⑤
「つまりお前はこう言いたいのか。今森にいる者どもも例外ではなくこの村を見つけようとしている。そこへ彪刃が現れたと」
「はい」
「彪刃は道案内として捕らえられたって事ですか」
蘭がたずねる。語尾がかすれて聞こえた。
「おそらくな。そうなると――」
村長の眉間のしわがいっそう深くなる。
「状況は、かつてないほど悪いということになる」
蘭が目をしばたかせる。
「どうして、ですか? 彪刃は生きているんでしょう?」
「……お前は何か誤解しているようだな」
「誤解?」
「重要なのは、彪刃の生死ではない」
ふいに声が低くなる。
空気が凍る。少なくとも秀人は、そう感じた。
そう――彪刃の生死なんて、どうでもいいのだ。
守村掟の死など、たいした問題ではない。
村を守れるからこそ価値があり、だからこそ存在しているのだ。
村を守れぬ守村掟などに価値などない。
村を守る、その行為だけが意味を持つのだ。
それが出来ない者は。
目を閉じる。深く息を吸い込む。
それが出来ぬ者は。
声がよみがえる。低く重く、抑揚のない声。
村長の声。
「村を守れぬ守村掟など、忍びは必要としていない」
はっと顔を上げる。
「重要なのは、村の場所が侵入者に知られていないかということだ」
「侵入者に?」
村長がうなずく。
「奴らは彪刃からなんとしても情報を引き出そうとするだろう……その前に」
黒い瞳に自分の姿が映る。
秀人は膝の上で拳を握り締めた。嫌な予感がした。胸がざわめく。
「始末するのだ。必要とあれば、彪刃もな」
再び、ろうそくが揺れた。
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