「つまりお前はこう言いたいのか。今森にいる者どもも例外ではなくこの村を見つけようとしている。そこへ彪刃が現れたと」

「はい」

「彪刃は道案内として捕らえられたって事ですか」

 蘭がたずねる。語尾がかすれて聞こえた。

「おそらくな。そうなると――」

 村長の眉間のしわがいっそう深くなる。

「状況は、かつてないほど悪いということになる」

 蘭が目をしばたかせる。

「どうして、ですか? 彪刃は生きているんでしょう?」

「……お前は何か誤解しているようだな」

「誤解?」

「重要なのは、彪刃の生死ではない」

 ふいに声が低くなる。

 空気が凍る。少なくとも秀人は、そう感じた。

 そう――彪刃の生死なんて、どうでもいいのだ。

 守村掟の死など、たいした問題ではない。

 村を守れるからこそ価値があり、だからこそ存在しているのだ。

 村を守れぬ守村掟などに価値などない。

 村を守る、その行為だけが意味を持つのだ。

 それが出来ない者は。

 目を閉じる。深く息を吸い込む。

 それが出来ぬ者は。

 声がよみがえる。低く重く、抑揚のない声。

 村長の声。

「村を守れぬ守村掟など、忍びは必要としていない」

 はっと顔を上げる。

「重要なのは、村の場所が侵入者に知られていないかということだ」

「侵入者に?」

 村長がうなずく。

「奴らは彪刃からなんとしても情報を引き出そうとするだろう……その前に」

 黒い瞳に自分の姿が映る。

 秀人は膝の上で拳を握り締めた。嫌な予感がした。胸がざわめく。

「始末するのだ。必要とあれば、彪刃もな」

 再び、ろうそくが揺れた。

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