見ていた。
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