「……そのくらいの話、良いのではないですか、村長」

 穏やかな声が介入した。

「しかし、秀人」

「良殿だけではなく、蘭様にも村の現状を知っていただくことは決して悪いことではないと思うのですが」

「それはそうだが」

 村長は視線を落とし、腕を組んだ。

 迷っているのだろう。今の村の現状を教えることを。

 決して良くない状況を。今は、この村でさえ安全だとはいえないのだ。

「……蘭、座るがいい」

 蘭がぱっと顔を上げた。

「いいんですか」

「許す。……いずれ、お前の耳にも入ることだ」

 蘭がその場に正座する。

 村長は秀人に目を向け、ゆっくりとあごひげをなでた。

「さて、先ほどの話の続き、聞かせてもらおう」

「はっ。あくまでも私見ですが」

「構わぬ。申してみよ」

 ろうそくがゆらりと揺れる。

 秀人は束の間目を閉じ、息を吸い込んだ。

「森の中に、外の人間がいると思われます」

「外の人間……。昼間排除しそこなったということか」

「はい」

 蘭が大きく目を見開く。

「排除って、どういうことですか」

 蘭の黒い瞳が秀人を捉えた。思わず目をそらす。

「秀人」

 蘭が小さく呼ぶ。声が震えていた。

「……どういうこと? 父さんも、知っているんですか」

 秀人はうつむいたまま、黙っている。蘭の体が前のめりになる。

「ねぇ秀人、答えて」

 声が高くなる。

「それが守村掟の仕事なの? それを彪刃も」

「やめろ」

 村長が蘭の言葉を遮る。

 張り詰めて鋭い声。蘭の動きが止まる。

「聞きなさい。お前が選んだことだ」

 蘭がちらりと秀人を見やり、うつむく。

 村長が小さく吐息を漏らした。

「続けるが良い」

「はい」

 顔を上げる。

「森の中にも外の人間がいる、というのはおそらく確実だと考えられます。森にある脅威と言えば、やはり外部の人間なので」

「それで」

 村長が先を促す。

「彪刃は、その者たちによって捕らえられたのではないかと」

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